弁護士、転ばぬ先の杖?

緊急事態宣言の効果もあって、全国的に感染者数は減ってきていますね。

 

これからのワクチン接種がどのようになっていくのかは、先行しているイスラエルの情報などを見ながら手探りということにはなるのでしょう。

 

飲食・観光・イベント業関係などの業界、非正規雇用など社会的・経済的に弱い立場の方々に重い被害が生じていますね。

 

早期の対策と収束を願ってやみません。

 

さて、第一法規という法律の専門書を発行している出版社が「弁護士 転ばぬ先の経営失敗談」(編著:弁護士 北 周士)という本を出しています。

 

出版は今から5年ほど前ですが、最近になって読む機会がありました。

 

つい忘れがちなことや再確認させられることもあって、とても参考になりました。

 

依頼者の方との関係では、「事案の進捗はこまめに伝える」「何か変だと思ったら受任しない」という項目が印象的でした。

 

「こまめに伝える」大切さは、弁護士業界の研修でも良く言われます。

 

連絡が取れない、打合せができない、というような苦情が相当数あるからだと思います。

 

事案がどのように進んでいるのかは、依頼者の方の気持ちの安定のためには必要なことです。

 

更に、それだけでなく弁護士のためにも必要です。

 

弁護士がどのようなことをしているのか、そのつど知っていただくことで、依頼者の方が解決内容や弁護士報酬について納得できるということです。

 

弁護士が依頼者との良い信頼関係を築くための必須の要素ということでしょう。

 

また、「何か変だ」と思う事案として、交通事故事案で休業損害証明書を偽造されたという事案が紹介されていました。

 

依頼者が、実際は無職だったのに「働いていたのに給与が出なかった(有給をとった)」と嘘をつきました。

 

そして、会社が発行する証明書を偽造したということです。

 

市役所などが発行する所得証明書など、しっかりとした根拠があれば良いのですが、それが無い場合もあります。

 

例えば、勤務先が個人企業で税金の申告をしっかりとしていないというようなケースです。

 

交通事故の被害者がしっかりと働いていれば、勤務先がルーズで書類がないという理由で、休業損害を請求できないというのはおかしいですよね。

 

そのため、過去の裁判例でも、税金の申告の資料がなくても、損害が実際に生じていればこれを認めた事案も多々あります。

 

そのため、今回の事案でも同じケースだと考えて引き受けることはあり得ます。

 

結局、弁護士が、その仕事や社会的な経験・知識に基づいて、合理的な事情があるのか判断するしかないことになります。

 

独立・開業当初は、経験が浅かったり、仕事がすくなかったりで、欺されやすい要素があるので特に狙われやすいようです。

 

おそらく、似たようなトラブルは、他の業界で独立・開業する場合にもあるのでしょう。

 

これから、独立・開業する可能性のある方々は、お気をつけ下さい。

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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緊急事態宣言と裁判

コロナウィルス感染の増大を防止するために、一都三県で緊急事態宣言が出ましたね。

 

飲食店など一定の職種に限っての時短営業など、春先の緊急事態宣言よりも緩やかな内容となっているようです。

 

経済の維持と医療崩壊防止のバランスを考えたものでしょう。

 

春先は全国的に裁判所の期日が約1ヶ月間取り消されました。

 

一見、1か月間、裁判をやらないだけなので、大きな影響はないように見えます。

 

確かに、営業そのものが停止されたり、時短される飲食業と比べると影響は少ないでしょう。

 

ただ、この期日の取消の負担は、私たち法曹関係者には遅れて大きな負担となってきます。

 

なぜなら、期日が取り消されて裁判が止まっている間も、新たなご相談があり、裁判所に訴訟や調停の申立をしていくからです。

 

裁判、調停、自己破産、個人再生などの申立の中には、緊急性が高いものがあります。

 

早く進められれば良いのですが、裁判所での手続は、オンラインやテレワークで出来ないことが多く、結局全ての事件が遅れていくことになります。

 

その春先の遅れが、最近になって、やっと取り戻せそうになってきたところです。

 

もし、全国に緊急事態宣言が広がって、また期日が取り消されたら今度は取り戻すのに1年くらいはかかりそうです。

 

医療崩壊ほど直接命に関わる問題ではありませんが、やはり人と人との紛争や自己破産は、間接的には生死に関わることもあります。

 

全国に緊急事態宣言が広がっても、このような春先の苦い経験を味わっているので、裁判の期日取消まではされないのではないかと予想されます。

 

実際、緊急事態宣言が出されている、東京地裁などで期日を取り消したという話は今のところ聞いていません。

 

影響が少ないように見える裁判手続においても、実は、緊急事態宣言は重い負担となっています。

 

裁判所の手続といっても、普通の民事裁判では弁護士だけが出頭することが多いので、感染リスクは少ないと思われます。

 

ただ、ご本人が出頭されるときには、それぞれの弁護士が発熱などの体調不良がないか、ていねいにお聞きしています。

 

調停手続では、狭い待合室に長時間大人数が待っていることはリスクが大きいでしょう。

 

そのため、現在は、待合室の数を増やしたり、2時間の枠で行っている調停を短めにするなどして、感染防止を図っています。

 

当事務所でも、相談が終わる度に机を除菌したり、プラズマクラスター機能のある空気清浄機を置いたり、換気扇を1日中回し続けたりなど、感染防止の対策をとっています。

 

コロナ感染防止を徹底しつつ、経済を止めてしまわないように、それぞれが耐えて頑張っていきたいものですね。

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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民法改正の講師をして

急に寒くなってきましたね。

 

日本海側では大雪のようですが、静岡では晴れの日が続いています。

 

私は「朝の気温が5℃!」と寒がっていますが、全国の気温を見ると静岡は本州で一番暖かいようなので、文句は言えません・・・

 

今年の4月1日から民法の債権法の分野の改正法が適用されるようになりました。

 

全日本不動産協会(静岡県本部)が宅地建物取引士の資格を持つ方々へ法定講習をしており、民法改正も講習を行う予定でした。

 

宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引の専門家として売買契約や賃貸借契約のときに重要事項を説明するなどの業務を行う資格です。

 

重要な業務を行うことから、民法や宅地建物取引業法などにも精通している必要があるため、法定講習を開くということです。

 

ところが、今年は、コロナウィルス感染防止のために一時講習の開催をストップしていました。

 

ただ、民法改正は非常に重要なため、感染防止の対策をとって行うことになりました。

 

そのため、講師の私(谷川)の前に透明なアクリル板を立てて飛沫防止対策をとって講習を行いました。

 

下の写真だと透明度が高くて、良く見ないと分からないかもしれません。

 

まず、静岡市の会場の写真です。

会場は、静岡県男女共同参画センター「あざれあ」のホール。

 

密にならないために、100人の受講者のために、300人入る会場を用意していただきました。

 

画面右側の幕の裏から出ていくのが、いつもと違って新鮮でした。

 

こちらが沼津会場の写真。

沼津駅前のプラザヴェルデのホールで行いました。

 

そして、浜松会場。

浜松駅前のアクトシティ浜松のホールで行いました。

 

改正の内容としては、例えば、今年の3月31日までは「瑕疵担保責任」と言われていたものが「契約不適合責任」と言葉も法的性質が変わっています。

 

売主の責任を判断するときの基準や責任の範囲が大きく変わっため、皆さん真剣に聞いていただけました。

 

「パネルを外して受講される方に臨場感を感じていただける日が、できるだけ早く来ると良いな」と改めて思わされました。

 

「ご報告や雑感」のブログ過去記事についてはこちらへどうぞ。

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裁判所の待合室での詐欺

先日、TVの全国番組のコーナーで、東京からの移住先として静岡が人気だと言っていました。

 

その理由として、東京まで新幹線で1時間という利便性、温暖な気候(「日本のフロリダ」だそうです。)、食べ物が美味しい、人柄が穏やか、などがあげられていました。

 

住民としては、いずれも当てはまると実感していますが、「恵まれすぎていて闘争心が起きないので、偉人が少ない!」と言われることも・・・

 

さて、先日、静岡地方裁判所の待合室貼り紙がありました。

 

「裁判所の待合室で現金を受け渡す詐欺にご注意ください。」

 

ビックリして、裁判所の方に雑談のときに聞いてみたところ、裁判所の待合室で、そのような事案があったので注意喚起しているとのことです。

 

今まで、弁護士や法律事務所の職員をかたって現金を受け取る詐欺は数多く見てきましたが、裁判所を使うというのは大胆な方法です。

 

待合室には、期日を待っている弁護士がいたり、いつ入ってくるか分からないからです。

 

では、私が裁判所の待合室で待っているときに、隣で数百万円の札束の受け渡しをしていたら、不審に思って裁判所職員に伝えるでしょうか?

 

一定の条件を充たしていれば(内容は詐欺を助長しないために伏せますが)、不審にすら思わないと思います。

 

なぜなら、裁判所で和解をするときに、現金の受け渡しをすることは珍しくなく、それを待合室で数えたり、渡したりすることも十分あり得るからです。

 

私の経験でも、500万円くらいまでなら、裁判所の和解期日で裁判官の前で受け渡しをしたことは何度もあります。

 

例えば、和解で支払義務を負う被告が安定した職を持たないとか、零細自営業などの場合、和解で約束しても実際に振り込まれないリスクはあります。

 

そのような場合には、裁判の期日で現金を受け渡して、和解調書に「原告は、被告から本日300万円を受領した」と書いてもらって領収書代わりにするのですね。

 

500万円くらいになると数えるのが大変で、慣れていない私が苦労していたら、裁判官と書記官が分担して数えてくれたこともありました。

 

そのため、待合室で、裁判の和解の期日前に、確認のために数百万円のお金を渡して数えたりすることもありうるのです。

 

そのような盲点を突いた詐欺が行われているということです。

 

「弁護士、法律事務所職員をかたって現金を受け取った」という記事を見る度に、私が気分が悪くなるのですから、裁判所も相当警戒しているでしょう。

 

私も、これまでだったら「和解の準備かな」とスルーしていたことですが、この貼り紙を見てから「待合室での現金の受け渡しを見たら注意して見ていこう」と思い直した次第です。

 

皆さんも、万が一、「裁判所の待合室に呼び出されている」という話を聞いたら、まずはそこの裁判所に電話をして確認していただくことをお勧めします。

 

※ 詐欺の被害を防ぐためにお役に立つと思われた方は、リンクを共有していただければ。

消費者被害の一般的なご説明についてはこちら

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カテゴリー: 消費者の被害 |

駿河湾のサクラエビ解禁と密漁

駿河湾のサクラエビには春漁と秋漁があります。

 

今が秋漁の旬ですから、通常なら静岡県内の自宅やお店の食卓を賑わしている頃です。

 

ところが、このサクラエビ、この2年ほど記録的な不漁が続いています。

 

サクラエビは、日本国内では、静岡市清水区由比沖と焼津市から御前辺りの沖でしか獲れません。

 

資源管理の観点から、静岡県桜えび漁業組合で自主規制をしていて、今日、2020(令和2)年11月1日から12月23日までが漁の解禁期間となりました。

 

この規制は自主規制ですが、漁については法律上の様々な規制がされていて、刑事罰も定められています。

 

海に面していて、川も多い静岡県内で魚介類をとるときは、うっかりと密漁にならないか気をつけなければいけません。

 

密漁犯罪になるケースは多いです。

 

私(谷川)が静岡県漁連の役員を担当している関係で、漁師さんとお話をする機会があります。

 

その中で、例えば、ウニやアワビなどが伊豆、静岡県中部などで獲れますが、これを旅行客や遊びに行った人が獲っていって困る、という話を聞くこともあります。

 

ウニやアワビのように漁業権の対象として保護されている水産物を勝手に獲ることはできません。

 

もし獲った場合には漁業権の侵害として 、被害者からの告訴があれば20万円以下の罰金となります(漁業法143条)。

 

また、漁業調整規則でも都道府県ごとに決まりがあり、サザエ、アワビ、伊勢エビなどの無断捕獲が禁じられています。

 

釣りをしていて、例えば伊勢エビがかかってしまった時には獲りたい誘惑にかられるかもしれませんね。その気持ちは分からないでもありません。

 

でも、この密漁、悪質な場合には、この罰則で実刑になることもあるので注意が必要です。

 

密漁について刑事弁護を担当したという話を他の弁護士から聞くこともあるので、静岡では良くある犯罪なのかもしれません。

 

漁業が盛んな都道府県でこそルールを守って釣りや漁をしたいものですね。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 刑事事件のお話 |

静岡の裁判所でもIT裁判が導入

休日に中部横断自動車道を通って、山梨県の道の駅「なんぶ村の駅」をのぞいてきました。

 

色々な農産物をながめていると、この作物がありました。

なんと、カボチャだそうです。ビックリしました。

 

ハロウィンの飾りのために顔を作ったらどうなるのでしょうか……

 

さて、世界的な流れだと言われる裁判のIT化

 

新聞でも何度も報道されて、全国の裁判所で少しずつ導入が始まっています。

その流れの中、静岡地方裁判所本庁でも今年(令和2年)の12月14日からIT裁判の導入が始まることになりました。

 

もっとも、現在予定されているIT化を全て行うためには、民事訴訟法を中心とした法改正が必要となります。

 

そこで、まずは法改正なしで導入できる段階(フェーズ1)から始めることになっています。

 

今年もコロナウィルス感染の問題がなければ、弁護士会と裁判所とでIT化について協議をする場を多く設けられる予定でした。

 

しかし、大人数での会議はNGということになったため、裁判官と弁護士少人数のパートで検討して、ひとまず第一段階まではこぎ着けることになりました。

 

裁判所と弁護士にとって便利な運用としては、インターネットの画面共有ソフトを使って、弁護士が裁判所に出頭しなくても良い手続を増やすところから始まります。

 

マイクロソフトTeamsというソフトを使って、担当裁判官と裁判の代理人弁護士とで裁判のためのグループをつくります。

 

裁判期日に、弁護士は法律事務所のPCから認証を受けて参加して、裁判官、双方代理人弁護士が画面を共有して議論したり、書類の確認をしたりするということです。

 

今までも「電話会議システム」という方法で、一方の弁護士が出頭すれば、片方の弁護士は電話でも出席扱いとして対応が認められていました。

 

これをPCを使ってできるようにすると同時に、例外的に認められていた双方が出頭しないで行う裁判手続(書面による準備手続)をTeamsを使って積極的に行おうとするものです。

 

これにより、例えば静岡市でも裁判所から少し離れた法律事務所の弁護士は、いちいち裁判所に出頭しないで事務所で裁判に対応することができるようになります。

 

また、静岡地方裁判所の沼津支部や浜松支部でも同様の導入がされれば、私のように静岡市の事務所の弁護士にとっては、沼津支部、浜松支部の事件もやりやすくなります。

 

依頼者の方から見た場合、IT手続を積極的に使える弁護士であれば、実費や日当が安くなるため遠方の裁判での弁護士費用が前よりも安くなるという点は良いことでしょう。

 

ただ、依頼する弁護士については、面談して相性や信頼性を確認したり、不安なときに相談する必要があるので、お近くの弁護士に依頼すべき点は変わらないと思います。

 

この11月に2回ほど裁判所と弁護士会とでIT化の実演やテストが行われるので、確認をして当事務所でも使えるようにしておこうと思います。

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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カテゴリー: 裁判手続きで知っておきたいこと |

契約社員の退職金不支給

正社員には支給される退職金が契約社員には支給されていないとして、㈱メトロコマースの契約社員が格差是正を求めた裁判について、最高裁判所(小法廷)は契約社員の上告を棄却しました(日本経済新聞 2020.10.13配信)。

 

労働契約法の旧20条(現在の「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」8条)が禁じる「不合理な格差」にあたるかどうかが争点となった裁判です。

 

結論としては、契約社員(非正規雇用)の退職金を認めなかったことになります。

 

ただ、最高裁の小法廷は5人の裁判官から構成されており、そのうち1人の裁判官は正規と非正規の間に業務内容に変わりががないこと理由として反対意見を出しています。

 

同一労働同一賃金というスタンスは厚労省も数年前から打ち出していますので、反対意見が1人と軽視することはできないように思えます。

 

今後、企業側、労働者側とも判決の推移を注目していく必要がありそうですね。

 

「時事とトピック」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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カゴパクと窃盗罪

「カゴパク」という言葉を知っているでしょうか?

 

スーパーの「カゴ」「パク」る(盗む)の通称だそうです。

 

レジ袋が有料化されてから、それに代わる袋、いわゆるエコバッグを持って買物をするようになった方も多いと思います。

 

私もコンパクトなエコバッグをカバンの中に入れているのですが、時々困ることがあります。

 

例えば、容器が大きめのお弁当を買ったときに、水平に入れられず、かといって横向きにすると中の汁が漏れそうなときです。

 

そんなときはエコバッグに入れて、取っ手を持たず、弁当が水平になるようにウェイターのような姿勢で持っていきます。

 

「果たしてエコバッグを使う意味はあるのだろうか?」と自問自答しながら・・・

 

そんなとき、商品をレジで精算した後カゴに入れたまま家まで持って行ければ楽なのでしょう。

 

ちなみに、スーパーの商品の代金を支払わないでカゴごと持って行くのは、以前からある窃盗犯です。

 

今、問題となっているカゴパクは、商品はレジで精算した上で、カゴに入れて持って行くという行動です。

 

私(谷川)が担当の時の当番弁護事件や国選弁護事件でこのような事案の担当になったことはなく、他の弁護士からも聞いてはいないので、静岡県中部地域では少なくとも検挙されてはいないようです。

 

検挙されないとしても、厳密に見た場合、これは窃盗罪になるのでしょうか?

 

まず、スーパーのカゴのような財産的な価値が低いものでも窃盗罪になるのでしょうか?

買い物カゴのイラスト(中身なし)

最高裁(大審院)の判例では、窃盗罪の対象となる「財物」については財産的価値を問わないとして価値がほとんど無いものについても窃盗罪を認めています。

 

例えば、

・無効な手形

・神社内に安置された木造1体と石塊

・消印済の収入印紙

も「財物」として窃盗罪の対象となるとしています。

 

ただし、高等裁判所では,

・メモ用紙1枚

・ちり紙13枚

を盗んだ事件を窃盗未遂としている例もあります。

 

これらと比べると、スーパーのカゴは何度も使えますし、便利だからこそ持って行ってしまうのだから、財産的価値は十分あり「財物」といえます。

 

では、このときスーパーの常連さんがカゴパクするのと、初めて来た人がカゴパクするのとでは法律的に何か違いがあるでしょうか?

 

場合によっては違うことはありえます。

 

「使用窃盗」といって、最初から一時的に借りるつもりで持って行く場合には、返すつもりがあるのだから窃盗にあたりません

 

刑法の解釈では「不法領得の意思がない」と言います。

 

ただ、これを主観的に捉えてしまうと、多くの窃盗犯が「返すつもりだった」と言い出しかねません。

 

そこで、一時使用のつもりだったかどうかは、客観的事情から判断するしかないことになります。

 

そんなとき、近くに住む常連さんで、実際にカゴを返したり持って行ったりしていたような場合には、その行動から使用窃盗として窃盗罪に当たらない可能性もあります。

 

これに対して、遠くに住んでいて、初めて来たようなお客さんの場合には、カゴパクという行動はカゴを遠くへ持ち去る意思しか認められません。

 

従って、窃盗罪にあたることになります。

 

もっとも、常連さんだからといって、必ず窃盗にならないとは言えません。

 

カゴを持って行って、1週間返すのを忘れていれば「返すつもりだった」という言いわけはききません。

 

いずれにせよ、お店にとっては、店内で使用できるカゴが減って困るでしょうから、やはりカゴパクは止めるべき迷惑行為なのでしょうね。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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俳優の労災申請

俳優の恩田恵美子(おんだ・えみこ)さん(83才)が、TVドラマの撮影現場で足の骨を折ったとして、休業補償を求める労災申請をしました(共同通信社 2020.09.26配信)。

 

労災の申請は、通常は使用者と雇用契約(労働契約)を結んで、使用者の指揮監督に服する「労働者」が行うことが予定されています。

 

しかし、俳優が雇用契約という形での契約をしていないことが多いことから「労働者」と言えるのかは難しい問題です。

 

俳優は自分の判断で個別の仕事を受けるかどうか決めて、受けた役作りについて裁量で表現する部分はあるでしょう。

 

会社の従業員と全く同じように、使用者(上司)の命令に従う仕事ではありません。

 

そのため、労災の対象となる「労働者」として認められない可能性もあり、どこまで労災が認められるかの先例として注目されています。

 

「時事とトピック」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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偽訴訟の詐欺ハガキを郵送してもいいの?

急に涼しくなって、秋らしい気候となってきましたね。

 

ちょうど良い気温がしばらく続いて欲しいものです。

 

さて、以前、私(谷川)のところにも偽の訴訟通知のハガキが届いていたことはお話しました。

 

静岡市だけでなく、隣接する焼津市・藤枝市・島田市あたりの方からもご相談を受けることがあるので、静岡県内でもこのような詐欺が頻発していたようです。

 

「民事訴訟告知センター」なるところから、裁判をおこされていて給与や不動産の差押えをするというような内容です。

詳しくは↓の記事をご参照下さい。

訴訟最終告知の葉書でビックリ

 

このハガキ、最近は封筒でも届くことがあるそうです。

 

東京都消費生活綜合センターや共同通信の記事で注意喚起がされています。

 

確かに、ハガキだと怪しい感じが強すぎることや、色々な人の目に触れるので、家族から止められたりし易いので、本人だけが見るような封筒にしたのでしょう。

 

そう考えると、郵便局の人がハガキを見て「詐欺だ」と気づくこともあるでしょうから、そんなハガキを郵送して良いのか?という問題はあります。

 

実際、警察関係からは犯罪予防のために、日本郵政が対応すべきとの意見も出ているようです。

 

しかし、ここで大切な権利の問題が出てきます。

 

私たちの「通信の秘密」(憲法21条2項後段)を侵害しないかという問題です。

 

もし、日本郵政にハガキの内容から、詐欺か?詐欺でないか?の判断をさせるとしましょう。

 

そのためには、ハガキの文書を呼んで判断しなければなりません。

 

つまり、私たちの出すハガキの内容を郵便局員が読むことが前提となるのです。

 

通信の秘密は、プライバシー権表現の自由守るために非常に重要な権利です。

はがきを読む人のイラスト(女性)

これが法律で制限されているのは、例えば、

① 刑務所に入っている人の手紙を刑務所の管理者が検査するとき

② 破産した人の手紙を破産管財人が財産調査のために確認するとき

など極めて限定されています。

 

そのような場合と同じくらい、大切な権利を制限する必要があるのか疑問です。

 

また、私たちが友達同士だけがわかるジョークを入れてハガキを送ったら、「内容が不審」として返されてしまうかもしれません。

 

詐欺が横行しているからという理由で、ハガキの内容が適切かどうかの判断を日本郵政という郵便を独占する企業に委ねて良いのかは難しい問題です。

 

組織的にやってしまうと、やはり直接又は間接的に憲法21条2項違反となる危険があります。

 

そういう意味では、やはり報道や消費者センターなどで、情報提供していくしかないのでしょう。

 

ということで、ハガキはもちろん封筒であっても、全く心当たりがない訴訟の告知だったら、警察・消費者センター・近くの弁護士の無料相談などで確認することが大切でしょうね。

 

※ 詐欺の被害を防ぐためにお役に立つと思われた方は、リンクを共有していただければ。

消費者被害の一般的なご説明についてはこちら

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