公法と私法

涼しくなってきて、秋を感じられるようになりましたね。

 

昼間と夜と寒暖の差も激しくなったので、皆様も体調を崩されないようにお気をつけ下さい。

 

さて、今回から、しばらく行政と私たちの関係について書いていきたいとと思います。

 

できるだけわかりやすい裁判例を取り上げて、解説をしていきたいと思っています。

 

私たちと行政との関係を定める法律を、まとめて「行政法」と呼んだりします。

 

「行政法」という法律は無いのですが、行政手続法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法など、私たちと行政との関係や行政それ自体を定める法律をまとめて「行政法」と呼びます。

 

行政法を勉強すると、最初に出てくるのが公法私法全く別のものとするかどうか(二元論)の問題です。

 

公法というのは、行政などと私たちとの関係を定める法律、例えば行政手続法などの行政法が典型的なものです。

 

これに対して、私法とは、私たち一私人同士の関係を定める法律で、民法、商法などをいいます。

 

例えば、議員さんが市に対して報酬を請求する権利を持っていますが、議員さんはこれを譲渡できるでしょうか。

 

議員さんと市との関係は行政との関係ですから、本来、公法である行政法が適用され、債権の譲渡に関する民法は適用されないと考えれば、譲渡できないという結論になるでしょう。

 

最高裁の判例は、譲渡を認めました。

 

それでは、行政との関係では何でも民法が適用されるのでしょうか。

 

例えば、生活保護を受給する権利に民法の相続の規定が適用されるのでしょうか。

 

最高裁の判例は、こちらは相続を否定しました。

 

生活保護を受給する権利は、その人個人に専属する権利であって、親族であっても相続の対象とならないとしたんですね。

 

このように、判例は、公法と私法の適用範囲を二分して区別してはいないようです。

 

それぞれの法律の趣旨や権利の性質を考慮して、行政との関係について、民法などの私法を適用するかどうか考えているようです。

 

この、法律の趣旨から考えるというのは、法的思考にとって、とても大切なことです。

 

次回も、法律の趣旨から、公的関係に民法などの私法が適用されるかの裁判例を考えてみたいと思います。

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ギターは特定物?不特定物?

9月も中旬を過ぎ、夜は少し涼しくなってきましたね。

 

さて、今日は、音楽の趣味と関連させて、民法上の特定物と不特定物について考えてみました。

 

私が中学3年生の時に購入したモーリスのアコースティックギター。

 

当時、「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」と宣伝されていました。

 

それが、夏前に「ブリッジ」という部品が外れるなど、だいぶ古びてきました。

 

そこで、30数年ぶりに、新たにアコースティックギターを購入することにしました。

 

では、このギターは民法上の「特定物」でしょうか?

 

それとも「不特定物」でしょうか?

 

民法の世界で、当事者がその物の個性に着目したものを「特定物」、そうでなく種類・品質・数量等に着目して個性を問わないものを「不特定物」と呼んだりします。

 

自動車でいうと、新車は同じ車種の同じグレードなら、どれでも良いので「不特定物」、中古車は1台々程度が違うので「特定物」になります。

 

私はギターを買うために、お茶の水や渋谷の楽器店を回って、試奏を何回もしました。

 

そして、渋谷で弾いたBreedloveというギター工房のC-25Customというギターを選びました。

 

マイナーなメーカーですが、アメリカでハンドメイドクラフトを大切にしているメーカーです。

 

Breedloveというのは工房の代表者の名前です。

 

私は、店頭に置いてあり試奏した「このギター」と特定して購入しました。

 

ですから、ギターの売買契約においては、特定物としてギターを購入したことになります。

 

他の店では、MartinのD-18シリーズを弾いていた人が、お店の人に「これにします。」と言い、お店の人は「わかりました。在庫を出してきますね。」と答えていました。

 

この方は、MartinというメーカーのD-18シリーズであれば、試奏したギターでなくても良かったようです。

 

この場合には、ギターを「不特定物」として購入したことになります。

 

ですから、ギターに大きな欠陥があれば、「他の物に変えてほしい」ということができます。

 

でも、私は「このギター」と特定して買っていますから、「他の物に変えてほしい」という権利はありません。

 

欠陥があれば、それに応じた損害賠償請求などができるだけです。

 

楽器はどれもそうだと思いますが、同じ種類の同じグレードでも、音色は1つ1つ異なります。

 

当たり外れも大きいです。

 

5万円の当たりギターの方が10万円の外れギターよりも良い音がすることも珍しくありません。

 

ですから、通常は試奏して、「この1台」を選ぶことが多いと思います。

 

多くの場合は「特定物」になるんでしょうね。

 

「日常生活の法律問題」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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教師の酒気帯び運転で退職金はもらえるの?

静岡は今日も晴天です。

 

暑い一日になりそうです。

 

今日は、飲酒運転をし教頭先生を懲戒解雇した場合、退職金は払わなくても良いのかどうかについて考えてみました。

 

Xさんは、中学校の教師として27年間勤務して教頭先生となりました。

 

Xさんは妻とうまくいっておらず、妻が理由も明らかにしないで家に帰らない日が続いていたため、妻の浮気を疑っていました。

 

Xさんは土曜日で休日だったたこともあり、妻の浮気の問題から気を紛らわせうと、に自宅でウィスキーを飲み始めました。

 

その後、帰らない妻をさがそうと思い立ったXさんは、ウィスキーの瓶を持って自動車を運転し、走行中の車内でもウィスキーを飲んでいました。

 

Xさんは、迷いながら運転しているうちに、吸っていたタバコの火を消そうとして前方の注意が不十分となって、赤信号でとまっていた自動車に衝突しました。

 

この事故では、幸いにも負傷者は出ませんでした。

 

これを受けて、京都市教育委員会は、Xさんを懲戒免職にするとともに、一般の退職手当の全部を支給しないという退職金制限処分を行いました。

 

Xさんは、京都市(Y)を被告として、退職金全部不支給は違法だと争いました。

 

それでは、京都市教育委員会が行った退職金制限処分は、裁量の範囲内として適法なのでしょうか。

 

京都地裁の裁判では、この処分は違法であり、退職手当は支給されるべきであるとしました。

 

この裁判では、退職手当の全部不支給が認められるのは、退職者の永年の勤続の功をすべて抹消してしまうほどの重大な背信行為がある場合に限られるとしました。

 

そして、Xの行った行為は教職であり管理職である立場等から職務に与える影響は大きいとした上で、次の事情を重視しました。

 

つまり、

① Xさんは27年間教員として勤務し、熱心に教育に携わり、表彰も数回されており、過去に何の処分歴もないこと

② 酒酔い運転ではなく、酒気帯び運転にとどまっているものであること

③ 酒気帯び運転は、私生活上のものであり職務行為とは直接関係ないものであること

④ 事故の結果も物損でとどまり被害者と示談をして被害弁償をおこなっていること

などを考慮すると、Xさんの永年の功をすべて抹消するほどの事情は無いと判断したのです。

 

もっとも、被告である京都市は、控訴をしていますので、今後、この裁判例が維持されるのか、変更されるのか注意が必要です。

 

飲酒運転に対する職場や社会の目は年々厳しくなりますので、皆さんも飲酒運転は絶対にしないようにしましょう。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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救急車を呼んでも「ひき逃げ」?

9月に入ったというのに暑い日が続きますね。

 

暑さで体調を崩されないよう、皆様お気を付け下さい。

 

さて、今回は交通事故のお話です。

 

ある人が無免許で飲酒して自動車を運転をして、オートバイと衝突して相手に怪我をさせてしまいました。

 

その人は、車を停めて被害者に「大丈夫ですか」と声をかけました。

 

そして、周囲にいた人に救急車を読んでもらって、救急車が近くまで来たのを確認して、現場を離れました。

 

さて、このような場合にも、被害者救護義務違反として道路交通法違反すると言えるのでしょうか。

 

東京高等裁判所の裁判例では、これを肯定しています。

 

つまり、救急車をしっかり呼んでも、その場から立ち去ってしまえばいわゆる「ひき逃げ」にあたるとしたんですね。

 

では、交通事故を起こした人は、被害者に対してどこまでの義務を果たせば良いのでしょうか。

 

この裁判例では、

① 救急車が到着するまで止血措置をするなど被害者の容態を見守って

② 救急隊員に被害者の怪我の容態などを説明し

③ 場合によっては、救急車に同乗して病院まで行くこと

が必要としています。

 

相当重い義務ですよね。

 

事故を起こすと気が動転して、その場を立ち去ってしまってから、頭を冷やして警察に連絡や出頭をしてくるケースも多いです。

 

でも、後々のことを考えると、とにかくその場に止まって、救急車や警察官が来るのを待つことが、結果的に軽い処罰で済むんですね。

 

交通事故は、いつ、誰にふりかかってくるか分かりません。

 

もしもの時のために、「こんな重い救護義務があるんだ」としっかりと覚えておくと良いかもしれません。

 

交通事故の民事事件の基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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新橋駅での釣り銭窃盗未遂

先日、お盆休みを利用して、アコースティックギターを買ってきました。

 

30年使っていたモーリスギターが半分壊れかかってしまったので、思い切って買い替えることにしました。

 

水道橋、渋谷と大学時代からの音楽仲間につきあってもらって、ギターを弾き回りました。

 

結局購入したのは、「Breedlove」というメーカーで、ハンドメイドを大切にしているギターです。

 

MartinやGibson、Guild、Taylorなど色々なメーカーを弾いたのですが、このギターが一番弾き手を気持ちよくさせてくれました。感覚だけで選んだ1本です。

 

値段の方も、在庫期間中が長く、一部「たわみ」もあるということで、半額近くになっていたのも魅力でした。

 

これから休日などに練習して、錆び付いた腕を磨こうと思います。

 

さて、今回は刑事事件のお話の前半です。

 

平成21年6月、ある人が、お金を手に入れようとして「駅の自動発券機の釣り銭を盗めないか」と考えました。

 

その人は、東京の新橋駅で、ペーパーセメントという接着剤を自動発券機の釣り銭返却口の中に塗って、釣り銭がくっつくようにして、これを回収して盗もうとしました。

 

ところが、接着剤を塗ったところで、実際に釣り銭を盗む前に駅員にみつかってしまい捕まってしまいました。

 

これって、犯罪になるのでしょうか。

 

JR東日本の業務を妨害する業務妨害罪になることについては、裁判例上では問題なく認められました

 

では、窃盗罪についてはどうでしょうか。

 

実際に、金銭を盗んではいないのですから、窃盗罪になることはありません。

 

ただ、金銭を盗もうとする行為をしたことで、窃盗未遂罪にならないかが問題となるんですね。

 

例えば、心の中でいくらお金持ちの人のお金を盗みたいと考えたとしても、それだけで罪になることはありません。

 

窃盗未遂罪となるためには、物品などの財物が盗まれる現実的な危険性が発生しなければならないんですね。

 

そうでなければ、処罰範囲が広くなりすぎて、私たち国民の思想信条の自由や表現の自由が不当に制限されかねません。

 

では、先ほどの接着剤を、駅の自動発券機の返却口に塗りつける行為は、釣り銭を盗む現実的危険性のある行為と言えるのでしょうか。

 

この事件で、東京簡易裁判所では、窃盗未遂罪成立を否定しました。

 

ここでは、窃盗罪の実行が始まったと言えるためには、他人の財産の占有侵害に向かって、犯人のコントロール下にある一連の行為がなければいけないとしました。

 

ところが、本件の行為では、客による券売機の利用という、被告人(刑事裁判にかけらた人)のコントロールの及ばない行為が間に入っています。

 

つまり、お客さんが釣り銭が少ないことに気がついてしまえば、すぐに駅員に言うでしょうから、被告人は釣り銭を取得することはできなくなってしまいます。

 

とすれば、接着剤を塗っただけでは、釣り銭を取得するまでの一連の行為が開始されたとは言えず、釣り銭取得の現実的危険性も無いという判断です。

 

これに対して、平成22年の東京高等裁判所では、簡易裁判所の判断を否定して、窃盗未遂罪成立を認めました

 

東京高裁では、窃盗行為の始まりは、窃盗行為そのものが開始される必要はなく、これに密接な行為であって、既遂に至る客観的危険性が発生すれば足りるとしました。

 

そして、本件においては、被告人の接着剤塗布行為は、釣り銭を取得するためには、もっとも重要かつ必要不可欠な行為であり、釣り銭の取得に密接に結びついた行為だとしました。

 

実際に、接着剤を塗ったら、釣り銭がくっつくかについては、警察の報告書があり、実験では25回のうち22回はいずれかの金銭がくっついたようです。

 

そうすると、乗降客が非常に多い新橋駅で、釣り銭がくっついて、急いでいる乗客がそれに気がつかないことも相当の高確率で生じると言えます。

 

そこで、東京高裁としては、接着剤を塗るだけで、被告人が釣り銭を取得する現実的な危険性が生じていると判断したんだと思います。

 

被告人はこのような窃盗の手口を知人から教わったようで、東京など大都市では結構多く行われているのかもしれません。

 

駅員の方も定期的にチェックをしているようです。

 

この東京高裁の判決は、そのような行為について正面から論じて、窃盗未遂を認めたものとして、実務の参考になると思います。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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公務員は国家を歌わなければならないの?~その3

天気予報によると、今日(8月8日)は、全国的に比較的気温が上がらないそうです。

 

連日厳しい暑さが続いていますので、中休みになると良いですね。

 

当事務所は、来週、お盆の週はお休みさせていただきます。

 

ブログの方も、来週更新分はお休みとさせていただきたいと思っています。

 

さて、国歌斉唱と起立のお話の第3回です。

 

今回は、最高裁が教育委員会の減給処分を違法とした事案について考えてみましょう。

 

事例としては、公立高校又は公立養護学校の教職員の方が、卒業式で、国旗に向かって起立して国歌(君が代)を歌わなかったことなどで、教育委員会から減給処分を受けたというものです。

 

国旗に向かって起立して歌うことを命ずる職務命令には合理的な根拠があるとした点は、前回のご説明と同様です。

 

しかし、今回の事案については次の事情をより重視して、教育委員会の減給処分を無効としました。

 

① 起立しないことは、当該教職員の歴史観ないし世界観等にもとづくもので、卒業式の積極的な妨害の意図によるものではないこと。

 

② 方法も物理的に卒業式の進行を妨げるものではなく、自分自身が起立して歌わないということだけで、卒業式へどの程度混乱をもたらしたか客観的な判断が難しいこと。

 

③ 処分を「減給」という重いものにした根拠は、当該職員が過去の入学式にも服装について校長の職務命令に違反したという行為だけで、式典を妨害するような行為ではないこと。

 

④ 卒業式や入学式のたびに、起立して歌わないことを処分してしまうと、短期間に懲戒処分が累積・拡大していき、職員への不利益が著しいこと。

 

以上の事情を前提とすると、その職員に対しては、減給処分は重すぎるとして、違法としたんですね。

 

今まで見てきたように、卒業式で起立して国家を歌わないことを理由に、教職員に戒告・減給処分をすることは、一律には違法とも適法とも言えません。

 

個別の事情を前提にして、利益衡量をしていくことになります。

 

おそらく、このブログを読んでいただいている方にも、

 

「税金から給与をもらいながら、校長の職務命令にも違反して、起立して国歌すら斉唱しないのは、公務員としていかがなものか」という考えの方、

 

「卒業式を直接妨害せず、影響もほとんど無いのに、個人の歴史観・世界観に基づく行動を処分の対象とするのは納得できない」という考えの方、

 

両方いらっしゃると思います。

 

私は、両方の考え方があることを前提に、しっかりと議論ができる社会が健全なのかなと思っています。

 

なお、公立学校についての裁判例について、ご説明してきましたが、これが私立学校だったらどう異なるかを考えてみるのも憲法上面白い問題だと思います。

 

司法試験の論文問題で聞かれそうな問題意識でもあります。

 

「憲法のお話」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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公務員は国家を歌わなければならないの?~その2

暑い日が続きますね。

 

皆様も、熱中症にはくれぐれもご注意ください。

 

最近は、裁判の期日が少ないので、事務所で打ち合わせやご相談が多いです。


一日中事務所内にいると、外の暑さは感じませんが、冷房中にずっといるのも、体には良くないような気もします。

 

また、ジョギングでもやろうかと思います。

 

さて、前回に引き続き、憲法のお話です。

 

今回は、最高裁が教育委員会の戒告処分を適法とした事案について考えてみましょう。

 

事例としては、公立高校又は公立養護学校の教職員の方が、卒業式で、国旗に向かって起立して国歌(君が代)を歌わなかったり、伴奏を拒否したりしとことなどで、教育委員会から戒告処分を受けたというものです。

 

まず、国旗に向かって起立して歌うことを命ずる職務命令には合理的な根拠があるのでしょうか。

 

最高裁は、合理的な根拠があると判断しているようです。

 

その理由として、教職員が地方公務員という地位にあること、その職務の公共性生徒等への配慮、教育上の行事にふさわしい秩序の確保式典の円滑な進行のために必要だったということをあげています。

 

では、実際に、卒業式に対して影響はあるのでしょうか。

 

ここでは、一部の教職員だけが起立しないことが、卒業式における秩序や雰囲気を一定程度損ない、式典に参列する生徒へも悪影響を及ぼすとしています。

 

つまり、卒業式の厳かな雰囲気が損なわれてしまい、調子に乗って一緒に起立しない生徒がいたり、ざわついたりするということでしょう。

 

最後に、処分を受ける職員の不利益の程度について検討しています。

 

戒告処分は、給与上の不利益としては、勤勉手当の1支給期間(半年間)の10%にとどまるものであったとしています。

 

給与自体が減らされるのではなく、勤勉手当の一部が支給されないだけなので、戒告処分による教職員の不利益はそれほど大きく無いとしたんですね。

 

このように、職務の公共性や秩序維持という利益と教職員の利益を秤にかけて、この事案では前者を重視したということになります。

 

利益を秤にかけて重さをはかるという「利益衡量」という考え方は、法律の解釈全般に共通するので、発想として持っていると良いと思います。

 

次回は、教育委員会の処分を違法とした事案をご紹介します。

 

「憲法のお話」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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公務員は国歌を歌わなければならないの?~その1

裁判所も夏期休廷期間があるので、その前ということで、調停や裁判の期日がたくさん入っていました。

 

今週から8月の20日くらいまでは、裁判の期日の点では比較的余裕のある日程になっています。

 

当事務所もお盆の8月13日からの週は1週間お休みをいただく予定です。

 

とはいえ、ご相談や打合せ、書面作成などの時間が入っているので、休みにも出てこなければなりませんが・・・

今まで、憲法の問題については書いてきませんでしたが、日本の最高法規(法律よりも上の効力を持っている)ですので、今回からちょっと考えてみたいと思います。

 

また、この裁判例は、公務員の労働問題とも関連しているという点でも重要です。

 

ごく最近(今年の1月16日)に出た最高裁の判例について考えてみましょう。

 

事案を簡単にしてご説明しますね。

 

公立高校又は公立養護学校の教職員の方が、卒業式で、国旗に向かって起立して国歌(君が代)を歌わなかったり、ピアノ伴奏を拒否しました。

 

これを理由に、教育委員会から戒告処分や減給処分を受けたという事案です。

 

まずは、これがどうして憲法の問題となるかを考えなければなりません。

 

日本国憲法は、思想・良心の自由19条で保障しています。

 

つまり、どのような思想をもつか、どのような良心に従って行動するかは、個々人の自由であるのが原則なのです。

 

この事案でも、教職員の方は、「日の丸」という国旗や「君が代」という歌が、過去の日本の歴史で、戦争の助長など悪い役割を果たしたと考えたようです。

 

そして、そのような歴史観・世界観を心の中で持つこと自体は、日本の憲法19条で保障されています

 

この点については、争う余地はありません。

 

問題は、公務員が、心の中で思っているだけでなく、法律・規則・学習指導要領に従わない行動をとることまで憲法19条は保障しているかという問題です。

 

思想・良心の自由といえども、それが心の中にとどまらず、行動として他の人に影響を与える場合には、制約を受けざるを得ません。

 

憲法は「公共の福祉」(12条・13条)という言葉で、その制約を認めています。

 

それでは、一部の教職員が、卒業式で、国旗掲揚の時に起立しなかったり、君が代を歌わないと、他の人に影響を与えるのでしょうか。

 

①卒業式に対する積極的な妨害行為ではない点を重視すれば、他の人には影響を与えないと思います。

 

これに対して、卒業式で生徒・教員の殆どが起立して歌っているのに、1人か2人の教員だけが座ったままでいる場面を想像してください。

 

見方によっては、②卒業式の厳かな雰囲気が損なわれるとか、公務員なのに、自分の思想次第では学習指導要領に従わなくても良いということになってしまうのは不都合だとも言えます。

 

最高裁の裁判例では、教育委員会の戒告・減給処分が裁量を逸脱して違法だという結論を出す場合には、①前者を重視します。

 

これに対して、教育委員会の戒告・減給処分が裁量の範囲内で適法だという結論を出す時には②後者を重視します。

 

次回から、両方の結論を出した最高裁の裁判について、それぞれご説明していきたいと思います。

 

「憲法のお話」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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会社が労災保険に入っていなかったけど大丈夫?

梅雨も明けたようで、暑い日が続きますね。

 

皆さんも、熱中症など、体調にお気を付け下さい。

 

さて、今回は労働問題について、書いてみたいと思います。

 

今回は、労働者災害補償保険、通称では「労災」と言われているお話をしてみたいと思います。

 

労災とは、労働者が業務上で負傷・疾病・障害を負ったり死亡した場合にでる保険金です。

 

保険ですから、保険料を支払わなければなりません。

 

これは、国が保険会社の代わりに保険者となって、保険料は会社と労働者とで支払うことになっています。

 

会社の方が労働者よりも多めに保険料を支払うことになります。

 

では、何のためにこんな保険があるのでしょうか。

 

会社など使用者には、労働者が安全に勤務できるよう配慮する安全配慮義務が法律で定められています。

 

ですから、業務上の事故で労働者が負傷や死亡した場合、その事故を防止するための安全配慮義務違反になれば使用者に賠償義務があります。

 

でも、小さな会社や個人事業主では、実際には何千万もの賠償義務を果たせない場合があります。

 

また、事業主に過失が無いと認定されてしまえば、事業主から賠償金をもらうことができません。

 

そこで、あらかじめ労働者を保険に加入させておいて、業務上の負傷や死亡が生じた時には、国からの保険給付で損害を補償する制度を設けたんですね。

 

労災保険は一人でも従業員を雇用していれば、事業主に加入義務があります。

 

でも、小さな会社や個人事業で従業員が数人しかいない場合、労災保険への加入手続をとっていないところも現実にはあります。

 

このような場合に、労働者が業務上の事故で負傷や死亡した場合には保険金は給付されるのでしょうか。

 

結論としては、労災認定されれば保険給付なされます

 

ですから、負傷された方や死亡した方の遺族は、労働基準監督署にしっかりと申請をしましょう。

 

これに対して、保険料を納めていなかった事業主は、支払わなかった保険料の他に追徴金が課されることになりますので、加入を忘れないようにしましょう。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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判例タイムズ~電子版

皆さん、この連休はどのようにお過ごしでしょうか。

 

私は、2日間仕事で、今日は休みながらブログを書いたりしています。

 

背景も、紫陽花の季節も終わりということで、夏らしく、金魚の涼しげなものにしてみました。

 

さて、法律の実務家がよく読む裁判の雑誌として、判例タイムズという本があります。

 

これは、1ヶ月に2回、最近の重要な判例について紹介されているもので、判例時報とともに、有名な雑誌です。

 

今まで、裁判所の資料室や図書館で読むことはあったのですが、定期購読してしまうと、置き場所に困ることもあって、躊躇していました。

 

しかし、最近は便利なもので、「電子版」というものがあるんですね。

 

ネット上でログインすれば、どこでも自分が購読した判例タイムズが読めるというものです。

 

その上で、紙として必要な裁判例があればその時だけプリントアウトすれば良いというものです。

 

最近のものはiPadにも対応しているので、外でも自由に見ることができます。

 

本がたまっていって、置き場所に困るということもありません。

 

「これは便利!」と思わず、今月号から定期購読することにしました。

 

今後は、この判例タイムズにのっている最新の裁判例についてもご紹介していきたいと思っています。

 

「これはちょっと面白いな」という裁判例をピックアップしたいと思っていますので、今後とも、ご愛読のほどをよろしくお願いいたします。

 

では、連休最後の日を、お楽しみください。

 

「ご報告や雑感」のブログ過去記事についてはこちらへどうぞ。

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