相続権を失ってしまう場合(相続欠格)
相続する権利を失ってしまうことがあると聞いたのですが、どのような場合に失ってしまうのでしょうか?
弁護士からのアドバイス
1.相続権を失ってしまう場合ってあるのでしょうか。
相続欠格(そうぞくけっかく)といって、次の場合には、民法上、当然に相続権を失います。
(1) 故意に被相続人(ひそうぞくにん)又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者
推理小説のように、遺産目当てに親を殺害するなどの場合を言います。
死亡するに「至らせようとした」という場合も含まれていることから、殺人未遂でつかまっても相続権を失うことになります。
この場合、殺人の故意の他に、相続法上有利になろうとし、不利を免れようとする動機・目的を有することが必要です。
→ これを「二重の故意」と呼びます。
例えば、殺害することによって、自分が遺産を相続できるようにしようとする目的・動機が必要だということです。
(2) 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者
この趣旨は、被相続人が殺害された時に、告訴告発するのが相続人の義務なのに、これを怠って犯罪の発覚を遅らせたり、妨げたりしたことの制裁です。
もっとも、犯人の配偶者や直系血族(親・祖父母・子・孫のような上下の血族関係)については、親族感情から告訴・告発を求めるのは、かわいそうですから除かれます。
また、是非の弁別(べんべつ)のできない能力の低い人は、そもそも告訴・告発ということを考えられませんから、やはり除かれます。
(3) 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
(4) 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
(5) 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿(いんとく)した者
上記のうち、(3)~(5)は、いずれも被相続人の遺言の自由を妨害し、自分だけ有利に相続関係をすすめようとする行為です。
このような行為に対しては、相続権を奪うという制裁を加えて、被相続人の遺言の自由を保障しようとするものです。
いずれの場合にも、被相続人の遺言行為を妨害する故意に加えて、(3)~(5)の行為によって相続法上有利な結果を得ようとする意思が必要になります(二重の故意)。
2.「こんな子供には相続させたくない」と思った場合、子供から相続権を奪う方法はあるのでしょうか。
(1)相続人廃除とは
被相続人(ここでは親)に対して虐待(ぎゃくたい)、重大な侮辱(ぶじょく)をしたり、非行がある相続人については、廃除(はいじょ)という制度の要件を充たせば、相続権を奪うことができます。
このような手続のことのことを、相続人廃除(そうぞくにんはいじょ)と言います。
(2)廃除が認められた例
例えば、年老いた父親の世話を、長男夫婦がいやがって全くせず、長女がしていたとしましょう。
長男は、世話をしないばかりか、父親に暴力をふるったり、勝手にお金を持って行ってしまったりしました。
この場合に、父親は、長男に財産を一切相続させないということができるでしょうか?
まずその方法の一つとして、父親が「私の不動産・預金・その他一切の財産を、私の世話をしてくれた長女に相続させる。」という遺言を書くことが考えられます。
しかし、長男には遺留分(いりゅうぶん)という取り分があるため、遺言によっても長男の取り分の全てを奪うことはできず、最低限の取り分(このケースでは遺産の1/4)は相続させなければならないことになります。
そこで、この長男の遺留分ですら相続させないようにするために「廃除」という制度が設けられているのです。
被相続人(父親)の申立て又は遺言に基づいて家庭裁判所が廃除の審判をすることで、相続人(長男)から相続権を奪うことができるのです。
(3)廃除が認められなかった例
もっとも、廃除というのは、相続人から一切の相続権を失わせるものですから、裁判所も簡単には認める審判をしません。
認められなかった例としては次のようなものがあります。
息子が、転職や借金をくりかえして、家族名義でもお金を借りてしまいました。
結局、その息子は、その300万円弱もの借金を返済しようとしなかったのですが、父親からの廃除の請求を認めませんでした。
では、どのような事例では認められるのでしょうか?
例えば、娘が中学校から高校にかけて、家出、退学、犯罪性のある者等との交友などをして、少年院にも入れられて親にとても迷惑をかけました。
その後、娘は、様々な男性との交際・同棲などを経て、複数の前科のある元暴力団員と結婚してしまいました。
あげくの果てには、父母が婚姻に反対なのに、父の名を勝手に使用して披露宴の招待状を出してしまったという事例です。
この事例で、裁判所は最終的に父親からの廃除請求を認めました。
ただ、これでも、最初の審判では廃除は認められず、東京高裁に抗告(最初の審判への異議)をしてやっと認められた事案です。
廃除をみとめてもらうためには、相続人に相当のひどい行動が必要で、審判でもその証明をしっかりやっていかなければならないということです。
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