弁護士は住所を調べられるの?

弁護士には、依頼者の権利を適法に行使するために必要な範囲で、調査をする権限が与えられています。

 

その一つとして、戸籍事項証明書や住民票などを職権で取得できる権限があります。

 

もちろん、無制限に取得できるのではなく、委任を受けた場合に依頼者の権利行使に必要な範囲です。

 

例えば、「訴訟や調停を相手に起こしたいのだけれど住所が分からない」という場合には、依頼者と契約をして訴訟や調停の委任状を受領して初めて戸籍の附票や住民票を取り寄せて調査をすることができるのです。

 

これらは、弁護士自身がその資格でできることです。

 

そして弁護士には、更に広く、所属する弁護士会を通して弁護士会長名で照会をする権限が認められています。

 

これを定めているのが弁護士法23条の2であるため、省略して「23条照会」と言ったりします。

 

先月、最高裁でこの23条照会について判決が出ました。

 

この事案では、弁護士が依頼を受けた強制執行(強制的に財産を差し押さえてお金などの弁済を受ける手続)の準備のために、23条照会を所属する弁護士会に申し出ました。

 

時折あることなのですが、敗訴判決を受けたのに判決に従わない被告がいます。

 

もちろん、長年勤務する企業などがあったり、不動産を所有していたりする人は判決に従います。

 

従わない人の多くは、転職を繰り返して、住所も定まらないという人が多いのです。

 

つまり、住民票を動かさないで居住場所を転々とするので、戸籍の附票などで追いかけることが出来ないのです。

 

この場合に居場所をつきとめるのに最も有効なのは、郵便局への転居届を調査することです。

 

住民票は動かさなくても転居届さえ出しておけば、住民票上の住所に届くものは全て転送されてくるので、逃げ回る人は転居届だけ出しておくという人が多いのが現実です。

 

そして、裁判を起こして、判決や裁判上の和解で終了したのに、被告が逃げてしまって回収できない場合には、「判決書や和解調書なんてただの紙切れということですか?」とか、「悪いことをしても裁判所は放置するんですか?」という質問を依頼者からうけることになります。

 

そのような時には、司法手続の性質や強制執行の限界の説明をお話しますが、当然ながら納得していただけません。

 

そこで、この事案でも弁護士は、23条照会で、被告が郵便物の転居届を出しているか?出していた場合には転居届記載の新住所(居所)を明らかにするように、日本郵便株式会社に対して回答を申し入れたのです。

 

これに対して、日本郵便株式会社は23条照会に対する報告を拒絶しました。

 

そこで、その弁護士が所属する愛知県弁護士会は、日本郵便株式会社に対して、弁護士会の法律上保護されるべき利益を侵害したとして損害賠償請求をした上で,仮にそれが認められない場合の予備として、法的な報告義務の確認請求をしました。

 

最高裁は、弁護士会には23条照会の制度の適切な運営をする権限はあるとしても、報告拒絶の場合に侵害されるような法的利益を持ってはいないとして、損害賠償請求否定しました。

 

その上で、日本郵便株式会社に法的な報告義務があるかどうかについては、名古屋高裁でもう一度審理すべきだとして差し戻しました。

 

最高裁は、日本郵便株式会社の法的義務を否定する判断も出来たのに、敢えてせずに名古屋高裁に差し戻しています。

 

そうすると、名古屋高裁で、今度は日本郵便株式会社の法的な報告義務の有無が審理されることになります。

 

最高裁で審理される前の名古屋高裁の判決では、愛知県弁護士会の損害賠償請求の一部まで認めていたのですから、今後の予想としては、日本郵便株式会社に対して、弁護士会に報告する法的義務を認める可能性も十分あると思います。

 

仮に、そのような判決が出た場合には、弁護士にとっては、判決や裁判上の和解を本当に意味のあるものにすることができるので、大きな意義があると思います。

 

例えば、現在報告を拒絶することが多い一部の金融機関や携帯電話会社に対して、多くの弁護士は

「郵便法で守秘義務を負う日本郵便株式会社が報告義務を負うのだから、当然に報告義務があるはずだ」

という主張をしていくでしょう(私もしていくと思います)。

 

また、名古屋高裁での判決が出たら、このブログでお知らせしますね。

 

 「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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高齢者の交通事故を防ぐためには

先日、静岡商工会議所が主催する「2016年ホームページコンテスト」で優秀賞をいただきました。

 

私(谷川)が文章を書いて、デザインやレイアウトを㈱ウェブサクセスさん(静岡市駿河区登呂5-7-7)と相談しながら先代の社長から二人三脚で作ってきたホームページなので嬉しい限りです。

 

今後も、有益な情報、興味深い情報をお届けするように努力していきます。

 

さて、最近、高齢者の交通事故が報道されることが多いようです。

 

今年の10月に横浜市内で起きた高齢者の交通事故では小学生が死亡するなど痛ましい被害が生じています。

 

この事故では、運転手の87才の男性は、前日から夜通し運転し、どうしてそこを運転していたのかも覚えていないそうです。

 

つまり、昔だったら徒歩で徘徊して交通事故の被害者になる方だった高齢者が加害者になってしまったということです。

 

そこまで認知の症状が進んでいる場合には、親族も損害賠償の責任を負う可能性があります。

 

特に、高齢者が親族の自動車を運転していた場合には、その運転を許していた親族が「運行供用者」として損害賠償の責任を負う可能性は極めて高いでしょう。

 

現在、このような事故を防ぐため75才以上のドライバーには、3年に1度の免許更新時に認知機能検査が義務付けられています。

 

今まで、認知症の恐れを診断で指摘されても免許更新には影響ありませんでしたが、来年の3月に施行される道路交通法改正で、免許の取り消しや停止がされることになりました。

 

しかし、世論としては高齢者の免許の自主返納を求める声もあるようです。

 

東京に住んでいた場合には免許の自主返納には抵抗はないかもしれませんが、地方に行けば行くほどでは自動車は生活の必需品となります。

 

静岡市内でも、便利な所に住めば自動車がなくても何とかなるとは思いますが、葵区や清水区の北の方になると、どうしても自動車は必要でしょう。

 

もっと不便な場所では、自動車がないと生活に必要な用品も購入できなかったり、親戚や友人とのコミュニケーションも阻害されることになりそうです。

 

私も交通事故は怖いですが、自動車の運転も好きなので非常に悩むところです。

 

私が期待しているのは、2020年の東京オリンピックに向けて、自動車の自動運転化が開発されていることです。

 

自動運転と同時に、自動衝突防止機能やドライブレコーダーの標準装備も進むでしょう。

 

とすれば、75才以上の人には、自動衝突防止機能とドライブレコーダーを標準装備した自動車への乗車を義務づけたらどうでしょうか?

 

今では、スバルのアイサイトなど、各社がオブションで付けられるようになっていますが、これを一歩進めて、例えば75才以上の高齢者が自動車を購入するときには、一律に低価格でセットできるように補助をすれば、義務づけにも抵抗は低そうです。

 

ドライブレコーダーで、衝突防止機能が働いたデータを自動保存するなどして、免許更新時に提出を義務づければ、的確な免許の停止や取消ができそうです。

 

もっとも、完全自動運転(いわゆる「レベル4」と言われる段階)になってしまえば、運転免許の存在が必要か?の問題すら生じます。

 

これからの自動車がどのように進化するかで色々と変わっていきそうですね。

 

交通事故の民事事件の基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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大阪市職員への入れ墨調査は許される?

大阪市職員入れ墨を入れているかの調査したことが話題になったことを記憶されている方も多いかと思います。

 

日本では暴力団が自分の暴力を誇示するために背中一杯の入れ墨を入れていたというような歴史、社会現象があるので、入れ墨に対するイメージは相当悪いですよね。

 

そのため、公務員が私たち市民から見える箇所に入れ墨をしてはマズいと考えるのが多数派だと思います。

 

海外のサッカー選手を見ていると、有名な選手達が目立つ所にタトゥーを入れているのに驚きます(全部シールではないですよね?)が、Jリーグの日本人選手には全くいないのも、違いを良く現していると思います。

 

つまり、入れ墨(タトゥー)=悪というのは、人類に普遍的な価値観ではないということでしょう。

 

では、公務員が肩のあたりに見えないように、オシャレで入れ墨(タトゥー)を入れるというのはどうでしょうか?

 

市役所での仕事に直接の支障はないという面を見ればプライベートな面として自由とみることもできるでしょう。

 

これに対して、温泉施設などが身近になった現在では、公務員である人が肩に入れ墨をしている姿を知人や関係者に知られて、ネットで流れることもあり得ます。

 

このときに、市に対して市民からの批判はそれなりにあるでしょう。

 

さて、裁判で争われたケースでは、大阪市の職員が実際に入れ墨を入れていたということではありませんでした。

 

2012年に大阪市が、職員に対して入れ墨の有無の調査をした時に回答しなかった2人の職員に対して戒告という処分を行いました。

 

この2人の職員が、戒告処分憲法条例に反して違法と争ったものです。

 

第1審の大阪地方裁判所では「差別につながる情報の収集を禁じた市の条例に違反して違法」として処分を取り消しました。

 

これに対して、大阪高等裁判所では市の逆転勝訴となりました。

 

この問題について、今月の9日に、最高裁の判断が出ました。最高裁は、大阪高裁の判決を支持して、市の戒告処分の適法性を認めました

 

まず、憲法違反との点について考えてみましょう。

 

職員側は、入れ墨は知られれば温泉施設への入浴拒否など差別的な扱いを受けるプライバシーに関わる重要な権利であり、憲法により保護されるとしました。

 

従って、憲法に反するかどうかは非情に厳しく判断すべきであり、今回の調査は憲法に反するとしました。

 

これに対して、大阪高裁及び最高裁は、入れ墨を入れているという情報は憲法上保護されることは認めました。

 

その上で、憲法に反するかどうかの判断基準は職員側が言うほど厳しくなくても良いとしたのです。

 

その理由を判決書に、はっきりと書いてありませんが、おそらく公務員という公共的な職務の性質上、一般企業よりも規律を重んじる必要性が高いため、市長や管理職からの命令に従う必要性が高いことにあるのだと思います。

 

ここからは、同じように民間企業が入れ墨調査を従業員に対してした場合にも同じように適法と判断されるかは分かりません。

 

企業側から言えば、採用時に入れ墨をした人が入った場合の問題を考慮して、内定を出すようにした方が安全でしょう。

 

次の争点として、個人情報保護条例違反の点については、条例で収集が禁じられているのは思想、身上、宗教、人種、犯罪歴など社会的差別の原因となるおそれがある個人情報に限られるとしました。

 

その上で、入れ墨を見せられることで不安感や威圧感を持つことは、直ちに不当な偏見によるとは言えないとして、入れ墨情報は社会的差別の原因となるものではないとしました。

 

入れ墨を見たときに、一般的には、余り良い印象を持たないのが日本国内の社会通念だと思います。

 

日本でも入れ墨(タトゥー)は、昔のように暴力団しか使わないという時代ではなく、ファッションで入れる人も増えています。

 

しかし、それでも企業の採用の時にそれを正直に言ったら採用されないことも多いでしょう。

 

これを「偏見」とみるのか、「日本においては社会通念の範囲内」とみるのか?

 

この点の評価によって、結論は異なりそうです。

 

最高裁は、後者の価値観をとったということでしょう。

 

学生が就職する時に、金髪は黒く染め直していくでしょうし、鼻のピアスははずして穴をふさぐでしょう。

 

これに対して、入れ墨は綺麗に消すことが困難という性質はあります。

 

若さで入れ墨を入れてしまって後悔している人まで、一生否定的に評価していくというのはどうかな?と思います。

 

私自身、公務員が入れ墨を入れることを決して良いこととは思いません。

 

ただ、個人的な趣味で入れていて、市民には絶対に見えないように注意しているのであれば、一般的な調査などせずに、個別に入れ墨が問題になったときに事情を確認しながら処分していけばよいのではないかとは思います。

 

問題が起きる前に、とにかく防止しようとすると、非常に窮屈な世の中になってしまい、どんどん人が萎縮して日本の国としても余り良いことには感じられないというのが私の意見です。

 

「憲法のお話」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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AIと弁護士のシゴト

最近AIという言葉が使われるようになりました。

 

「人工知能」つまり、大量の情報を相当の自主性を持って処理できるコンピュータシステムですね。

 

一時期は、

弁護士公認会計士など専門職の仕事がAIに奪われて無くなる

という噂がマスコミで流されていました。

 

弁護士に法律相談しなくてもAIに質問すれば答えが出てくるし、裁判でもAIが情報を入力すれば訴状など裁判に必要な書面が作成されるという意味でしょう。

 

確かに、このようなことが現実的に可能であれば弁護士は不要ということになりそうです。

 

しかし、AIは弁護士が自分で補助的に使う場合にはスーパーな力を発揮する(現時点でもgoogleはそれに近い役割をこなしています)としても、AIが主役にはなることは無いと思っています。

 

その理由は2つあります。

 

一つは、AI自体の能力の限界の問題です。

 

翻訳システムを例に考えてみると、無料・有料を問わず翻訳システムはインターネットが発達する初期段階から相当作り込まれてきました。

 

しかし、最も多い和訳・英訳においても、意図が通じる翻訳にはほど遠いのが現実です。

 

先日、海外の友人に手紙を英文で送ろうとした時に、試しに英訳ソフトを使ってみました。

 

ところが、主語や述語の関係やニュアンスが非常におかしくなってしまいます。

 

何となく意味は伝わるのかもしれませんが、人間のコミュニケーションでは気持ちの部分が非常に大切で、それは言葉そのものよりも、その使い方や当事者同士の関係性によって個別に考える必要があります。

 

手紙をもらう方も、AIによってパターン化された手紙を受け取っても嬉しくないでしょう。

 

弁護士の仕事も専門家といっても、事件ごとの個別性が非常に高いです。

 

紛争が起きた時に、金銭など経済的利益だけを追求して裁判をしていけば良い解決ができるというものではありません。

 

例えば、依頼者の希望が

「出来るだけ早く穏便に解決して欲しい。法廷で証言することは嫌だ」

という場合、「穏便」に解決できるかどうかは様々な要素から判断する必要があります。

 

例えば、依頼者の要望だけでなく、相手方との過去の歴史、相手方の性格、相手代理人弁護士のやり方、その事件の担当裁判官の方針や考え方など、法律や過去の裁判例とミックスして考えなければならないことが非常に多いのです。

 

人間は(私ももちろん)不合理な存在です。

 

AIに整理された合理的な情報では判断できないことが多すぎるので、事件ごとに細かい全ての情報をAIに入力する必要があります。

 

しかし、そもそも「どんな情報が重要で、どんな情報が不要なのか」の判断が最も難しいのに、それを紛争に巻き込まれて感情的に不安定な当事者の方が正確に入力するのは難しでしょう。

 

専門家が広い視野と感性、柔軟な判断力を鍛えていく方がよっぽど近道です。

 

二つ目の理由としては、相談者依頼者にとっての安心感納得感です。

 

ネットショップのように物を買うだけのことであれば好みの商品を探すのにAIは役に立ちます(もっとも、この場合ですら最後に比較して選択するのは買う人間ですが)。

 

しかし、自分の人生の悩みを相談する時に、AIに相談して精神的に安定するでしょうか?

 

専門家から

「今の状況は大変だと思います。しかし、私の経験上、この問題は必ず解決できます。」

と言われた時のホットした気持ち。

 

それをAIから

「過去のデータから見るとこの問題は89.98%の確率で良い方向で解決できるでしょう。」

と言われて同じ気持ちを持てるでしょうか?

 

また、身近なところで感じるのはSiriです。

 

Siriとは「iPhoneの操作を話しかけることで行うことができる機能」ですが、これを多用している人を見たことがありません。

 

私も使ってみましたところ、昔から劇的に言語認識能力が上がっていて驚いた反面、なんとも言えない味気なさを感じました。

 

「タブレットに向かって話しかける」という一方的なコミュニケーションそれ自体に抵抗があるのです。

 

単純に言うと「楽しくない」と感じてしまうのです。

 

単に、検索する作業だけでもそうなのに、自分の人生の一大事で悩んでいる時に、過去に理不尽な悩みに苦労した経験がないAIに相談して安心しできるでしょうか?

 

人と人とが話をして、「他の人に理解してもらえた」とホッとするのは、人類が発生して過酷な環境下で集団生活をすることで生き抜いてきたことから来る根源的なものだと思うのです。

 

この二つの理由でAIが少なくとも弁護士に取って代わることはないのでしょうが、逆にAIが発達すればするほど、それを使いこなせる弁護士とそうでない弁護士との差は大きく開いていくでしょう。

 

裁判で有利に働く法律、判例、資料の検索やその要約をAIから得られれば、弁護士がその中から適切なものを選んで、自分の知識・感性と合わせて戦略を組み立てることは非常に有益だと思います。

 

そういう意味では、私も常に時代の変化において行かれないように、様々な分野に関わっていきたいと思っています。

 

弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。 

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良い人ほどウソをつく?

最近、民事訴訟の手続をどのように進めていくのが良いのかを協議する会議があって、私がその司会をやりました。

 

その時に、

「裁判では、印象の良い人だからといってウソをつかないとはいえない。」

という話が出てきました。

 

私たち法曹は「印象の良い」かどうか判断するときには、その人の口調や表情がにこやかとか、ぶっきらぼうとか、そういう表面的な部分はほとんど見ません。

 

その人の経歴裁判以外での行動裁判の主張で争いの無い部分裁判手続での要求の合理性など、周辺的な部分から判断していきます。

 

例えば、母親の相続問題で揉めている場合、その前の父親の相続の時にはどのような主張をして、どのような解決をしたのか?

 

定年前の年齢の人であれば、真面目に仕事をしている人なのか、それとも特別な事情も無いのに働かずに生活をしている人なのか?

 

裁判で、過去の裁判例や法律の解釈を分かるように説明した時にも、最初から拒否するのか?一旦考えてきてから回答を出すのか?

 

などなどです。

 

でも、この判断から、その人の人となりはある程度理解できますが、弁護士の打合せ裁判の証言ウソを言わないかどうかの判断には直接は結びつかないのです。

 

なぜなら、人がウソをつく動機は千差万別だからです。

 

先ほど、周辺事情から「人として良い印象だな」と思っていても、そういう人だからこそ、例えば親をいじめていた長男を許せずに、この相続に限ってはウソをつくということもあります。

 

特に、良く言うと「器が大きい」、悪く言うと「神経が太い」という人ほど、一旦ウソをつくと決めた時の徹底さはなかなかのものがあります。

 

依頼者がこのような方の場合、弁護士も気持ちよく騙されてしまうと思います。

 

弁護士の場合、結果的に騙されても依頼者に有利に事が進んだのであれば、終わってしまった後に気づいても、全く気にしません。

 

もっとも、裁判の途中に薄々気がついたり、明らかに分かってしまった時の対応は非常に困ります。

 

「不利だけれど本当のことを言って下さい」

 

ということは、なかなか民事事件だと言いにくいんですね。

 

ウソかも?という程度だと、私の誤解の可能性も捨てきれないので何も言いません。

 

しかし、明らかに分かってしまう場合には、どうせどこかでバレる可能性が高いですし、それが裁判で尋問している最中だったりすると最悪なので説明するようにしています。

 

例えば、ひどい長男が無理やり親に書かせた遺言に対して、二男が遺留分の主張をしているとしましょう。

 

実は、親孝行な二男は、母親の生前に自宅の土地をもらっていて、長男から

「何か母親から生前にもらっているのではないか?」

と生前贈与の可能性を指摘されている場合です。

 

土地をもらっていれば、その分だけ、遺留分の取り分から差し引かれてしまいますから、二男としては認めたくないところです。

 

「親孝行をして、感謝の気持ちにもらったものを、母親にひどくしていた長男のために、どうして差し引かれなければならないのか?」

 

その気持ちは分かります。

 

ただ、自宅の登記事項証明書に登記原因として母親からの「贈与」が記載されていれば、一発アウトです。

 

さすがに、こんなケースで弁護士としては、依頼者の自宅の土地・建物の不動産登記事項証明書をとらざるを得ません。

 

相手の弁護士が、敢えてぼかして生前贈与の主張をしていて、こちらに

「何ももらっていない」

とウソをつくのを虎視眈々と待っているリスクがあるからです。

 

こんな時は依頼者のために、

「この証拠を出されたら一発アウトですし、裁判所の信用も失ってしまいますよ。」

と説明せざるを得ないのですね。

 

ただ、依頼者の方が「良い印象」であればあるほど、

「自宅の登記事項証明書まで取らなくても良いだろう。」

と弁護士も油断しがちなのは確かです。

 

悲しいですが、

「人はどんな人でもウソをつく可能性がある。」

という前提で、私達弁護士や裁判所は仕事をしなければならないんですね。

 

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危ない取引先の見分け方は?

今日は、債権回収の研修に講師として行ってきました。

 

① 債権の回収を依頼されてて確実な回収の段取りをする立場

② 会社の自己破産を申し立てて債権の回収を止めてしまう立場

③ 裁判所から破産管財人に選任されて総債権者のために公平な分配を図る立場

と3つの立場になることがあるため、その3方面からのお話をしてきました。

 

会社であれ、個人であれ、貸付金や売掛金などの債権を確実に回収することは経営のために非常に大切です。

 

実は、債務者が本当に危なくなってからでは債権回収は遅いと言えます。

 

債務者のキャッシュフローが滞ってしまうと支払自体ができなくなりますし、仮に弁護士から破産や再生の通知が来てしまうと、その後に抜け駆けで返済を受けると、後で破産管財人から否認されて返還を求められる場合があります。

 

そうならないためには、様々な注意が必要なのですが、注意するいくつかのポイントがあります。

 

この傾向があると、会社の経営には要注意という事項です。

 

会社の本業以外の投資や運用、例えば変動の激しい株式への投資やFX(外貨取引)などに社長が入れ込みすぎている場合は危ないです。

 

特に、手元資金が少なくても大きな取引が簡単にインターネットで出来るようになってきています。

 

この場合に一気に大きな損失を会社や代表者が抱え込むことがあり、その損失を埋めるために会社資金を使って突然経営が傾くことがあります。

 

この場合には、経営者が会社から借り入れる形をとることも多いため、決算報告書に経営者の多額の借入金が記載されていたら、会社の資金流用を疑っても良いでしょう。

 

もっとも、こっそりと別口座を作って利用して、帳簿にすら記載しないケースもあるので、決算報告書だけでは分からないこともあります。

 

また、逆に社長や取締役から会社への貸付金が多額な場合も危ないしるしです。

 

会社が金融機関からの借入審査をパスできない状態になっているために、役員個人の資産をつぎ込んで経営を何とか持たせている場合もあるからです。

 

そして、社長が技術畑でビジネスの知識やリスク管理に疎い場合にも要注意です。

 

中小企業では、なかなか社長に意見を言える人はいません。

 

特に、技術開発に熱心な社長にコストに見合った開発費の投入などをアドバイスしようものなら、解雇されかねません。

 

しかし、投入した技術開発や設備投資に見合った売上が上げられなくて破産する会社は非常に多いです。

 

取引先会社の社長の話の中で「コスト感覚が足りない」と感じたら、より注意して過剰な開発費や設備投資がされていないか見ておく必要があるでしょう。

 

そして、危険なしるしを発見した場合には、

① 回収出来る債権はすぐに回収し

② 期限が先のものについては、何か担保に取れないか検討し

③ 新しい取引は控えるか、するとした場合には支払期限を今までより短縮する

などの対応が必要でしょう。

 

「経営についての法律の問題」の過去記事はこちら 

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カテゴリー: 経営についての法律の問題 |

自転車窃盗した放送局の副局長を懲戒解雇できる?

新聞記事に、自転車を盗んだとして、放送局の副局長が逮捕された記事が載っていました。

 

警察で任意で事情聴取を受けていたようですが、最終的には自分で出頭して
「忘年会の帰りに、早く家に帰りたくて盗んだ」
と自分で話しているようです。

 

この場合、自分で出頭したことや盗んだものの額が大きくないこと、おそらく全額被害弁償できることから、刑事事件としては罰金程度で終わる可能性が高いでしょう。

 

しかし、最も大きな問題は、その放送局がこの職員(被疑者)を懲戒解雇できるかでしょう。

 

役職から見ても、被疑者は長期間勤務してきていますから、本来退職する場合には相当多額の退職金が出るでしょうが、懲戒解雇だと退職金も出ません

 

ですから、懲戒解雇できるかどうかは大きな問題です。

 

放送局は電波を独占する代わりに一定の公共的な性格を有しますので、簡単な問題と片付けることはできないでしょう。

 

もっとも、この被疑者の窃盗は仕事中ではなく、「忘年会の帰り」という仕事が終わったプライベートの時間で行ったものです。

 

また、公共放送の仕事そのものに関する違法行為でもありません

 

強いて言えば、放送局の職員全体の信頼を損なったという理由でしょう。

 

しかし、この理屈は、ある程度の知名度のある企業であれば、あらゆる職員のあらゆる犯罪についてあてはまるものです。

 

これを認めてしまうと、「犯罪=懲戒解雇」という図式が出来上がってしまいます。

 

確かに、窃盗は犯罪ですが、それだけで長期間勤務してきた労働者としての立場を全く無視して良いということにはならないでしょう。

 

ですから、この事案で放送局がこの被疑者を懲戒解雇することは法律的には難しいと思います。

 

通常はこのような場合は、被疑者も職場にいにくくなり、雇う側もニュースに犯行が報道された職員を置いておきたくないという関係になります。

 

そのため、「被疑者の自己都合での退職」という形で辞めてもらって、退職金は支払うケースが多いです。

 

懲戒解雇はされなくても、結局は退職はすることになるのですから、人生設計を大きく狂わせることになります。

 

特に、お酒を飲んだときは、ルールを守ろうとする意識まで鈍ることがあるので、より注意した方が良いでしょうね。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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自治会からの脱退って法律上許されるの?

プロ野球のニュースで、広島カープが25年ぶりの優勝をしたのを見ました。

 

若いカープファンにとっては初優勝くらい嬉しいかもしれませんね。

 

私は野球にそれほど詳しくないのですが、こんなに早く優勝が決まってクライマックスシリーズになった場合、昔、Jリーグで年間成績が3位以下のチームが年間チャンピオンになった時のような問題意識ってあるのかな?とふと考えてしまいました。

 

さて、今日は身近な自治会問題です。

 

今では、「自治会の役員が楽しくてしょうがない」という人は少数派のように思えます。

 

多くの人が日々忙しく働いたり、育児をしたりしているので、その中で自治会の役員というのは相当の負担ではあるでしょう。

 

もっとも、住んでいる周辺の人たちにはお世話になっているし、皆、大変な中役員をやるわけですから、自分だけが「嫌だ」というわけにはいかないのが現実です。

 

もちろん、私も自治会の役員(組長)をやった時には、葬儀の手伝いの手配や会合に出たり苦労した記憶があります。

 

では、「自治会から抜けたい」と申し出た場合、法律上有効なのでしょうか?

 

これについては、実は最高裁の判例があります。

「自治会の脱退は有効であり、脱退した場合には共益費は支払わなければならないが、自治会費は支払う必要はない」

というのが最高裁の判断です。

 

この事案は埼玉県新座市の県営住宅の自治会に入っていた入居者が、自治会の方針に異論があると言って脱退を申し入れたところ、自治会から共益費2,700円、自治会費300円の支払い請求を受けたものです。

 

最高裁の前の東京高裁では、その住宅に居住している以上、自治会による安全で良好な周辺住環境の維持や共同施設の管理、防犯活動の利益を受けているのだから、一方的に脱退して共益費自治会費を支払わないことは法律上許されないとしました。

 

何となく、これが常識的な判断のようにも思えますよね。

 

しかし、最高裁になると憲法上の権利から考えていきますから、結論が異なってきます。

 

つまり、私たちには、憲法思想・良心の自由結社の自由団体に加入しない自由も含みます)が保障されていますから、無理やり団体に加入させられることは原則としてできないのです。

 

ただ、弁護士や税理士のように公益的で私たち国民の利益に重要な影響を及ぼす仕事をするには、しっかりと業務状況を把握する必要があるので、弁護士会や税理士会に加入する義務があります。

 

つまり、いくら弁護士や税理士が会の方針に異議を持っていたとしても脱退すると仕事ができなくなるという意味で強制加入団体というわけです。

 

しかし、自治会は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持・管理や防犯、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立されたもので、特に加入を強制する必要がどうしてもあるわけではありません。

 

そのため、最高裁では、憲法上の権利の原則通り、無理やり団体に加入させられることはなく、脱退することも自由だとしました。

 

その上で、共益費の2,700円は、例えば廊下やロビーの電球代や電気代、廊下・階段の手すりや駐車場の通行部分など住宅施設の保守管理費などに充てるので、分割して支払うことは難しいから、自治会を通じて支払うべきだとしました。

 

ですから一般住宅の自治会でもゴミ出しなどのために必要な管理費用は自治会を脱退しても支払わなければならないということになるのでしょう。

 

これに対して、毎月300円の会費は脱退した以上会員ではないので、支払わなくても良いとしました。

 

そうすると、自治会の役員もやらなくて良いことにはなります。

 

憲法上の権利から理論的に考えれば最高裁の判断は理解できます。

 

しかし、ほとんどの人が苦労して負担しあっていることを、自分だけが「嫌だ」と言ってやらない場合、近所づきあいは相当悪いものになってしまうでしょう。

 

例えば、地震や火事、洪水の時に、日頃から協力しあっている人たちは自然と助け合うでしょう。

 

しかし、自治会を脱退してしまった人は、近所の人からの連絡もないままで、危険を事前にを避けられなかったり、災害後に不便な思いをすることになりそうです。

 

この最高裁の判断を見て「良いことを知った!」と自治会を脱退するのは早計かもしれませんので十分ご注意を。

 

「日常生活の法律問題」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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俳優の不起訴について

有名な俳優が強姦致傷罪(ごうかんちしょうざい)で捕まっていましたが、不起訴釈放されたようです。

 

芸能界にくわしくない私でも、このニュースはうわさ話になるので知っていました。

 

この事件について刑事弁護の観点から考えてみました。

 

その俳優が容疑をかけられた強姦致傷罪とただの強姦罪とでの大きな違いをまず知っておく必要があります。

 

強姦罪は「親告罪しんこくざい)」といって、被害者である女性が刑事告訴をしないと検察官が起訴しても裁判所で審理してもらえません。

 

ところが、強姦の時に被害者の女性にケガをさせてしまった場合には、強姦致傷罪になり、これは親告罪ではないので、被害者の意思とは無関係に裁判所は審理していけます。

 

ただ、常識的に考えて、強姦される女性が(何かの理由で動けないような場合を除いて)抵抗しないはずがなく、抵抗すれば少なくとも打撲や擦り傷は生じるでしょう。

 

この点を学説の多くは取り上げて、強姦致傷罪にいう「傷害」はある程度重いものに限定するべきだとしています。

 

つまり、軽い傷まで全部入れてしまうと、被害を隠したい被害者女性の意思を無視することになるという考え方です。

 

ところが、判例は一貫して強姦致傷罪の「致傷」は、その程度を問わないとしています。

 

そのため、強姦罪で起訴するか、強姦致傷罪で起訴するかは、検察官の裁量に大きく委ねられているというのが現在の実務です。

 

今回の事件の被害者女性についても、入院したとか、具体的な治療をしたなどの話を聞いていないので、傷害の程度は大きくなかったものと思われます。

 

そのような状態で、弁護人が被害者女性と示談をしたらどうでしょう?

 

示談書の内容は明らかにされていませんが、私の経験上だとその内容には

① 高畑さんの謝罪

② 示談金の金額と支払の確認

③ 被害者が高畑さんに刑事責任を求めないこと

④ お互いに、どこまでの事実を公表し、どこまでの事実の秘密を守るか

⑤ この示談書に定める他には一切の請求をお互いにしないこと

の5つの点は必ず入っていると思います。

 

そして、被害者がその俳優に刑事責任を求めない場合、本来強姦致傷罪だと親告罪でないため検察官は示談があっても起訴できますが、実際には起訴しにくいです。

 

つまり、被害者女性のケガが軽い打撲や擦り傷だった場合、被害女性の意思やプライバシーを侵害してまで、起訴して全国のさらし者にするのは避けたいと考えるでしょう。

 

また、万が一、被疑者が「合意の上だった」と否認した場合、マスコミ関係者が多数傍聴人に入っている公判手続に被害者女性が証人として出頭しなければなりません。

 

これは通常は嫌ですよね?

 

この事情を総合的にみると、被害女性にも、検察官にも「起訴を避けたい」という動機が生ずることになります。

 

逆に言うと、刑事弁護人はその心理をうまくついて、示談に持ち込むということになるのでしょう。

 

ひょっとしたら、多くの方が「示談金が莫大だったから示談が成立して起訴されなかった」と思っているかもしれません。

 

確かに、強姦致傷罪の示談ですから、示談金は多額になるのが通常ですし、加害者やその親族に財産があり、公表する事実守秘する事実指定があるでしょうから必然的に示談金の額は上がるでしょう。

 

しかし、示談金の大小以上に、実は起訴をしない大きな要因があるということも頭の中に入れておいていただけると、刑事事件を正確に把握できるのではないかと思います。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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「ダイヤモンドの次に硬い」は景表法違反?

9月に入りましたが、まだまだ、暑い日が続きますね。

 

さて、「景表法(けいひょうほう)」という法律名を聞かれたことがあるでしょうか?

 

正式には

不当景品類及び不当表示防止法

と呼びます。

 

以外と良くニュースで流れる法律なので知っておくと良いと思います。

 

一言で言うと、オーバーな広告をした業者を罰する法律です。

 

具体的には、消費者庁が再発防止の措置を命令したり、ひどい場合には、警察が動いて刑事事件になったりします。

 

先日、愛知県名古屋市にある会社が、フライパンを販売するにあたって、

「ダイヤモンドの次に硬いセラミックを使用」

などとTVの通販番組などで宣伝しました。

 

これが、景表法禁止する行為である

実際のものよりも著しく優良であると示したこと

にあたる(優良誤認)として、消費者庁が、その名古屋市の会社に再発防止を求める措置命令を出しました。

 

実際のところダイヤモンドの次に硬い鉱物は、セラミックではなくルビーなどだそうです。

 

その会社でフライパンに使用されたセラミックの硬さは、ダイヤモンドよりも大きく下回っていたそうです。

 

まあ、ダイヤモンドやルビーで作られたフライパンを使っている人は、少なくとも日本にはいないでしょうが・・・

 

消費者庁の措置命令は、実際にも従う会社が多く、今回も指摘された会社は、既に表示を止めているようです。

 

以前は、法律事務所も指摘されたこともあるので、皆さんも、オーバーな広告には十分御注意ください。

 

消費者被害の一般的なご説明についてはこちら

をご参照ください。

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