自己破産と恩義

3連休の初日、どこかへ出かけられている方も多いと思います。

 

良い天気らしいので、旅行も楽しいでしょうし、家でゆっくりするのも快適ですね。

 

私は、ちょうど静岡でユーミン(松任谷由実)がコンサートをやるので、それを聞きに行く予定です。

 

さて、今回は借金の問題、特に自己破産のお話です。

 

借金が多額になってしまった場合には、以下の3つの方法により生活を立て直していきます。

① 利息をカットして、毎月の支払い額を減らせば返済が出来る人には、弁
 護士が各債権者と交渉して和解する任意整理

② 裁判所の決定により5分の1程度に借金を減らして無利息で支払う個人
 再生

③ 返済の予定が全くたたない人の生活再建のための自己破産

です。

 

自己破産をする場合、ご相談では「破産するとどうなるでしょうか?」という破産後のことについてのご質問が多いです。

 

確かに、破産の決定を裁判所がした場合に、自分の生活や財産はどうなるのかは大切です。

 

これに対して、弁護士破産申立の前の事情を気にします。

 

どうしてでしょうか?

 

それは、自己破産のご依頼を受けたのに、その目的を達成できないことを怖れるからです。

 

例えば、
自己破産の申立をしたのは良いけれど、結局、借金の免除がされないとか
破産決定後に、破産管財人という監督者から依頼者に支払を命じられたりとか
してしまうと、しっかりと依頼を果たせないことになるからです。

 

弁護士が気にすることの一つとして、ご依頼を受けた後やその直前に債権者に返済をしていないか?があります。

 

破産に至る原因は、ご相談者それぞれによって違います。

 

クレジットカードやキャッシングを普通にしているうちに、それに頼りすぎるようなケース。

 

病気・退職・残業が極端に減るなど、突然訪れるケース。

 

会社経営や個人事業をしていて、売り上げ不振や設備の過剰投資が引き金になるケース。

 

ただ、いずれの場合にも弁護士が破産申立前に気にする事情の一つとして、「一部の債権者にだけ返済していないか?」
があります。

 

そして、私が特に注意していることは

 身内や友人からの借入金を除外したり、返済していないか?

② 大切な取引先にだけ、買掛を返済していないか?

です。

 

確かに、恩義のある人に迷惑をかけたくないというのは、人として普通の感情です。

 

しかし、借金に苦しんで、全ての債権者への支払を続けることができなくなったとき(これを「支払不能」と言います)には、「債権者平等の原則」が働きます。

 

お金に余裕があるときであれば、どこの債権者にいくら支払うのかは約束の範囲内で自由にできます。

 

ところが、支払不能になったときには、全ての債権者に支払えないので、破産による配当で債権額の割合で返済するしかありません。

 

その意味で、支払不能になっった時点で、債務者の財産は、全ての債権者へへの支払の原資となるものと扱われます。

 

そんなときに、「迷惑をかけたくない」「これからお世話になるかもしれない」といった個人的な事情で、不平等な返済をすることは許されないのです。

 

そして、一部債権者への支払は、裁判所に破産申立をしてから大きな問題となるのです。

 

例えば、身内や一部の取引先にだけ、支払不能後に50万円を返済していたとしましょう。

 

このようなことをすると、まず、裁判所はその調査と回収の確認のため破産管財人という監督人をつけます。

 

そして、その破産管財人が、破産法の一定の条件を満たすと考えた場合には、返済した身内や取引先に50万円の返還を請求していきます。

 

任意に返還しない場合には訴訟を起こして行きます。

 

結局は、迷惑をかけたくないと思って返済したことで、もっと大きな迷惑をかけてしまうことになるのです。

 

これを見ていくと、借金の相談をされる方は、破産申立前に、「どこまでがセーフか?」ということを弁護士と十分に話し合っておく必要があります。

 

そういう意味では、
自己破産申立前に、どこまで破産手続の行く先を読めるか?
が破産申立をする弁護士にとって一番重要な能力かもしれません。

 

 

借金問題ご解決方法についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 債務整理、自己破産、個人再生など借金問題のお話 |

相続税の節税のための養子縁組は有効?

11月も中旬になるのに、日中は暑いくらいの気候が続いています。

 

静岡だけでなく、全国的にもそうなのでしょうか。

 

突然寒くなりそうで、それだけ少し心配しています。

 

さて、養子縁組という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。

 

これは、本当の親子でない間柄の人と法律上の親子になる手続です。

 

養親からみた場合、全くの他人を養子にすることもできますし、長男の妻や孫のような親族を養子にすることもできます。

 

養子縁組が有効になるためには、民法により「縁組の意思」が必要とされています。

 

この「縁組の意思」とは、社会通念(常識)でみた場合に、実際の親子と同様の関係を作ろうとする意思を言います。

 

典型的なのは、養親、例えば祖父から見て、子が先になくなった場合に、孫を養育するために養子にする場合です。

 

ここでは、祖父は孫を親代わりに孫を育てていこうとしていますから、「縁組の意思」が認められることに問題ありません。

 

では、相続税の節税のために養子縁組をした場合はどうでしょうか?

 

相続税には基礎控除といって、財産の中から課税の対象から除かれる金額が定められています。

 

この基礎控除の額の計算は、
3,000万円+法定相続人の数×600万円
とされています。

 

つまり、法定相続人の数を増やせば基礎控除の額が大きくなるため、養子縁組をして養子という法定相続人の数を増やして節税することが考えられます。

 

もっとも、国税庁もそんなに甘くありません。

 

相続税の基礎控除をする場合には、①実子がいる場合には養子は1人まで、②実子がいない場合でも2人までしか法定相続人の数に入れることができません。

辛そうに納税する人のイラスト(男性)

なお、例外もありますので、その点は国税庁のホームページをご覧下さい。

 

この人数制限はあくまで税法上のもので、民法では別に養子の数に制限はありません

 

ですから、本当に縁組をする意思があれば養子の数が3人以上でも有効です。

 

日本ではあまり想定しにくいですが・・・

 

さて、ここで最高裁まで争われた事例があります。

 

分かりやすく、事例を少し変えてご説明しますね。

 

Aさんは、孫を養子にすれば相続税の基礎控除額が増えて節税になると税理士からアドバイスを受けました。

 

そこで長男Bの孫Cを養子にすることにしました。このことは長男B家族とAさんの弟夫婦だけの秘密にしておきました。

 

ここでAさんが死亡した場合、誰が怒るでしょうか?

 

そうです。長男Bの兄弟姉妹です。

 

兄弟姉妹からすれば、

①自分に黙って親が養子縁組をしていたこと、

②自分たちの相続分が減ること、

③自分の子供(孫)には養子縁組をしてくれなかった不公平

など怒る原因が満載です。

 

これに対して、Aさんや長男B夫婦から見ると、Aさんを扶養したり、同居でBの妻が苦労したりして、養子縁組は当然だと思うでしょう。

 

つまり、どこまで行っても平行線で理解しあうのは難しいです。

 

そこで、裁判になって最高裁まで争ったのです。

裁判所の建物のイラスト

そこでの争点は、AとCとの養子縁組は相続税の節税目的であり、通常の親子関係を作ろうとする意思がない(縁組の意思がない)のではないか?ということです。

 

確かに、縁組の意思がなければ養子縁組は無効です。

 

これに対して最高裁は、「節税目的と縁組の意思は併存し得る」として、この事案での養子縁組を有効としました。

 

ですから、「明らかに節税目的だけで、縁組の意思が認められない」という例外的な場合でなければ、養子縁組は有効とされることになります。

 

その判断は、養親と養子との関係、縁組から死亡までの期間など色々な要素が関係していきそうです。

 

長男Bの立場から見れば、AとCとの養子縁組をAができるだけ元気なうちにしておくことや、生前の交流を持っておくことが大切でしょう。

 

逆に、兄弟姉妹からすれば、必要に応じて戸籍を確認させてもらって、もし養子縁組がされていた場合には、自分の子供も公平に扱うよう求めてみるしかないでしょう。

 

この場合、養子が2人以上に増えてしまい節税にはなりませんが、兄弟姉妹の実質的な相続分を確保することができることになります。

 

もっとも、親が生きているうちに親族の間で戦略的に動くことは難しいでしょうから、そこに相続問題を生じる原因があるのでしょうね。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 相続のお話 |

「お世話になります」と言わないワケ

季節は完全に秋になりましたね。

 

11月の初めは、静岡では大道芸ワールドカップで街は賑やかになります。

 

街中や港をブラブラしながら大道芸人のパフォーマンスを見ていくことは、楽しいものです。

 

さて、「お世話になります」という言葉。

 

社会人としては、「こんにちは」と変わらないただの挨拶ですよね。

 

私も数十年前になりますが、勤め人だったときにはどのような電話でも「お世話になります」と言っていた記憶があります。

挨拶をしているサラリーマンのイラスト<designed by いらすとや>

 

ところが、私たちの業界では、ちょっと使いにくい場面があります。

 

その場面とは、法曹同士が仕事で会話をするときです。

 

何故なら、法曹が仕事で相手の「お世話に」なることはないし、なってはいけないことも多いからです。

 

刑事弁護を例にすると一番分かりやすいと思います。

 

被疑者、被告人が無実を主張しているとき、弁護人が検察官に電話をかけたとき、どちらかが「お世話になります」というのは非常に違和感があります。

 

検察官の主張する事実を被疑者、被告人が認めている事件でも、やはり刑の重さで争うので、検察官から「お世話になります」という言葉を聞いた記憶は余り有りません。

 

もちろん、私も言いません。

 

それと同じ事が他のケースにも当てはまるのです。

 

弁護士裁判官関係も同じようなことが当てはまります。

 

裁判官は中立公正な立場で判断をするので、原告側の弁護士にも被告側の弁護士にも「お世話に」なる関係ではないですよね。

 

ですから、裁判官から「お世話になります」という言葉を聞いたことはほとんどありません。

 

私が司法修習生(研修生)の頃の指導教官から聞いた話で印象に残っていることがあります。

 

「裁判所にいるときには、裁判官は中立公正を保たなければならないから、弁護士に挨拶をしない方がいいという考えもあるんですよね。」

 

といいつつも、

 

「でも、私は、挨拶をしたから中立公正を疑われるとは思わないし、事件の判断には関係ないから、挨拶くらいはしてもいいと思っています。」

 

とのお話でした。

■<designed by いらすとや>

 

弁護士になりたての頃は、実際に事件で何度も当たっていても、裁判所では一切挨拶をしない裁判官もいました。

 

最近では、どちらかというと軽く挨拶をしてくれる裁判官の方が多数派のように感じます。

 

もっとも、挨拶の言葉は「こんにちは」「どうも」とかがほとんどで、やはり「お世話になります」という言葉はほとんど聞きません。

 

私も弁護士になりたての頃は、検察庁を除いては、むやみやたらと「お世話になります」を連発していた記憶があります(当時は、今よりはるかに検察は弁護士に敵対的だったので)。

 

途中から、何となく「お世話になります」が宙に浮いているような印象を受けたことから、場面によって使い分けるようにしました。

 

特に、裁判所の期日では、弁護士も誰の「お世話に」なってはいけないので、裁判官にも相手弁護士にも「こんにちは」と中立的な挨拶をするようにしています。

 

でも、世間では「お世話になります」って、別に本当にお世話をする意味で使ってはいませんよね。

 

直接、敵対的な当事者の方に電話をしたときにも、私が「こんにちは」というと「お世話になります」と応える方の方が多いように感じます。

 

さて、果たして「お世話になります」という言葉の意味にそこまでこだわる必要があるのか?

 

法曹だけが言葉にこだわりすぎているのか?

 

それは、皆さんが依頼した弁護士が、敵対相手の弁護士に「お世話になります」と挨拶をしたのを見たらどう感じるのかがヒントになりそうですね。

 

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 弁護士の視点from静岡 |

原野商法リターンズ

1日の中で熱くなったり、寒くなったり気温が急変するので体調を崩しやすいですね。

 

お体には十分気をつけてお過ごしください。

 

今回は、最近、復活している詐欺商法について、分かりやすくなるように小説風に書いてみました。

 

タイトルは原野商法(げんやしょうほう)と読みます。

 

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【原野商法リターンズ】

 

 玄関のチャイムが鳴った。横になってぼんやりとしていた勇蔵は重い腰を上げた。横目で時計を見ると針は午後2時30分頃を指している。今日は水曜日だったろうか?勇蔵は思いだしながらインターフォンに対応した。

 

 「突然のご訪問失礼いたします。実は、地方に土地を所有されている方のお宅を訪問しています。」

 

 勇蔵の鼓動が一瞬早くなった。苦い記憶がよみがえる。いつだったろう?不動産の値段が上がり続けた頃、電話で「必ず、高く売れる」とだまされて土地を買ったのは。

 

 勇蔵が買った静岡県の山中の土地は今でも売れなくて塩漬けになっている。負の遺産を息子や娘に残したくないと強い焦燥感に追われることもしばしばある。

 

 勇蔵は急いで玄関の戸を横に引いて開けた。

 

「私は、不動産の売買のお手伝いをする会社の鈴木と申します」

 

 玄関前に立っていた男は『株式会社●●不動産』という名刺を差し出した。上質な紙の上に明るい色のロゴが踊っている。年齢は30才くらいに見える。

名刺を渡している人のイラスト(男性)<designed by いらすとや>

 

(どこかで聞いたような名前の会社だ。大企業かもしれない。)

 

 勇蔵は思った。人と話しをするのは3日ぶりだった。前回は確か、訪問してくれた町内会長との雑談だった。

 

 山田勇蔵は今年で75才になる。妻に先立たれて一人暮らしは5年を経とうとしている。頼りにしている長男は転勤生活で1年に2回ほどしか会うことができない。

 

「インバウンドという言葉をご存じですか?」

 

 勇蔵は、毎朝欠かさず新聞を読んでいた。海外から日本への旅行者が日本国内で消費することで日本の経済が活性化していることをインバウンドと略称することも知っていた。

 

「海外の旅行者の消費と、私の土地とどう関係があるんですか」

 

 鈴木は朗らかにこたえた。

 

「さすがです。そのお年でインバウンドと言われてすぐに分かる方はなかなかいませんよ」

 

 勇蔵は退職前の仕事の時間が一瞬戻ったような気がした。社内でも人に仕事のことをよく教えていた。

 

 鈴木は続けた。

 

「今、旅行者だけでなく、中国の富裕層が日本の不動産を買っているのはご存じですか?」

 

 「ああ、便利な高層マンションの部屋を海外の人が投資のために買っているという話はよく聞きますよね」

 

 新聞記事のコラムに書いてあったことを勇蔵は覚えていた。

高層ビルのイラスト<designed by いらすとや>

 

 「そこまでご存じでしたか。そうなんです。海外の富裕層は、地価が上がっていることからマンションだけでなく、別荘地の土地にも手を出し始めたんです」

 

 「登記を見ると、別荘地に適切な土地を所有されている方のご住所が分かるので、本日、山田さまのお宅に訪問した次第です」

 

 そういうことだったか。そういえば地価が上昇傾向になったという記事も少し前に見た記憶がある。勇蔵は、山中の土地を売るのが急に惜しくなった。

 

 「そうすると、私の山の方の土地を買いたいということですか」

 

 「はい。今でしたら、100万円で当社が買取をさせていただきます。失礼ですが、この土地について売れないと言われたことはありませんか」

 

 勇蔵は、かけひきをしようと思った。俺の方が社会人経験は豊富だ。少し頭がさえてきたように思える。

 

 「いや、お宅のように買いたいといってくる業者さんは他にもいますよ」

 

 「まいりましたね。もう他社も動いているんですか。ウチだけだと思っていたのですが。上司から100万円までしか決裁権を与えられていないんですよ」

 

 「何かサービスを追加するくらいのことはできるんでしょう?そうじゃなきゃ営業なんて出来ないですからね」

 

 勇蔵は会社で営業をやったときのことを思いだした。まだ俺も現役でいけると、気分を良くした。

 


 鈴木は困ったような顔をして頭をクシャクシャとかいた。

 

 「本当に100万円までなんですよ。他の方法は・・・」
 鈴木は空を見上げながら少し沈黙した。

 

 「よし。こういうのはどうでしょう」

 

 「富裕層への売却は土地が広いほど価格も高くなります。今、山田様がもたれている静岡県の土地を100万円で購入して、更にもっと広い神奈川県の土地を山田様だけにお譲りします」

 

 「ただ、土地の広さが3倍になるので売買代金も300万円となってしまいます。山田様の土地をサービスで150万円で評価して、代金を150万円値引きいたします。」

<designed by いらすとや>

 

 勇蔵は頭で計算した。処分に困っていた土地を150万円で評価してもらって処分できる。その上で、本来300万円の土地を150万円で手に入れられる。ただ一つだけ確認しておかなければならない。

 

 「私は神奈川県の土地を買っても意味はないのですが」

 

 勇蔵の質問に、鈴木は胸をたたいて言った。

 

 「そこは、地価上昇とインバウンドの時代。私の会社が責任を持って売却の仲介をいたします。海外の富裕層に300万円以上で売れることは確実です。」

 

 「●●不動産をご信頼ください」

 

 「分かりました。ちょっと考えさせてください」

 

 勇蔵は一旦考えることにした。静岡県の土地のことは息子にも娘にも内緒だから相談できない。高く売れたら、自慢してやろう。

 

 勇蔵はパソコンを開いた。●●不動産のホームページを検索した。トップページには会社の理念や社長の挨拶が書かれている。東京の池袋の有名なビルに本社を置いており、創業して50年以上経っているようだ。

 

 勇蔵は、名刺を取り出して携帯電話のボタンを押した。

 

「鈴木さんのお電話でしょうか。先ほど話しをした山田ですが」

 

「山田さま!早速のお電話ありがとうございます」

 

 鈴木の暗く濁った笑いを勇蔵は知るよしもなかった。

 

【読者への小さな挑戦】

 鈴木が勇蔵を欺そうとした手法とどうして勇蔵が欺されてしまったのかについて、お時間があるかたはちょっと考えて下さい。

後書きに続きます。

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 ここから、解決編と解説を兼ねた後書きになります。

 

  土地の価格が永遠に上がり続けると信じられていた昭和40年~昭和50年頃に原野商法(げんやしょうほう)という消費者詐欺が流行しました。

<designed by いらすとや>

 これは、「土地は値上がりするから、転売すれば利益が必ず出る。」とウソを言われて、存在しない土地や売れない山中の土地を購入させる詐欺です。

 

 この詐欺に欺されて土地を買ってしまった方が、だんだん高齢化してきています。

 

 それに気づいた消費者詐欺グループが、最近になってこれをネタに欺そうとしており、実際に被害が出ています。

 

 原野商法の被害者が高齢になり、家族に話せなかったり、売り急いでいる心理と判断力の低下を狙った詐欺です。

 

 景気が良くなってきてから、土地の価格が都市部で上がってはいますが、地方都市では横ばいの所も多いです。

 

 また、生活圏の土地は売れますが、不便な山の方の土地が売れずにマイナスの資産となっているのは相変わらずです。

 

 ですから、山の方の不便な土地まで売れるようになっているわけではありません。

 

 そこをあたかも全ての土地が値上がりするかのように欺す原野商法が復活してきているのです。

 

 物語を読んで推測されたとおり、勇蔵さんが二次被害者です。つまり、昭和40年~50年頃に原野商法でだまされて買った土地を処分したくて、二度目の詐欺に引っかかってしまったのです。

 

 仮に静岡県の土地を処分できたとしても、結果的には150万円支払って、前よりも更に広くて価値のない神奈川県の土地を所有することになってしまいます。

 

 もちろん、民法や消費者契約法などで取り消すことはできますが、欺されたと気づいて代金の返還請求をするころには、詐欺グループは会社とオフィスごと消えています。

 

 裁判を起こして請求しても民事訴訟でのお金の回収はほぼ不可能です。

 

 ここで私が書いたのは一つのパターンに過ぎません。

 

 消費者詐欺をする連中は、色々な情報を取得して、高齢者の心理を逆手にとります。

 

 ちなみに、詐欺グループにある程度の技術者がいれば綺麗なホームページを作ってウソはいくらでも書けます。

 

 創業が古い廃業した会社の株式を安く買い取って社名変更すれば、好きな業種の創業50年の会社を作れます。

 

 その会社の名前で、例えば1年だけ高層ビルのオフィスを借りることも可能なので、郵便物や電話が繋がっても詐欺ではないと言い切れません。

 

 被害が出る可能性ですが、オレオレ詐欺などの特殊詐欺で欺されている被害者がいるので、原野商法の詐欺に欺される被害者が出る可能性も高いですよね。

 

 これを読まれた皆さんご自身だけでなく、皆さんのご両親や祖父母など周囲の高齢者の方に注意していただいて、二次被害を未然に防いでいただければ幸いです。

 

消費者被害の一般的なご説明についてはこちら

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カテゴリー: 消費者の被害 |

最強のカード

涼しくなりはじめて秋に入ったことを実感します。

 

全国の天気予報でみていると、静岡は最低気温も最高気温も1、2を争うくらいの高さなので、他の都道府県の方々はもっと秋を感じられているかもしれませんね。

 

さて、弁護士がご依頼を受けるときにどのようなことを意識するでしょうか?

 

弁護士によって重視する要素のバランスは違うとは思いますが、全員が意識することは

「この依頼者のニーズは何だろう?」

「それに応えられる仕事ができるだろうか?」

です。

 

そして、民事事件では依頼者のニーズは、結局は物やお金など経済的な価値のあるものにせざるを得ません。

 

人生においてお金に換えられないものは色々とあると思います。

 

典型的なのは人の命や体のことでしょう。

 

刑事訴訟では究極の「死刑」という選択がありますが、それでも亡くなった人が帰ってくるわけではありません。

 

また、民事訴訟では人の命についても「損害賠償請求」というお金の請求に代えるしかないのです。

請求書のイラスト<designed by いらすとや>

とすると、民事事件での依頼者のニーズは経済的な価値のあるものを取得することにとうしてもなってしまいます。

 

そのため、全ての弁護士は、お金や物を回収出来るか?を非常に重視します。

 

例えば、離婚で妻側から依頼された場合に、夫の収入や預貯金などの財産を把握する必要があります。

 

相手の財産を把握しないと、いくら判決をもらっても相手が支払わない場合に強制的に回収できないからです。

 

夫がサラリーマンの場合には、給与明細1枚あるだけで、収入だけでなく、財形貯蓄や会社での積立金を把握できます。

 

また、給料振込口座と別の銀行で大きな額の積立をしていることが少なく、仮にしている場合でも口座の取引履歴を分析すると予測がついたりします。

 

ところが、自営業の方の財産の調査は、苦労が多くなります。

 

確かに、事業に使っている口座は必ずあるはずなので提出を求めることはできますし、確定申告書などの資料で把握できる部分はあります。

 

しかし、プライベートの口座を複数持ったり、現金処理をしていて通帳に載らないお金があることが多いので、全て突き止めることが難しいのです。

 

それでも、業種ごとに調査方法はありますので、何とかして突き止めるようにします。これも弁護士の腕の差になりますね。

 

財産がなかったり、把握が難しい人は、たとえ裁判で敗訴判決をもらっても、サラリーマンとくらべて実際の回収が困難になります。

 

そのため、弁護士が相手の財産をつかみきれないで裁判をするときには、常に判決書がただの紙切れになるリスクを考えて動かなければなりません。

 

つまり、裁判では、サラリーマンよりも自営業の人の方が強いカードを持っていることになります。

 

弁護士は、依頼者のために何らかの財産を回収したいのです。

 

では、裁判における最強のカード」って何でしょう?

トランプのジョーカーイラスト<designed by いらすとや>

そうです。

 

「財産を何も持っていないこと」です。

 

例えば、

売買契約を解除して数千万円の代金の返還を裁判で請求した場合

離婚にあたって夫や妻から財産を請求された場合

借金のトラブルで債権者から取り立てられた場合

裁判で請求されても「判決がされても現実には払いようがありません」という切り札を持っているのです。

 

弁護士が、請求する側の代理人になったときには、依頼者の方から、裁判ってそんな意味がないものなのですか?と聞かれることもあります。

 

私も、財産がないから払わないですむというのは本当は良くないと思うのですが、民事訴訟では強制労働をさせて支払わせることは認められていません。

 

刑事事件では罰金を支払わないと、拘束されて「労役」という労働をさせられるのですが、刑事事件ほど厳密に真実を追求しない民事事件では難しいでしょう。

 

今後は、誠実な人が損をしない裁判制度になるよう改善していく必要があるでしょう。

 

裁判所も法律の要件だけで全て処理するのではなく、市民のニーズに応えていかないと、市民から避けられてしまうかもしれません。

 

今後、色々と改革の計画が組まれているようなので、より私たち市民や企業が使いやすくなるよう期待ですね。

 

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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カテゴリー: 裁判手続きで知っておきたいこと |

自転車の飲酒運転

日曜日に、静岡の運転免許センターに運転免許の更新にいってきました。

 

10年以上前に行ったときには古いコンクリの建物でしたが、新しくなっていてビックリしました。

 

 

 

 

 

 

 

せっかっく講習を受けたので色々と資料を読んでいたところ、自転車について少し分かったことがあったのでそのお話をしますね。

 

道路交通法では「車両等」と定義をして、一定の行動を禁止しています。

 

この場合、自転車道路交通法上軽「車両ですから自動車と同じように道路交通法を守らなければいけません。

 

例えば、信号を守ること、一時停止を守ること、酒酔い運転をしてはいけないことなどです。

 

私を含めて昔から自転車に乗っている人は、ここ数年になって自転車が自動車と同じように信号を渡るようになったり、規制が厳しくなったように感じていると思います。

 

これは法律が変わったのではなく、自転車で不幸な事故た起きたりして、社会が自転車にも厳しくなってきているということです。

自転車事故のイラスト<designed by いらすとや>

 

自転車もお酒を飲んで運転してはいけないと定められているのですが、罰則があるのは酒酔い運転で、酒気帯び運転については罰則がありません。

 

酒酔い運転酒気帯び運転違いはどこにあるのでしょうか?

 

酒酔い運転とは、酒に酔って正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転することです。

 

これに対して、酒気帯び運転は科学的に分類され、呼気1リットルあたりのアルコール濃度が0.15mg以上の状態で自動車を運転することを言います。

 

通常は、酒酔い運転の方が大量にお酒を飲んでいて危険なので、重い処罰になります。

 

もっとも、極端にお酒が弱い人が、ちょっとお酒を飲んで気持ちが悪いまま自動車を制御できない場合は、酒気帯びではなくても酒酔い運転になることもあります。

 

このように酒酔い運転は「正常な運転ができないおそれ」を警察の検挙や裁判で判断するのが難しくなるため、明確に検査で分かる基準を入れるために酒気帯び運転という少し軽い犯罪類型をつくったのです。

 

呼気1リット中0.15mg以上かどうかは、検挙のその場でテストすることができてすぐに区別できます。

<designed by いらすとや>

自動車とちがって、自転車の場合には酒気帯び運転の罰則はないので、仮に呼気1リットルあたり0.15mg以上の状態で運転しても違法ですが罰せられることはありません。

 

ただ、それによってフラフラしてしまうと酒酔い運転として罰せられる可能性はあります。

 

実際の警察の運用では、自動車と同じ条文で処罰されることから、自転車にそのまま適用することは避けているようです。

 

現在では、事故さえ起こさなければ酒酔い運転でも素直に違反を認めれば注意と記録をする運用です。

 

ただし、このような危険な違反で警察官に注意されて記録された回数が3年以内に2回以上となると公安委員会から命令が来ます。

 

何の命令かというと、「自転車運転者講習を受けなさい」という命令です。

 

命令を受ければ講習を受ければ良いのですが、仕事が忙しいなどを理由に受講しないと5万円以下の罰金が科せられます。

 

というように、自転車では、違法になる場合や罰せられる場合、講習ですむ場合などが混じっているのでわかりにくくなっています。

 

もっとも、事故を起こしてしまった場合には、酒気帯びにあたる場合にはより過失が重くなりますので、自転車を引いて「歩行者」として帰るのが安全でしょうね。

 

交通事故の民事事件の基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 交通事故のお話 |

セクハラ・パワハラ保険

暑いのか涼しくなったのか良く分からない気候が続いていますね。

 

台風だけは警戒していますが、できるだけ人がいないところを通って欲しいものです。

 

さて、最近、「ハラスメント保険」というものがあるようです。

 

保険の名前からすると被害者になる従業員が加入するものにも見えますが、今急増しているのは企業側が加入する損害保険だそうです。

 

前年の同期から約1.58倍増加しているとの記事がありました。

 

保険の内容としては、従業員が上司などからセクシャルハラスメントパワーハラスメントを受けたとして損害賠償請求をしたときに、企業に代わって保険会社が支払うという形になります。

 

交通事故でいうと事故がリスクですが、今回の保険では、企業が所属する従業員(上司)のハラスメント行為をリスクと考えていることになります。

酔っ払って絡むおじさんのイラスト<designed by いらすとや>

 

セクハラやパワハラを証明できれば、被害者である従業員が損害賠償請求をすることができます。

 

この場合、加害者はセクハラやパワハラをした上司自身ですよね。

 

ただ、弁護士が依頼を受けて裁判を起こす場合には、上司だけでなく、会社に対しても損害賠償請求することが多いでしょう。

 

これも、会社の使用者責任とか、監督義務違反など一定の条件を充たせば法律的な根拠に基づくものです。

 

そして、セクハラやパワハラはそれによって生じた被害の程度によって金額が大きく変わります。

 

基本的には慰謝料の請求なので、日本の裁判では多額の金額にはならないことが多いのですが、仮に数十万円でも中小企業では資金繰りに影響しそうです。

 

そこで、企業としては、突然、「来月80万円支払え」というようなことになったときに、保険会社に払ってもらうというわけです。

 

保険会社への保険料は毎月決まっていますから、計算できないリスクを毎月の計算できる経費に変えるという発想ですね。

 

企業側からすれば、製造業に伴う事故のようにリスクが高いと言い切れないので、保険に入るかどうかは悩むところでしょう。

 

ただ、仮に企業が保険に入っているからといって、従業員がセクハラ・パワハラにより確実に損害賠償請求できるというものではありません。

 

裁判まで行くとすると証明が難しいという性質があります。

 

その理由は二つあります。

 

一つ目は、企業内のことなので証拠がない場合が多いことです。

 

同僚は勤務している以上証言してくれないでしょうし、言葉のニュアンスによってセクハラ行為・パワハラ行為の捉え方は大きく変わってしまいます。

 

暴言の録音データなど動かせない証拠があれば別ですが、客観的証拠が集めにくいので証明が難しい面があります。

<designed by いらすとや>

 

二つ目は、精神的被害になるため、その被害の程度を図る基準がないことです。

 

結局は、うつ状態になったとか、退職せざるを得なくなったという結果から証明するしかありません。

 

うつ状態の主張をする場合、仮に過去にうつ状態の病歴があると、会社の業務のせいではなく、もともとの性格から生じたと反論されます。

 

また、退職した場合でも、職場の人間関係が悪い場合には、もともと辞めるはずだったと反論されます。

 

いずれも、パワハラ・セクハラと被害との間の因果関係を争うものですが、よく争点になる部分でしょう。

 

企業としては、仕事はできるけれども厳しすぎる従業員がいるような場合はハラスメント保険への加入を検討しても良いかもしれません。

 

でも、ハラスメントが起きないような良好な職場環境作りが一番良いのでしょうね。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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自筆の遺言書が書きやすくなります~相続法改正

最近、静岡では雨が多いのですが、他の地域ではいかがでしょう?

 

本来の静岡の天気だと、9月~10月の頃は毎日秋晴れの日が続いていたので、ちょっと残念な気持ちです。

 

「まさか、このまま冬に入ってしまうのかな?」と心配していたら、昨日の天気ニュースでは、また暑くなるということでした。

 

喜んで良いのか微妙ですが・・・

 

さて、改正された相続の法律が皆さんにも適用される日(施行日)がいよいよ近づいてきました。

 

一番近いものは、自筆の遺言を書きやすくするための改正で、これは来年の1月13日(約4ヶ月後)に迫っています。

 

では、どのように変わるのでしょうか?

 

現在は、自筆つまり手書きで遺言書を書く場合には、その全ての文章を手書きにする必要がありました。

 

遺言書の本文、例えば「遺産のうち、○○の土地建物は相続人Aに、預貯金は全て相続人Bに相続させる」というようなところは、遺言をする人が手書きで書くべきことは理解出来ます。

 

ところが、現在の法律では、本文だけでなく、遺産を特定するためにまとめたもの(財産目録)まで手書きで書く必要があります。

 

遺産の種類が多かったり、遺言をする人が何人かの相続人に遺産を別々に分けて渡したいときには非常にやっかいなことになります。

 

例えば、土地がある場合には、その場所、地目(宅地・農地などの区別)、面積などを書かなければなりません。

 

預貯金であれば、金融機関と支店名だけでなく、普通預金か定期預金などの区別や口座番号を書かなければなりません。

 

パソコンが発達していなかった時代は良かったのでしょうが、今では複雑な財産をまとめるには、ワードかエクセルを使う方が圧倒的に便利です。

パソコンを使う農家の男性のイラスト<designed by いらすとや>

パソコンに詳しくなければ、土地なら法務局で登記事項証明書をもらって、預貯金ならそれをコピーして特定できれば便利です。

 

そこで、来年1月13日以降に書く遺言では、本文は全部自筆で書かなければなりませんが、財産目録はパソコンで作ったり、登記事項証明書や通帳のコピーをつけることで対応ができるようになります。

 

但し、筆で書いていない財産目録やコピーには、遺言をする人が、1枚1枚全てに、署名して印鑑を押すことが必要です。

書類に判子を押している人のイラスト(男性)<designed by いらすとや>

この印鑑は実印でなくても構わないのは、現在と一緒です。

 

更に、法制審議会の解釈では、この財産目録などで押す印鑑は、本文の印鑑と一緒でなくても構わないとされています。

 

もっとも、裁判で信用性が低くなる可能性もあるので、同じ印鑑で(できれば実印で)押すのが安全だとは思います。

 

この改正で。自筆の遺言がだいぶ書きやすくなったとは思います。

 

来年の1月12日までに遺言を書くと現時点での厳しい規定が適用されますが、翌日13日以降の日付で遺言が書かれていると、書きやすい新法が適用されます。

 

今、自筆の遺言を書こうとしている方は、緊急性がない限り、来年の1月13日以降に延ばしたり、書きかえたりすることも考えたらいかがでしょうか。

 

ただ、遺言書の本文については変わらず厳しい規定が適用されますので、うっかりと勘違いしないことが大切でしょう。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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弁護士はどこまで秘密を守るの?

先週、とても涼しい日がありましたね。

 

その後、全国ニュースでも一時期のような最高気温の話が出てこないので、静岡だけでなく全国的に恐ろしいような高温はお休みのようです。

 

このまま、涼しくなって心地よい夏から秋が長く続くと良いですね。

 

さて、弁護士には秘密を守る義務があることはご存知の方も多いと思います。

 

根拠になるのは、弁護士法という法律の他に、日弁連が定めた弁護士職務基本規程があります。

 

この規程は次のように定めています。

 

「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知りえた秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」

 

また、法律では「弁護士であった者」も守秘義務を負うことを定めているので、弁護士を辞めても依頼された事件のことは秘密にしなければいけません。

ロックされたフォルダのイラスト<designed by いらすとや>

では、秘密にしなければならない情報とはどの程度の範囲なのでしょうか?

 

この点については、先ほどの規程の解釈で色々と議論はされますが、特に依頼者の方が気になるのは

「正当な理由」で秘密を開示できるのはどのような場合なの?

という点でしょう。

 

日弁連の委員会が発行している本の解説によると大きく分けて3つの場合があると言われています。

 

まず、
① 依頼者の承諾がある場合
です。

 

当たり前のように感じますが、この承諾は「明示」でなくても「黙示」でも良いとされているので、解釈の余地が出てきます。

 

つまり、依頼者から明確に「知らせても良いですよ」という承諾をもらわなくても、通常は承諾があるだろうと推測できる場合には正当な理由があるということになるのです。

 

例えば、皆さんが市町村の無料法律相談に行かれたとします。

 

このとき、仕切られた部屋で弁護士と1対1で相談をすることが多いのですが、ここで弁護士が聞いて相談票にメモしたことは皆さんにとって重大な秘密ですよね。

 

ですから、弁護士は外でその情報を開示することはないのですが、法律相談をした市町村の担当職員に相談票を渡すことになるので、その限度では秘密を外部に出すことになります。

 

もっとも、通常は市町村の無料法律相談に行くにあたっては、担当職員がその相談票を受け取ることは想定しているはずなので、黙示の承諾があると解釈するのです。

 

結構、難しいのはニュース性が高い刑事事件で弁護人になったときに報道機関にどこまで情報を開示するかです。

テレビの中継のイラスト<designed by いらすとや>

全く何も言わないというのが安全にも思えますが、ニュースで事実と異なる印象を持たれてしまうと、被疑者や被告人のためにならない面もあります。

 

ですから、例えば、無罪を主張する方針のときに冤罪の根拠となる情報を一部開示するとか、有罪を認めている場合に被告人の反省の言葉を伝えるなどはむしろ弁護人の腕のみせどころでもあります。

 

しかし、被告人が裁判手続の中で、「否認→自白」や「自白→否認」と変わることも珍しくありません。

 

そうなってしまうと、弁護人が報道機関に伝えたことが逆に悪印象となってしまうので、そこまで予測して判断しなければなりません。

 

弁護士の仕事の能力は判断力で大きな差が出ることは以前お話したと思いますが、ここでもその判断力が求められることになります。

 

次の正当な理由としては
② 弁護士の自己防衛の必要がある場合
があげられます。

 

弁護士をしていると、相手方から攻撃を受けることはもちろん、関係者や依頼者からも攻撃を受けることがあります。

 

このとき、弁護士が自分の正当性を説明するためには、必要な限度で秘密を開示することが認められます。

 

例えば、弁護士が損害賠償請求訴訟を起こされるなどの攻撃をされた場合には、その請求に理由がないことを証明するために、依頼者から得た情報でも証拠として提出することができます。

 

弁護士自身が紛争の当事者となってしまうことは余り好ましくないことなのですが、自分の身を守るためにはやむを得ないということでしょう。

 

そして、更に
③ 公共の利益のために必要がある場合
には開示が認められます。

 

アメリカで実際にあった事件で、殺人事件の弁護をしていて、被告人から「他にも若い女性を殺して捨てた。捨てた場所は○○だ」と打ち明けられた弁護人がいました。

 

実際に弁護人が、被告人から聞いた場所へ確認しに行ったところ、遺体があったそうです。

 

しかし、その弁護人は守秘義務を徹底して守り、行方不明となっている被害者の父親から聞かれても秘密を守りました。

 

この弁護人は刑事訴追や懲戒請求をされましたが、いずれも「責任はない」とされました。

 

もっとも、世論から大きな批判を受けて廃業せざるを得なくなったとのことです。

 

これだけ弁護士の守秘義務は厳しいのですが、これはギリギリの事案でしょう。

 

日本でも、依頼者が殺人や重大な傷害を現実に犯そうとしており、これを防止する緊急性が高い場合には、警察などに情報開示しても、「正当な理由」があることになり守秘義務違反ではないとされています。

 

もっとも、民事事件でも重大な紛争の場合には本気ではなくても「殺してやりたい」という言葉をつい言ってしまう依頼者も珍しくはありません。

 

ですから、正当な理由があるかについて弁護士にも慎重な判断が必要です。

 

例えば、依頼者に強い暴力的傾向があり、具体的に殺害の準備と実行の日を決めていることを聞いてしまい、それを止めても聞こうとしないというような場合に限られるでしょう。

 

さすがにそのような場合には、その依頼者の依頼を辞任して、(推定)被害者に避難するよう連絡することは正当と判断されると思います。

 

では、詐欺などの財産犯を犯すことを聞いてしまった場合にはどうでしょう?

詐欺師のイラスト<designed by いらすとや>

過去には守秘義務が優先するので弁護士が情報を開示することは一切許されないと解釈されていました。

 

ただ、重大な経済犯罪が増えていることも最近では考慮すべきという意見もあります。

 

例えば、「株式会社てるみくらぶ」の顧問弁護士をしていたらどうでしょうか?

 

この事件は、格安旅行会社であるてるみくらぶが経営破綻を隠して、旅行代金をもらい続けて破産したため、非常に多数の人が旅行にも行けず、代金の返還も受けられなくなった事件です。

 

顧問弁護士として破産の相談を受けている最中も旅行代金を受け取り続けていた場合、当然、これをやめるように経営者に言わなければなりません。

 

しかし、弁護士が言っても会社自体が運営を継続していたら、結局、旅行に行けないのに代金を受け取り続けることになってしまいます。

 

この場合、秘密を開示することに正当な事由があるか?は難しい問題です。

 

あくまで、弁護士は民事事件として破産申立の依頼を受けただけで、捜査機関ではないからです。

 

もっとも、このようなことを会社が続けると結局は、破産手続でも紛糾して会社や代表者のためになりません。

 

強く経営者を説得して営業を止めさせるしかないでしょう。

 

それでも止めない場合には、辞任することになると思います。

 

日弁連の説明によると、財産的な被害の場合で例外的に守秘義務の解除が認められるのは、依頼者が弁護士の肩書きを利用して詐欺的行為を行おうとしていることが発覚したような場合とされています。

 

いままでご説明したとおり、弁護士の守秘義務は非常に厳しいものであり、だからこそ依頼者の方は安心して誰にも話せなかったことを相談できるのです。

 

私は、もともと子供のころから友達の秘密をバカ正直に守って、気づいたら私だけが秘密にしていたという悲しい過去も・・・

 

そのため、秘密の開示を求められたときには悩むことになりそうです。

 

一長一短ですね。

 

最後までおつきあいいただきありがとうございました。

 

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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遺産の価値をお金で計算できるの?

暑い日が続いていますね。

 

ニュースを見ていたらアフリカのサハラ砂漠あたりでは50℃を超える最高気温を記録したとのことです。

 

私が読んだサハラ砂漠に関する本には、高温、乾燥、砂で肺が炎症を起こしてしまうので外出を控える必要があると書いてありました。

 

日本でも昨日、埼玉県の熊谷市で41.1℃を記録して、日本最高記録を塗りかえたと報道されていました。

暑い人のイラスト(女性)<designed by いらすとや>

こんな記録更新はなくてもいいような気もしますね。

 

さて、今回は相続のお話です。

 

相続が起きたときに、遺産がどのようになっているかは気になりますよね?

 

ご自分は相続しないというつもりでも、遺産の価値は確認する必要があります。

 

なぜなら、遺産にはプラスの価値のあるものだけでなく、借金のようなマイナスになるものも含まれるからです。

 

相続のときに、「私は相続を放棄したから関係ありません。」とおっしゃる方がいます。

 

確かに、家庭裁判所に相続放棄の申請をしっかりとして、受理証明書を受け取っていれば相続人ではないので関係ないといえます。

 

ところが、遺産分割協議書という書面にご自分の取り分ゼロで署名した場合を「放棄」と思っている方も多いです。

 

遺産分割協議書に署名する形だと、お金や不動産などの財産は相続しませんが、借金は、それとは無関係に相続されることになります。

 

そのため、相続を親族の話し合いで処理する場合には、遺産の価値がプラスかマイナスかをしっかりと計算しておく必要があるのです。

 

この計算をするにあたって、遺産の中で金銭的な評価をするのが難しいものとしてよくあるのが土地・建物や株式です。

 

今回は株式を例にして考えてみますね。

株券のイラスト<designed by いらすとや>

まず、相場のある株式については、その相場で価格が決まりますから、それほど評価は難しくありません。

 

相場がある株式の株価は、インターネット検索で「○○会社 株価」と打ち込めば、ある程度正確な株価がすぐに出てきます。

 

例えば、東京証券取引所に上場されているような株式だったら、売却予定の日を決めてその日の1株の最終価格(終値)を基準にすれば、これに株式数をかけるだけで金銭的評価ができます。

 

そのため、実際に相続で金額が問題になる株式は、証券取引所への上場などがなく、相場が分からない中小企業の株式です。

 

そして、相続ではむしろ中小企業の株式を相続するケースの方が圧倒的に多いのです。

 

このような中小企業では、インターネット検索をしても株価は出てきません。

 

そこで、基準となる一般的な計算方式が採用されますが、その方式も一つではなく様々な方法があります。

 

よく使われる基準だけでも、
① 純資産方式
② 配当還元方式
③ 類似業種比準方式
④ 収益還元方式
などがあります(そのくわしい内容はひとまず置いておきます)。

 

相続税の申告については税理士が使う評価基準がありますが、弁護士が関わるような紛争のときにはその基準もただの参考資料にすぎません。

 

相続税で使われる基準は課税の面からなされるのに対して、紛争の中での価値需要と供給、つまり「どれだけ株式が欲しいか?」が基準となるからです。

 

例えば、毎年の決算報告書で利益が出ていないように見えても、貸借対照表や実際の評価では会社に多額の資産があれば、会社の代表者(社長)は株式を手放したくありません。

 

ですから、株式を相続した相続人は、会社が赤字決算でも株式の評価を高く交渉できることもあります。

 

逆に、会社で一定の利益を出していても、デザイン会社のデザイナーが社長の場合には、その利益は社長個人の能力で生み出したものです。

 

そのため、社長から「会社の株式は要らない」と言われて、新会社を設立されてしまったら、相続した株式はほぼ無価値となってしまいます。

 

このように、相続で株式の評価をする際には、上の①~④の計算方法は参考にはなるものの絶対ではありません。

 

そして、注意しなければならないのは、会社の顧問税理士が株価の評価をして相続人に伝えてくるときです。

会計士のイラスト(男性)<designed by いらすとや>

 

会社の顧問税理士は社長と信頼関係があるので、社長に有利な株価=他の相続人に不利な株価の算出をすることが現実に見受けられます。

 

そのため、株式を相続したときには、ご自分にとってその評価が不利になりやすい事情があるかを十分に考えてから遺産分割協議書に署名・押印をした方が良いと思います。

 

では、熱中症にならないよう十分な水分補給をして、暑い夏をのりきっていきいましょう。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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