あしたのジョー

こんにちは、弁護士の谷川です。

 

私が子供の頃はマンガは大人が読むものではなく、子供が遊びに読むものだというのが常識でした。

 

そのため、マンガよりも本」「マンガよりも勉強」の方が大切だと良く言われました。

 

今では、マンガが「日本の文化」として取り上げられるようにはなったので、考え方は変わってきているようには思えます。

 

確かに、マンガは字より絵にスペースを割いているため、自分で想像する余地が少なかったり、読者層が子供から大人まで広く想定しているという面はあります。

 

ただ、その反面で、絵柄から受ける印象がダイレクトだったり、文字が少ないが故のスピード感や気軽さなど、読書とは違う楽しみもあるように思えます。

 

私も、今でもマンガも読書、音楽、サッカー観戦などとともに、大切な趣味として楽しんでいます。

 

このブログを書いている時点で連載中のマンガでは、「リアル」「暗殺教室」「ワンパンマン」「銀の匙」あたりを楽しんで読んでいます。

 

過去に読んだマンガで1冊選べと言われたら「あしたのジョー」でしょうか。

 

絵を「ちばてつや」が描き、「高森朝雄梶原一騎)」がストーリーを書いた作品です。

 

梶原一騎は「巨人の星」「タイガーマスク」などの作品で有名なマンガ作家ですが、とにかく自分の作ったストーリーには誰にも口を出させなかったということです。

 

そのほぼ唯一の例外が、「ちばてつや」だったとのことです。

 

まさに、「あしたのジョー」は、高森朝雄(梶原一騎)とちばてつやとのシナジー効果が爆発しています。

 

余りにも有名なラストシーンは、高森朝雄のストーリーでは、トレーナーの丹下段平が、「お前は試合には負けたが、勝負には勝ったんだ」というセリフをかけて終わるはずだったそうです。

 

しかし、ちばてつやが、以前、同年代の若者が遊び回っている中、ストイックな生活をするジョーに、紀ちゃんという同世代の女の子から

「あまりに悲惨で暗すぎる青春」

と言われて答えた言葉を思い出したそうです。

 

「ほんの瞬間にせよまぶしいほど真っ赤に燃え上がるんだ」

「そして、あとには真っ白な灰だけが残る・・・燃えカスなんかのこりやしない・・・真っ白な灰だけだ」

「そんな充実感は拳闘(ボクシング)をやる前にはなかったよ」

 

そこで、多くのマンガファンが知っている世界チャンピオンと戦って燃え上がり「白い灰」になるというラストシーンが生まれたということです。

 

特に、ボクシングマンガが好きという訳ではなかったのですが、とにかく奥が深い作品で、さまざまな観点から人間の生きざまを考えさせられるので、何度も読み返しました。

 

今でも、私の部屋に大切に置いてあります。

 

ストーリーで有名な所は、主人公のジョーと力石徹の少年院時代からのライバル関係、ジョーが力石との最後の対戦で負けながらもその実力を素直に認める場面、そして、その直後に息を引き取る力石のシーンでしょう。

 

マンガの連載中に、力石が死亡した後には、本物の葬儀が力石のために行われ、多くのファンが全国から集まったくらいの衝撃でした。

 

実は、この力石の死は、ボクシングの体重制度に大きく関わっています。

 

ボクシングでは、体重ごとに階級を決めて、同じ階級同士の選手でしか戦えないんですね。

 

そこで、本来はウェルター級の体格だった力石が、ジョーと戦うために3階級も下のバンタム級まで無理な減量をしたことが、ジョーとの試合直後の死亡につながったというストーリーです。

 

これも詳しい方は知っているかもしれませんが、ストーリー全体の真ん中のあたりで最大のライバルが死んでしまうという手法は実は狙ったものではなかったとのことです。

 

ストーリーと絵を各人が別々に作るというスタイルで、高森朝雄がストーリーを作ると、ちばてつやがそれを、セリフまで修正しつつ書いていました。

 

高森朝雄は力石とジョーを永遠のライバルにするつもりで、同じバンタム級で戦わせる予定で書いていたそうです。

 

ところが、ちばてつやは、少年院での力石徹に迫力のある雰囲気を出すために、ジョーよりも身長も体格も一回り大きく描いてしまいました。

 

途中でプロボクシングの世界に2人が入る所で気が付いたようですが後の祭り。

 

ジョーがバンタム級なら、力石をウェルター級にしなければ、ボクシングに詳しいファンが承知しません

 

そこで、力石の無理な減量→試合直後の死亡という衝撃的なストーリーが生まれたそうです。

 

まさに、高森朝雄だけで書いていたら力石の死ラストシーンの燃え尽きるジョー無く、ちばてつやという天才絵描きとのコンビで初めてできたストーリーだったいうわけです。

 

リアルタイムで読んでいた多くのファンは最大のライバルである力石が死亡した時点で、これで「あしたのジョー」というマンガは終ったと思ったでしょう。

 

ところが、そこからが、第二章の始まりでした。

 

ジョーは力石を死なせたショックで思い切り顔を打てないボクサー(いわゆる「イップス」のようなもの)になって、華々しいリングに立てなくなります。

 

そこで、全国各地を回りながら、お祭りの余興のような喧嘩みたいなボクシングに落ちぶれていきます。

 

そこで登場するのが白木葉子です。

 

実は、明日のジョーはラブストーリーとしても一級品なのです。

 

白木葉子は、白木財閥のお嬢様で、初めの頃に少年院に慰問に訪れた際にジョーと会います。

 

ジョーは一目みて「気に入らない」と拒絶感をあらわにします。

 

丹下段平という片目のゴツいトレーナーに拝み倒されて、白井葉子は慰問の劇の役をやらせて少年院に入れるように取り計らいます。

 

ところが、その劇で丹下段平をムチで本気で叩く役にさせて、本物感を出そうとする姿を見て、親切なふりをして人を利用する人間と決めつけます。

 

「俺やここにいる哀れな連中のためじゃなく、自分のためにこんな慈善事業をやる必要があるんじゃないのかね。え?自分のためによ」

 

と一喝するジョーに対して、理解できない物を見るように絶句する葉子のワンシーンは考えさせられます。

 

葉子の美しさに見とれる他の少年院の入所者と違って、ジョーは、お金と時間が有り余っている中で慈善事業を行っている姿に、本当は「自分はこんなに素晴らしい人なのよ」とアピールしているような「うさん臭さ」を感じたのでしょう。

 

本来、ジョーは子供や女性にはとても優しくて、子供をいじめる人を許しませんし、女性の荷物は持ってあげたりしています。

 

しかし、唯一の例外がこの白木葉子なんですね。

 

ストーリーの最初から、どなりつけたり、物を投げたり、当たり散らしています。

 

これが「恋愛感情」ということにジョー自身が気が付くのが、ラストシーンの「白い灰になった」と言われる名場面の寸前、グラブをリングサイドの葉子に渡す時だったと私は解釈しています。

 

葉子は、初めは自分が力石を好きなんだと勘違いしていましたが、ジョーよりも少し早く、自分の恋愛感情に気付きます。

 

そして、その愛情表現の仕方が、すさまじいです。

 

力石の死によってボロボロになってさまよっているジョーに対し、

「今、この場ではっきり自覚しなさい」

「力石くんのためにも、自分はリング上で死ぬべき人間なのだと!」

と詰め寄ります

 

そして、イップスでプロボクシングが出来ずに、地方でドサ回りをしているジョーに対して、ショック療法を試みます。

 

白木葉子は、自分でボクシングジムを経営しはじめ、海外で相手を壊してしまうので対戦相手がいないといわれているカーロス・リベラという選手を日本に呼んで興行権を独占します。

 

ドサ回りでたまたま雨で興業がなかった夜に、ジョーはTVで、カーロスが日本での対戦相手が居なくならないようにわざと弱いフリをしている試合を見ます。

 

カーロスが持っている「世界6位」というタイトルを餌に、トレーナーが日本の選手たちを相手にビジネスをリング上でしているというわけです(ボクシングでは、例えば世界6位に勝つと、そっくりその地位を手に入れられるという仕組みになっています)。

 

ジョーは、カーロスのこの演技に誰も気づかないのにイライラして、居てもたってもいられなくなります。

 

そういうジョーの性格を知り抜いていて、白木葉子はジョーがカーロスと戦わざるを得ない状況にジワジワと追い込んでいきます。

 

最終的にはリングの上で戦わざるを得なくして、ジョーの野生の本能を呼び起こさせ、顔を思い切り打てないというイップスを克服させます。

 

これをジョーは

「運命の曲がり角に待ち伏せし、ふいに俺をひきずりこむ・・・」

「まるで悪魔みたいな女だぜ」

「その悪魔が俺の目にヒョイと、女神に見えたりするからやっかいなのさ」

と表現しています。

 

これが、葉子の愛情表現で、自分も葉子を愛し始めていることにジョー自身が気付いていないんですね。

 

もともと、と言われて連想するイメージが「無責任」というジョーは、人の愛を知らずに育ってきたために、葉子の気持ちはもちろん、自分の気持ちにも最後になるまで気付かなかったということです。

 

そして、そのジョーの復活が、また、「パンチドランカー」(ボクシングのパンチを顔に受けすぎて、脳の機能に障害を起こし、最悪死亡することもあるという症状)という悲劇に引きずり込みます。

 

葉子自身も、世界的権威のドクターを連れてきてこっそり診察させたりして、自分がジョーを助けたのか、結局は「悪魔」だったのか悩みます。

 

しかし、結局は「自分がこの試合の首謀者」と自覚して、世界チャンピオンとの試合の終りの方のラウンドにはリングサイドまで行って、ジョーからグラブを受け取るという筋書きです。

 

灰になったジョーは、判定負けのジャッジを聞く前に、気を失うか死亡しているため、本人はジャッジは聞かずにストーリーは終わります。

 

この丹下段丙セコンドの「ジョー・・・」という呼びかけに答えないまま終わるという、意味深なラストシーンも物議を醸しだしました。

 

果たしてジョーは「気を失っただけなのか、死亡したのか」、「気を失った場合、パンチドランカーとして廃人になっているのか」がファンの間でマンガ完結後も議論されました。

 

その他にも、細かい魅力的な描写が数えきれないくらいあります。

 

少年院で、体の弱い青山という少年が、丹下段平からボクシングのフットワークを教わることで、ジョーを苦しませるシーン。

 

これは、丹下段平がジョーに、フットワークやディフェンスの大切さを体で教えるための戦略だったのですが、ジョーは段平に裏切られたと苦しみます。

 

それでも、体が小さくて、力が弱い青山でもフットワークを覚えることで、これだけ強くなってジョーが苦しむことで、ボクシングの奥の深さに気付かされるわけです。

 

また、ジョーが、「女性軽視」といわれてもしょうがない「女が立ち入れる世界じゃない」などの発言を繰り返しているのは、時代のせいでしょう。

 

もっとも、結局ジョーは、ビジネス力でも、人間としての器でも、男性よりも上に描かれている白木葉子に恋愛感情を持つのですから、しっかりとストーリーを読めば、決して全体としては女性軽視の物語ではないことが分かってもらえると思います。

 

何度も読めるというのも、物語の深さが理由なのでしょう。

 

熱く語ってしまいましたが……とにかく、マンガは楽しいということで。

 

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離婚訴訟中の妻(夫)に財産を相続させない方法は?

関東を中心に全国的に雨が続いていますね。

 

関東地方では、多摩川が世田谷付近で決壊寸前、鬼怒川は決壊してしまったようです。

 

被害にあわれた方へのお見舞いと、今後の被害が少なく終わることをお祈りします。

 

さて、夫婦の間でも相続が生じることは皆さんご存知のことと思います。

 

この根拠は「配偶者」は「常に相続人となる」と定める民法の規定です。

 

ですから、仮に、夫が死亡すれば、「配偶者」である妻は常に相続人となります。

 

その結果、子供がいれば、妻と子供ですべての夫の財産を相続することになります。

 

そして、子供が幼い場合、親権者として子供の財産を管理するのは妻ですから、結果的に妻が夫のすべての財産を自由にできることになってしまいます。

 

これは、夫が妻に離婚調停離婚訴訟起こしている最中でも同様です。調停中・訴訟中に夫が死亡してしまうと、調停・訴訟自体が終わってしまいます。

 

そうすると、離婚前に夫が死亡したとして、やはり妻が夫の財産を相続できるんですね。

 

では、夫婦関係が最悪で妻に財産を相続させたくない夫はどうすれば良いのでしょうか?

 

まず、できるだけ早く公正証書遺言で自分が一番財産を与えたい相手、例えば「親や兄弟姉妹にすべて遺贈する」という遺言を残すことが必要です。

 

もっとも、妻や子には遺留分があります。

 

遺留分というのは、遺言でも奪うことのできない相続分であり、妻や子供の場合には本来の相続分の1/2がこれにあたります。

 

そのため、財産の1/4は妻に、1/4は子に遺留分があるため、妻と子が遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)をすると合計1/2の夫の財産を妻子が取得できることになります。

 

そこで、夫は二つの手段を同時に進める必要があります。

 

① 離婚調停を飛び越して離婚訴訟を行うようにすること

 

② 遺言の中で「推定相続人廃除」の意思表示をしておくこと

 

です。まず①の点ですが、離婚では調停前置主義と言われて、訴訟の前に調停を行わなければなりません。

 

しかし、今回のケースのように夫が重い病気の場合には、調停をしている時間がありません。

 

そこで、診断書をつけるなどして、調停をしている時間が無い切迫した事情を家庭裁判所に説明の上で、直接離婚訴訟を起こせば、家庭裁判所は調停に回すことなく、離婚訴訟として受け付けてくれます。

 

そこで、できる限り原告となる夫は訴状ですべての主張と証拠を出して、裁判官に次回期日を短めの期間で入れてもらうよう要請します。

 

そうすることで、夫が生きているうちに離婚判決が確定すれば、妻はその時点で相続権を失います。

 

次に②の「推定相続人廃除」の準備をしておくことです。

 

これは、相続人から「遺留分を奪い去る」裁判所の審判を求める手続きです。

 

ただ、ひどい相続人の相続分を奪うためのものですから、以下の一定の要件がある場合にのみ認められます。

 

・夫(被相続人)に虐待・重大な侮辱を加えた場合

・妻(相続人)にしい非行があった場合

です。

 

ですから、例えば、夫は妻の不貞の証拠や暴言の録音などを証拠としてしっかりと残しておいて「著しい非行」や「重大な侮辱」の主張をしていくことになるでしょう。

 

そして、相続人の廃除は遺言でもできますから、もし、自分が死亡してしまいそうだったら、遺言の中で特定の相続人(このケースでは妻)を廃除しておかなければならないんですね。

 

離婚訴訟中だとしても、一方が死亡してしまうと訴訟は終了して、夫婦間で相続が始まってしまうということを、もう一度再確認しておいてください。

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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「司法試験の問題漏えい」のニュースを聞いて

今年の司法試験問題漏えいが話題になっていますね。

 

「司法試験」というのは、法曹と呼ばれる裁判官・検察官・弁護士になるための試験です。

 

どの仕事につくにせよ全員同じ試験を受けて、同じ実務研修を受けてから、それぞれの道に進むわけです。

 

そして、万が一ですが皆さんが訴訟に巻き込まれて判決を受ける場合には、その判決を決めるのは裁判官です。

 

仮に、自分の親や子供が交通事故を起こした時に、正式な裁判を求める請求(起訴)するかどうかを決めるのは検察官です。

 

さらに、みなさんが離婚、相続、交通事故、借金の問題や刑事事件の弁護を依頼したいときに頼るのは弁護士です。

 

そういう意味では、皆さんの人生を左右することもある実務家を決めるフィルターが司法試験ということになります。

 

ですから、司法試験は法律実務家の能力を計かるだけの一定の水準を保った試験でなければいけませんし、公正に行われなければなりませんよね。

 

私が受験していた頃とは変わって、2004年4月から、大学を卒業した後で、「大学院の2〜3年で法律学習に偏らない教育をやる」という目的をもって法科大学院制度が作られました。

 

つまり、大学の後にさらに法科大学院に入って卒業することが主流で、もしそれを回避したければ、別の「予備試験」という試験を通過する必要があるという制度設計です。

 

そのため、司法試験や法曹実務家への道における「法科大学院」は、裁判官・検察官・弁護士になるには避けては通れないものとなっています。

 

今回、問題となったのも、その法科大学院の教授の問題漏えいです。

 

つまり、「考査委員」と呼ばれる試験問題を作成し、採点する委員が、試験問題を、自分が教えている明治大学法科大学院の受験生に漏らしていたということです。

 

漏らしたのは、憲法の分野ではそれなりに有名な学者です。

 

実は、司法試験の問題の漏えいは、今回が初めてではありません。

 

この事件の前にも、別の法科大学院の教授が試験問題と類似した問題を自分の大学の法科大学院で教えていたということがありました。

 

しかもこの問題が難問だったため事前に教わることが相当優位に働いたということでより受験生の間で不公平感があったようです。

 

どうして、このようなことが起きるのでしょうか

 

それは、各法科大学院にとって、司法試験の合格者数や合格率が生命線だからだと思います。

 

法科大学院の費用が高額なことや試験に人生がかかっていることから、学生にとって「どの法科大学院に入るか」の選択はシビアな問題です。

 

法律科目で高得点をたたき出せる学生ほど、合格者をたくさん出していたり、合格率が高い法科大学院を目指すのが自然です。

 

法律解釈の理解というのは、一人で唸って考えているよりも、できるだけ高いレベルの人同士で議論をすることが有意義だという特徴もあるからです。

 

「議論」といっても喧嘩ではなく、法的な自分の考え方をお互いに示しながら話をして、お互いの思い込みや誤解を発見して、より理解を深めることです。

 

そのため、有益な議論や意見交換ができる法科大学院にみんな行きたいんですね。

 

そうすると、その結果、その法科大学院は合格者や合格率を伸ばし、更に多くの学生が受験申し込みに殺到するという良い流れができるわけです。

 

その逆になったらどうでしょう?

 

合格者数や合格率が落ちてきて、受験倍率が1を下回るようになって、更にレベルが下がるという悪循環になっていきます。

 

そして、文部科学省は、司法試験の合格者数や合格率を勘案して、優良な法科大学院には補助金を多く、そうでない法科大学院には少なく配分しています

 

司法試験の合格数、合格率が低いため補助金が少なくなった法科大学院は学費を上げてカバーするしかありません。

 

しかし、「レベルが低い」と学生から評価されている法科大学院で学費を上げたら、どの学生も受験しなくなってしまいます。

 

その結果、一定の水準の学生を入学させられずに「定員割れ」を起こしている法科大学院もあります。

 

そして、その末路は、廃校となりかねません。

 

実際に今でも、廃校する法科大学院は増えてきています。

 

先ほど、ご説明したとおり学生も法科大学院を選んでいきますので、今回の問題漏えい教授にも、明治大学法科大学院経営の焦りが動機の一つにあることは間違いないと思います。

 

そうすると、皆さん、司法試験の合格率が自分の仕事の行く末に直結する法科大学院の教授が、司法試験の問題を作成したり、採点したりすることに違和感を感じませんか?

 

私は、試験としての公正さを私たち国民に示してもらうためには、法科大学院の教授は、司法試験にはノータッチにするのも一つの方法かとは思います。

 

もっとも、問題を起こしているのはごく一部の法科大学院の教授であり、法科大学院の教授が(司法研修所の教官を除いて)最も法曹養成教育に詳しいので、他で替えが聞くのか、という問題も抱えています。

 

今後の制度としての検討課題ですね。

 

 

「時事とトピック」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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住宅の消費者被害ー詐欺師の手口

少し涼しくなってきましたね。

 

まだ、秋とまでは言えませんが、今年の異常な夏の暑さが無くなってきたのはありがたいところです。

 

何とか、仕事を頑張って、シルバーウィークには少しは休めるようになりたいと思っています。

 

さて、消費者被害の一つとして訪問販売による被害というのは、昔から無くなりません。

 

その中でも、最近で被害額が多いのが、投資など金融商品に関する詐欺と住宅に関する詐欺でしょう。

 

いずれも高齢者狙いの傾向が強いのですが、住宅に関する詐欺の傾向は、「突然訪問して、その場で危機感をあおって契約させてしまう」という形が多いんですね。

 

「床下換気扇」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 

ある日、突然、いかにも真面目そうな笑顔で、

 

無料で、ご自宅の点検を行っております。よろしかったら点検だけでもいかがでしょうか。」

 

などと玄関先で言ってきます。

 

そして、無料ならと点検だけでもしてもらうと

 

「床下が湿気でカビだらけになっています。このままだとカビがどんどん増えて、家にもよくないし、家中が発がん性のある黒カビの胞子いっぱいになりますよ。」

 

「家が腐っていきますよ」

 

などと嘘八百を並び立てます。

 

そこで、出てくるのが「床下換気扇」です。

 

つまり、床下のカビを一旦取り除いて、その後に小さな扇風機を置くことで空気の流れを良くして乾燥した状態を保ち、カビが生えないようにするというわけです。

 

私も写真で見せてもらったことがありますが、本当に安っぽい単価数千円の小さな扇風機が、床下に素人がやったようなコードむき出しの状態で5個も6個もおいてありました。

 

私でもできそうな工事です(笑)

 

その工事費として、数十万円ものお金を巻き上げるんですね。

 

専門家によると、床下に扇風機を置いても、そもそも外の空気が入ってこないので中の湿った空気が循環するだけでほとんど効果はないそうです。

 

そして、恐ろしいのは、1回ひっかかると、その情報を得た同業者間で、次々と住宅詐欺や投資詐欺に訪問して被害額がどんどん大きくなることです。

 

次は、「屋根裏に入らせてください」などといって、雨漏りや建物の構造欠陥、シロアリ駆除の必要性などを指摘して、「セットでリフォームをすべき」などと言ってきて、今度は数百万円の請求をします。

 

契約する前に気が付けば誰かしっかりとした親族か専門家に断わってもらえば良いのですが、契約してしまうと、その後の対策が必要となってきます。

 

訪問販売の場合には、まずは、クーリングオフを検討すべきでしょう。

 

クーリングオフは契約日を入れて8日以内に、契約の取り消しの通知を送付する必要があるので、8日以上経過するとあきらめてしまいがちです。

 

しかし、業者が法律の定める書面をしっかりと渡していないと、クーリングオフの期間自体が始まりません。

 

ですから、契約の時の書面をもって急いで専門家に相談に行くべきでしょう。

 

そして、仮にクーリングオフの期間が過ぎていても、業者が事実と異なることを言っていたり、注文をした人にとって不利益な事実をわざと隠していれば、それを理由に契約を取り消すことができます。

 

また、投資詐欺と違って、「契約相手が誰かわからない」ということが少ないため、契約書の記載が不十分な場合や一方的な契約については行政指導を期待することもできます。

 

だから、逆に、完全に「ブラック」なことをせずに、言い訳がききそうな「グレーゾーン」での活動を狙ってきます。

 

いずれにせよ、住宅に関することは非常に重要なので、突然の訪問での無料検査の段階で断るのが大切です。

 

もし、不安があれば自分から、親族や友人が施工を経験して評判が良かった業者を紹介してもらって見てもらうようにしましょう。

 

現在、高齢者、特に1人暮らし狙いの業者が増えていますので、そのような親などがいる方は、実家に帰った時に、住宅に不要な工事がされていないか一通り見ておくと良いと思います。

 

おかしいと思ったら、まずは、ご実家のある市役所、町村役場の「消費生活センター」に相談してみましょう。

 

消費者被害の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 消費者の被害 |

鬼畜の家~「死後離縁」って何?

「鬼畜の家」

 

小説のタイトルなんですが、すごいインパクトがありますよね。

 

私の小説の選び方は、本屋をブラブラして、何となくピンとくるタイトルの本を何冊も最初の部分を読んでみることから始めます。

 

そして、気にいったものを2~3冊買ってくるというスタイルが染みついています。

 

これに対して、購入目的が決まっている時には、アマゾンを利用すると早くて便利ですよね。

 

なので、ビジネス本や新書、ノンフィクションもの、アマゾンで手に入れられる程度の法律実務書などは、良くアマゾンで購入しています。

 

そして、先ほどご紹介した本は小説なので、書店で「ピン」と来て購入したものです。

 

鬼畜の家

 

読み進めているうちに、

 

「どうして、この作者は、こんなに法律実務に詳しいんだろう?」

 

と不思議になりました。

 

特に、「死後離縁」の話が出てきた所で強く感じました。

 

死後離縁とは、文字通り、養子縁組をしたけれど、その後養親又は養子が死亡した後に離縁するという手続です。

 

どちらかが死亡すれば、養子縁組関係は終了します。

 

それなのに、どうして死んだ後まで離縁しようとするのでしょうか?

 

ピンと来た方は相当鋭い方です。

 

実は、相続や親権に関係してくるのです。

 

この本では、鬼のような母親が3人の子のうち末娘を親族に養子縁組に出します。

 

そうすると、親権者は養親である養父母となります。

 

実母は親権を失う訳です。

 

そして、その末娘は、養父母が酒に酔って寝ている間に石油ストーブを転がして火事を起こすように示唆されます。

 

まだ刑事責任能力が問われる14才にも満たない末娘は恐怖にかられて言うとおりにして、養父母は焼け死にます。

 

末娘が一言も話せず、死因が失火と認定された場合、養父母の財産は誰が相続すると思いますか?

 

そう、一人しかいない養子である末娘が単独で全財産を相続する訳です。

 

この場合、普通の感覚だと、養父母が死亡して親権者が居なくなれば、実母の親権が当然に復活すると考えてしまいそうです。

 

しかし、民法ではそうなっていません。

 

実母の親権は復活せず、未成年後見人を家庭裁判所に選任してもらわなければならないんですね。

 

しかし、それで弁護士などが後見人に就いてしまったら、母親は財産を自由に使えません。

 

そこで、考えたのが「死後離縁」という訳です。

 

離縁すれば、養親の親権は喪失され、母親が当然に親権者となるというのが、やはり民法の定める所です。

 

実母は、弁護士に相談した上で、それを狙って、家庭裁判所に死後離縁の審判申立をして、まんまと親権を復活させて末娘の相続した財産を自由に使えるようにしたということです。

 

他にも相続の場面では、死後離縁をしないと後で大変なこともあります。

 

ですから、トラブルを抱える養子縁組をしている方は、片方が死亡したからといって安心しない方が良いと思います。

 

また、事案として、もう一つ深刻な「死後離縁」のケースについて、メールマガジンの第4号で配信をいたしますので、よろしければ、メルマガでご登録いただければ。

 

読後に、「この著者は、どうしてこんなに法律実務に詳しいのだろう?」と疑問に思って、履歴を見たところ「元弁護士」「60才を機に執筆活動を開始」と書いてありました。

 

なるほど、十分な経験を積んだ弁護士が書くだけあると納得でした。

 

もっとも、著者も分かっていて書いているのだと思いますが、この本のような事例で死後離縁が簡単に認められるかには疑問があります。

 

親族が争った場合には、相当紛糾しそうで審判がどのように転ぶのか分からない所はあります。

 

しかし、認められないとも限らないので、小説としてはそこは省略しても良い部分でしょう。

 

60才まで弁護士をやって、そこから執筆活動に入る著者、深木章子(みき・あきこ)氏には舌を巻きました。

 

私も本は大好きで、学生時代は小説も書いていました。

 

が、それ故に、その難しさを痛感しているので、「60才になって弁護士を辞めて小説家になることは、自分には高いハードルだな」と自己分析しています。

 

P.S.

 

なお、著者に申し訳ないのでネタバレにならないように工夫して書きました。

 

ですから、このブログを読んだ後に「鬼畜の家」を読んでも、ドロドロした物語が好きな方は、十分楽しめると思います。

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。 

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心理的虐待で離婚できる?

池井戸潤の直木賞受賞作「下町ロケット」が、とうとうドラマ化されるようですね。

 

「半沢直樹」「花咲舞が黙ってない」「ルーズヴェルトゲーム」「ようこそ我が家へ」など、次々とヒットを飛ばしているので、間違い無く視聴率は高くなるでしょう。

 

原作も、私自身、「ようこそ我が家へ」と並んで最も好きな著作です。

 

これからのドラマを楽しみにしている方も居ると思うので、内容には触れないでおきますね。

 

ドラマが終わったら、感想などを書いてみようかと思います。

 

さて、心理的虐待で離婚をしたいというご相談を最近よく聞くようになりました。

 

いわゆるモラルハラスメントと括られることが多いですが、私は「モラハラ」という言葉は、モラルの基準が曖昧なので、使わないようにしています。

 

具体的にどのような精神的虐待行為を夫(妻)はしたのか?

 

それによって、夫(妻)は、どのような被害(例えば、うつ病などの精神疾患)を受けたのか。

 

これを明確にしていかないと、法律で定められた離婚の条件である「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかは判断できないと思います。

 

例えば、平成16年の東京地裁の判決では、次のような事情があったケースで妻の夫に対する離婚の請求を認めています。

 

① 飲酒をした時に、妻をなじったり、妻の家族の悪口を言った。

 

② 酔いが回ると、粗野な言葉で近所に聞こえるような声で妻を罵倒した。

 

③ 妻はもともと温和で大人しい性格だったため、面と向かって反論ができず、大きなストレスをためてしまった。

 

④ 夫には、妻への罵倒を改める気配が全く無かった。

 

⑤ 妻は精神的に傷ついて、夫と別居して1年以上が経過している。

 

というような事情です(「原因別離婚裁判の分析 裁判所が認定した離婚原因」出版社:三協法規出版から引用)。

 

この判決では、暴力などが無いことや、夫のもともとの性格が原因のこともあり、悪意は余りないことを考慮して、妻からの慰謝料請求は認めませんでした。

 

つまり、「婚姻を破綻させる行為」だけれども、「慰謝料を発生させる程の違法性は無い」ということです。

 

確かに、精神的虐待だけで慰謝料が発生するには、少なくとも「うつ病への罹患」などの客観的に判断できる損害の発生が必要ということでしょう。

 

離婚を請求する方に悪い点が少ないケースでは、相手になる夫(妻)側の事情が慰謝料請求できる程悪くなくても、離婚が認められるケースが地方裁判所では増えてきているように思えます。

 

「モラハラ」で離婚できるという訳ではありませんが、夫婦の一方に悪い点が少なく、一方的にイジメ続けられているというようなケースでは、離婚が認められやすくなったということでしょう。

 

もっとも、夫婦が離婚する場合には、双方とも

 

「自分は悪くなく、相手が一方的に悪い」

 

と思い込んでしまっていることも多いので、客観的に見ることができる友人などに相談してみることが良いかと思います。

 

離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。 

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イヌとネコとご報告

以前のブログでお話した保護ネコ(雑種の日本ネコ)たち2匹も家に慣れてきました。

 

保護してくれた方の家がネコとイヌの両方を室内飼いしていたようで、慣れるのも早かったです。

 

先住のネコは、1匹はブリーダーで購入したアメリカン・ショートヘア(俗称:アメショー)という種類の♀です。

 

実は、ネコの動画集を見ていて、私が一目惚れしてしまい連絡して購入することになったのです。

 

その勘は間違っておらず、非常に優しくて大らかなネコでした。

 

ウチの30kg以上もあるラブラドールに、本気で鼻先で吠えられても、子猫なのに、まったく動じないでゴロゴロ転がっていました。

ボス犬

それを見て、ラブも

 

「器が違う」

 

と思ったのか、アメショーとは仲良しで、くっついて寝ています。

 

玄関でいつも三つ指ついてお出迎えしてくれたり、気分が落ち込んでいると何となく分かるのか、近くに来てゴロゴロしてくれます。

傘の上

右側にいるのがアメショーです。

 

もう1匹は、上の写真だと左側、下の写真だと上になる「洋ネコの雑種」と言われて知人からもらった正体不明の♂ネコです。

始めから仲良しでした

 

外見はグレーなので、獣医さんからは「ロシアンブルーもどき」と言われています。

もどきネコ

もっと、シュッとした顔なら、格好良いロシアンブルーなんですが・・・残念

 

後から来た保護ネコ(日本ネコの雑種)は姉と弟のようです。

 

ウチに来た頃は、弟ネコがいつも姉ネコに甘えていましたが、最近ではアメショーが全員のお姉さん役です。

 

洋ネコを抱きしめるアメショー

姉ネコ1

 

 

保護された弟ネコに、出ないおっぱいを吸わせてあげるアメショー

姉ネコ2

 

 

保護された姉ネコを舐めてあげるアメショー

姉ネコ3

 

ネコ嫌いの方がいたら、すみません。

 

ラブも子供の頃はネコくらいの大きさだったのですが・・・

子犬の頃

 

 

保護ネコの1匹には障害があるのですが、獣医さんと相談して治療したことで、少しは良くなりました。

 

ネコ本人は、障害とか全く感じておらず、一番元気で飛び回っていますので、その姿は生命力のたくましさを感じさせてくれます。

 

「ご報告や雑感」のブログ過去記事についてはこちらへどうぞ。

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死亡保険金を取り戻す

このお盆は、暑くて、お出かけされた方は大変だったのではないでしょうか。

 

私は、ラッシュとは逆方向の田舎の実家に日帰りで行って、バーベキューをした程度でした。

 

後は、イヌやネコとゴロゴロしながら雑多な種類の本を読んでいました。

 

読んだ本は、例えば、

 

「サッカーは監督で決まる」(清水英斗)

 

「最強の広島カープ論」(二宮清純)

 

「終わりなき夜に生まれつく」(アガサ・クリスティ)

 

「鬼平犯科帳」(池波正太郎)

 

「ストーリーとしての競争戦略」(楠木 建)

 

などなどです。

 

アガサクリスティは、「アガサクリスティ読本」という本を読んで、数冊読んでいない名作があることに驚き、あわてて購入しました。

 

高校生以来だったのですが、人間の感情というのは時代を超えた変わらないものがあり、その描き方の巧みさはやはり「さすが」としか言いようがありませんでした。

 

また、鬼平犯科帳は巻数が多すぎて、どれを読んだのか忘れているのがまた適当な読書で良かったです。

 

池波正太郎の本は、どれも江戸時代の食べ物をとても美味しそうに描いているので、読むとついお腹がすいてしまうのは私だけでしょうか(笑)

 

また、ネコたちとも遊び(遊ばれ?)ました。

 

ネコを多頭飼している方はご存知だと思いますが、ネコたちは、夜、人が寝る頃になると大運動会を繰り広げます。

 

私の体を踏みつけてジャンプするのはもちろん、昨日は飲み水とドライフードを全部ひっくり返してしまって、せっかく電気を消したのに、起きて掃除をする羽目に・・・

 

でも、逆に、昼間は本を読む私のすぐ横で仲良く体を舐めあいながら、一緒にゴロゴロしてくれる姿に癒されるので、「まあ、許してやるか」と精いっぱい上から目線で許してやっています。

 

さて、相続における生命保険の取り扱いで失敗しがちなのが、

 

「相続人の1人を死亡保険金の受取人としている場合、遺産には含まれない」

 

というネット上の形式的な言葉だけを信じて、あきらめてしまうことです。

 

確かに、生前に被相続人(亡くなった人)が、相続人の一人を受取人に指定した場合、死亡保険金は遺産に含まれません。

 

つまり、受取人自身の財産という取り扱いになり、遺産分割調停をしても、話し合いの対象となる財産から外れるということです。

 

ただ、平成16年に出された最高裁の決定では、遺産から除外するとしつつも、生命保険金を一部の相続人が受け取ることで、相続人の間で著しい不公平が生じるような特段の事情がある場合には、取り扱いを別にしています。

 

つまり、特別受益(例えば、相続人の一人が生活費として贈与を受けていた場合)の場合に準じて処理をするとしているのです。

 

ここでの特段の事情は、主には

 

① 生命保険金の金額

 

② 遺産と生命保険金の金額との比率

 

③ 同居して介護していたなど、その受取人である相続人に受け取るだけの事情があるか 

 

などから判断していきます。

 

ですから、今後の遺産分割では、この平成16年の最高裁の判断を前提として考えていかなければなりません。

 

妻が受取人の場合で、婚姻期間が3年5か月にすぎない事情で、保険金額が遺産総額と比較して約60%にあたるケースについて特段の事情を認めた裁判例があります。

 

この場合の事案の結果を具体的に考えてみましょう。

 

例えば、妻と子2人が相続人で、遺産が8,000万円、妻が受け取る保険金額が4,800万円だとしましょう。

 

特段の事情が認められた場合には、妻の4,800万円を一旦遺産に戻して(「持ち戻し」と言います。)、形式的には遺産としてまず仮計算をします。

 

合計1億2,800万円の遺産がある中、妻の相続分は2分の1ですから、6,400万円です。

 

もっとも、妻は既に4,800万円の保険金を受け取っているので遺産からは1,600万円しかもらえません。

 

これに対して、子供たち2人は1億2,800万円の4分の1にあたる3,200万円をそれぞれ相続することができます。

 

この特段の主張をし忘れると、妻は4,800万円の保険金に加えて、遺産からも4,000万円をもらい、子供たちは2,000万円しか相続できないことになります。

 

主張をしっかりするかどうかで、1,200万円もの相続金額が変わってくるんですね。

 

このような、特段の事情を調停委員が進んで話をしてくれるかというと、それは一切ありません。

 

調停は話し合いの場であり、お互いに話し合いの中で合意すれば、別に判例など無視しても全く構わないからです。

 

それができるからこそ、遺産分割調停が弁護士を立てないでもスムーズにすすめられるのです。

 

もちろん、スムーズな分、権利主張については非常に弱くなってしまいます。

 

もっとも、権利主張でもめるよりは、数千万程度の損なら早く処理した方がトクだと思う人にとっては早期解決のメリットはあるとは思います。

 

早期の紛争解決も一つのメリットになるため、調停委員も、死亡保険金について受取人の指定があると、当事者から主張がない限り「特段の事情」など考慮はせずに、第1回の調停期日に当然のように話し合いから除外してしまいます。

 

「特段の事情」は、例えば「遺産総額に対して60%の保険金がある」という事実だけでなく、保険金をもらう妻が後妻で、婚姻届出後1ヶ月で保険金の受取人を後妻に変えたこと、婚姻期間が3年6ヶ月とうい事情など様々な事情を考慮しなければなりません。

 

これらの主張を総合的に子供たちの方から上手く主張していかないといけないということになります。

 

主張さえしっかりすれば、法律の分かる調停委員であれば、すぐに対応してもらえます。

 

また、そうでない場合でも、書面にして担当する裁判官に読んでもらえば、調停の進行中に考慮してもらえます。

 

遺産分割調停で対立が激しい場合には、法律や裁判例を知っておかないとご自分にとって上手く解決できないこともあることは知っておいていただければと思います。

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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遺産分割調停で事前に知っておいて欲しいこと

現金と預貯金と投資信託。

 

一般には、いずれも給料や相続のお金をどのように保管しておくのがトクかという見方がされていると思います。

 

実は、この3つは、法律的に全く性質が異なるんですね。

 

遺産分割調停の時にこれはとても大きく現れます。

 

しかも、これが多分、一般社会での常識とは大きく異なります。

 

整理すると、以下のような考え方となります。

 

① 現金は相続の時に当然には分割できないので、遺産分割調停で話し合って分割していく必要があります。

 

② 預金は、相続の時に、(遺言が無い場合には)法定相続分に応じて当然に分割されるので、遺産分割調停で話し合う必要がないというのが従来の実務の運用でした。もっとも、平成28年12月19日の最高裁の決定でこれは変更されています。

 

③ 貯金、これはゆうちょ銀行(旧郵便局)へ預けた場合に使われる言葉です。

 

判例は、旧郵便局の時代の満期前の定額郵便貯金については、預金と違って当然に分割されないと最高裁はしています。だから、遺産分割調停では、話し合いの対象になりす。

 

それ以外の通常貯金についても、さきほどあげた最高裁の決定で遺産分割調停の対象となるようになりました。

 

④ 投資信託については、最高裁の判例がないので明確な結論が出ていません。

 

最近の高等裁判所の判断では、株式等に投資している場合には,議決権等の権利を含むので、相続分の過半数を持っていても分割の請求をすることはできないとしています。

 

この考え方からすれば、相続の時にも当然に分割とされることはなく、遺産分割調停の対象となるでしょう。

 

今後は、不動産や投資信託と一緒に預貯金も遺産分割調停の中で、様々な調整をしながら話し合いをしていくようになりそうです。

 

 

ご注意いただきたいのは、法律を机の上で勉強することと、これを戦略的に使うことは、大きく異なるということです。

 

例えば、野球、サッカー、バレー、バスケなどのスポーツで、練習をいくら長期間やり続けても、真剣勝負の試合を何試合も経験しなければ、「そのスポーツ自体は上手くはならない」のと一緒でしょう。

 

そういう意味で、遺産分割調停の経験が無い方が、弁護士を相手として争う場合には、相当の覚悟が必要になるとは思います。

 

もちろん、相続人ご本人であれば、調停に参加する権利がありますので、自分で出て行くのも全く自由です。

 

事案によっても違うと思うので、一度、お近くの無料相談でも行って確認された方が良いでしょう。

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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○○事件なんて誰でもできる

来週から、事務所を閉めるということで、少し余裕があったので、新公開映画「ジュラシックワールド」を観てきました。

 

テーマは初回のジュラシックパークとほぼ同じでしたが、恐竜をコントロールできたかと思うと裏切られて、また仲間になったりと、爬虫類をコントロールする難しさが細かく描かれていたのが面白かったです。

 

また、人類が地球上の生物の頂点にいるという思い込みからくる「傲慢さ」も、DNAをいじって新しい恐竜を生み出すことで描かれていました。

 

恐竜の生息期間が約1億9,000万年。

 

人類は、約240万年で、人間が地球の環境に影響を与え始めてからは、2,300年そこそこです。

 

そんな短い期間で、地球の殆どの地域を手に入れようとしている種は、地球誕生以来、人類が初めてでしょう。

 

急激に発生するものは、急激に消滅するのも自然の法則です。

 

例えば、アフリカの全ての国がいわゆる「先進国」と同じ生活を手に入れたら、逆に、人類は種の保存機能を失って衰退の途を辿るように思えます。

 

子供の頃は、太陽が寿命が尽きる前に巨大化し(アンタレスのように)地球が飲み込まれるという科学的事実を突き付けられて恐怖していました。

 

でも、今では、人類がそんな長い天文学的な時間存続していくのは難しいと考えるようになったので、いつの間にか深く考えなくなりました。

 

こんなことを考えるのも、日頃の仕事と全く違う発想で、気分転換になりました。

 

さて、たまに依頼者の方からも「○○事件なんて簡単だから誰でも(どの弁護士でも)出来るんですよね。」と言われることがあります。

 

確かに、比較的処理が簡単な事件というものはあるかもしれません。 

 

過払い事件については、そのような傾向が強いでしょう。 

 

「素人でも出来る」と言われたりしますし。 

 

未だに、過払い金の請求に奔走している弁護士事務所の必死な広告を見ると、「よほど他の仕事ができないのかな」と推測してしまいます。

 

もっとも、実は、過払い事件でも、ギチギチに細かい争点を貸し金業者が争ってくると相当面倒な訴訟にはなるのです。 

 

ちょっと、専門的な言い方になりますが、例えば、①一連計算をして良いかどうかの争い、②期限の利益の喪失・遅延損害金の発生の有無、③領収証類の内容の真実性の争いというような所を争うと、それなりの覚悟がいります。 

 

というのは、貸金業者が組織力を使って、色々な地方裁判所の裁判例を探してずらっと並べたり、訴訟の手続上本来は不要な大量な証拠を出してくるとちょっと面倒です。

 

証拠を1個、1個確認するだけでも時間がかかってしまうんですね。 

 

貸金業者もそれをプレッシャーにして、訴訟前に値切ろうとしてきます。 

 

最近では、アイフルあたりが、「訴訟になると面倒なことになりますよ」的な話をして、訴訟にしないでまとめようとする傾向があるように思えます。 

 

こういう面倒な対応を、非効率なのを敢えて乗り越えて戦うことが誰でも出来るか?と言ったら、気力の問題ではありますが、違うでしょうね。 

 

また、離婚事件破産申立事件についても、弁護士によっては「誰でもできる」と言う人がいます。 

 

確かに、これらの事件は、医療訴訟、著作権などの知的財産に関する訴訟、建築訴訟などと比べれば専門性は低いでしょう。 

 

しかし、弁護士によって差が出るかどうかという意味で「誰でも出来る」というと「差は出る」と私は思います。 

 

私は、「破産管財人」という裁判所から選任されて、会社の社長に代わって会社の最終的な清算をする仕事をやることがあります。 

 

そうすると、破産の申立を色々な弁護士(又はその事務所の事務員)が作成した資料を見ることになります。 

 

そうすると、破産申立一つとっても、弁護士のやり方に差があるのが分かります。 

 

丁寧な処理をして、複雑な事件を一読了解の整理をしてくれる弁護士の書面を見ると、自分でも勉強になります。 

 

ですから、裁判所や管財人から見ると、破産申立に関しては、明らかに弁護士(又は事務所の事務員)の事務処理能力の差が出ている事件でしょう。 

 

離婚事件については、直接は「誰でも出来る」と聞いたことはありません。 

 

ただ、弁護士が書いた実務書に「比較的誰にでもできるという誤解が弁護士の間にもある」と書いてあったので、そのような傾向があるのかもしれません。 

 

しかし、戦略的に考えなければならないケースでは、弁護士の差が出ているように思えます。

 

例えば、婚姻関係の破綻時期が争われたとしましょう。 

 

ここで、どうして「婚姻関係の破綻」を相手弁護士が争っているのか推測できないと、勝負になりません。 

 

一番典型的な場面では、不貞行為との関係で争うケースです。 

 

例えば、不貞行為日について、2014年8月1日の探偵会社の調査報告書を証拠として妻が夫に離婚とともに慰謝料請求をしたとしましょう。 

 

ラブホテルに女性と入る写真がバッチリと写っていたというケースです。 

 

相手は当然のように、2014年8月1日が初めての性交渉の日で、その日より前に婚姻関係が破綻していたと主張してきます。 

 

なぜなら、慰謝料というのは精神的な傷ですから、夫婦関係が良好だと思っている配偶者ほど、不貞を知って傷つきます。 

 

逆に、夫婦関係が最悪で、「あんな夫(妻)死んでしまえばいい」くらいに思っているケースでは、不貞行為を発見したら傷つくでしょうか? 

 

「これで夫(妻)や不貞相手に慰謝料請求をして、離婚も有利に進められる。」とラッキーに思ったり、「やっぱりだらしない夫(妻)だ!」と怒りを覚えるケースの方が多いのではないでしょうか。 

 

そのため、裁判例でも、夫婦仲が悪ければ悪いほど、不貞行為の慰謝料の額は下がる傾向があり、「破綻していた」となると最悪慰謝料0円となります。 

 

そのために、相手は「婚姻関係の破綻後に不貞行為をしたから、慰謝料は発生しない」と言いたい訳です。 

 

それ以外にも、破綻時期というのは色々と当事者にとって不利になったり、有利になったりしてくるので、複眼的な思考をして戦略を立てる必要が有ります。 

 

たとえ真実は一つだとしても、民事訴訟(家事訴訟)での解決結果は、戦略や証拠の有無で決まることが多いので、一つではないということです。 

 

そのような場合に、十分な経験を積んだか、経験が少ない場合にはそれに代わる調査や検討を十分にしたかによって、結果は大幅に違ってきます。 

 

ですから、単に離婚の訴状を書く、準備書面を書く、尋問をするということであれば、「どの弁護士でも出来る」ことですが、その中身によって依頼者に良い解決を提示できるかどうかは大きく変わってくるということです。 

 

同じ家事事件でも、相続事件については、「誰でも出来る」というような話は聞いたことが無いので、これは弁護士によって本当に大きな差が出る種類の事件ということなのでしょう。

 

ですから、離婚調停の調停委員を弁護士がやっていることにあたったことはありませんが、相続の遺産分割調停の調停委員は、弁護士が調停委員となっていることが珍しくありません。 

 

調停をリードしていくにも、相続の場合には、法的な知識・判断力が必要ということなのでしょう。

 

とはいえ、弁護士の腕は相談する段階では分かりませんし、腕だけでなく相性も大切なところです。 

 

大ざっぱですが、こういうタイプの事務所への依頼は辞めた方が安全だという私の考え方(正しいかどうかは別ですが)は、ブログで概要を書いて、公開しにくい情報はメールマガジンでご配信しようと思います。

 

離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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