コメダ珈琲のマネはNG?~後半

だんだん暖かくなってきたのは嬉しいのですが、スギ花粉がピークで花粉症の私にとっては厳しいシーズンです・・・

 

さて、前回に引き続いて、
「㈱コメダが、和歌山県内にできた類似店舗の営業差し止めを求めた紛争」についてのご説明をしていきます。

 

この事案で主に争いになった点は

 コメダ珈琲店の店舗外観が、不正競争防止法に定める「商品等表示」に該当するか。

 この店舗外観が、不正競争防止法に定める「需要者の間に広く認識されている」(周知性がある)表示といえるか?

ということでした。

 

まず、について考えてみましょう。

 

「外装や内装がコメダ珈琲店とソックリだから営業を停止すべき」と主張するためには、その外装や内装そのものが「商品等表示」として保護されるものでなければなりません。

 

「商品等表示」というのは、営業をしている主体を顧客などに識別させるためのものであり、通常店舗の外観や店内の構造それ自体は営業主体を識別させる目的で作られるものではありません。

 

スターバックスやドトールでも、オシャレな店舗作りをしている所は、外観や内装が似ることもあるでしょう。

 

都市部の店舗は特にその傾向が強いので、私たちは外装よりもロゴでどの店舗か確認しますよね。

 

ところが、コメダ珈琲店の郊外型店舗ではちょっと違うようです。

 

裁判所の判断によると、「コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして、来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択された」と指摘しています。

 

確かに、ログハウス風で天井が高かったりして、「長居しても怒られないかな~」という気持ちになる内装であることは私も感じます。

 

そこで、少なくとも郊外型のコメダ珈琲店の外装と内装は、他の同種店舗の外観とは異なる特徴を持っているので「商品等表示」にあたるとしました。

 

次に、について考えてみます。

 

営業をしていて、いきなり「外装や内装がソックリで不正競争だ!」と言われても、その外装や内装が世間の人々に知られていなければ商売に関係ありません。

 

例えば、喫茶店という営業の形であれば、多くの場合「落ち着いた」「オシャレな」「リラックスできる」など共通の目的で作られますから、お店の雰囲気も似てきます。

 

それを、全く知られていない個人の喫茶店とソックリだから営業を止めろと言われてしまったのでは、怖くて喫茶店の営業などできません。

 

そのため、この事案でも、世間の多くの人がコメダ珈琲店の外装や内装を知っていることが保護の要件になるのです。

 

さて、皆さんの目から見て、コメダ珈琲店の外装や内装は周知性があると思われるでしょうか?

 

私を含め、多くの人が「Yes」と答えるのではないでしょうか。

 

この東京地裁仮処分の判断でも、

(a) ㈱コメダは和歌山県内でこの店舗の外装を継続的・独占的に使用してきており、郊外型店舗で典型的に用いられていたこと

(b) テレビ番組や新聞・雑誌などで度々宣伝・報道がされ、視聴者・読者に認識されていたこと

(c) 幹線道路沿いの一戸建ての建物であるため、道路を通る人たちの目にとまっていたはずであること

などをあげて周知性を認めています

 

実際にも、自分の裁判例のデータベースにある店舗外観図を見るとソックリなので、私がもし何も知らなかったら「コメダ珈琲店が店舗名を幾つか増やしたのかな」と思ってしまうでしょう。

 

その点で、A社の営業が㈱コメダの営業を妨害する不正競争だと認定されたのでしょう。

 

なお、ここで使われた「仮処分(かりしょぶん)」という手続は緊急のものですから、ひょっとしたら本裁判で争った結果、仮処分と異なる判決が出る可能性もあります。

 

この場合には、A社が経営を差し止められたことで損害を被ってしまいます。

 

そこで、債権者となる㈱コメダは、仮処分の申立にあたって、損害賠償が発生したときに備えて裁判所に担保を入れなければなりません

 

担保の金額は、申立をした㈱コメダが勝つ可能性や差し止めを受けるA社が被る損害額などを総合的に考えて裁判所が決定します。

 

この事案で㈱コメダが裁判所に納めた担保は500万円でした。

 

つまり、仮処分の申立をする方も相当の覚悟を決めて勝負に出なければいけないことになります。

 

その後、本裁判がなされたという報道はされていません。

 

今、対象となった喫茶店のホームページを見ると、少なくとも外装は裁判の時の表示と大幅に変わってコメダ珈琲店と区別できる程度になっています。

 

カップやメニューが似ているような気はしますが、これは東京地裁も差し止めを認めていませんので、法的には許される範囲になります。

 

本裁判で勝つ可能性が高いとはいえ、リラックスできることが売りの㈱コメダが、いつまでも裁判の当事者になっていることは営業上はむしろイメージダウンでしょう。

 

おそらく、この事案では双方の会社や代理人弁護士もそれぞれの利益を考えて、和解で解決したものと私は推測しています。

 

「経営についての法律の問題」の過去記事はこちら 

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コメダ珈琲のマネはNG?~前半

今日は休日ということで、早朝のジョギングをしてきました。

 

途中で信号機のない横断歩道で待っていると、3台も親切な自動車に止まってもらえて、何となく穏やかな気持ちになれました。

 

もっとも、このブログは私の仕事の性質から、相変わらず紛争のお話です・・・

 

さて、今回は皆さんご存じの「コメダ珈琲店」をマネして店を始めたところ、㈱コメダからストップがかかった事案です。

 

昨年の約3ヵ月ほど前の事案で、ニュースでも報道されたので、記憶にある方もいるのではないでしょうか?

 

事件は和歌山県でおきました。

 

和歌山県の中小企業が、前回ご説明したとおり、㈱コメダのフランチャイズ店になりたいと申し出ました。

 

この会社を仮に「A社」とします。

 

㈱コメダとしては、既に和歌山県下で他者がフランチャイズを受けていたため(こういう立場を「フランチャイジー」といいます)、断りました。

 

するとA社はコメダ珈琲店の店舗にそっくりのお店を建築して営業を始めました。

 

もちろん、店の名前まで同じにはできませんので、全く違う名前を表示していました。

 

コメダ珈琲店って、外観が屋根が山小屋みたいになっていて、レンガの壁と出窓が特徴的ですよね。

 

私も自動車で走っていて一発で、「あっ!ここにもコメダ珈琲があったんだ。」と外観と看板で見つけることがよくあります。

 

このA社が経営する喫茶店は、電車や自動車で30分程度の距離にコメダ珈琲店がある場所で経営を開始しました。

 

このソックリさはネットでも話題になりました。

 

これに㈱コメダがストップをかけました。

 

このA社だけであれば㈱コメダの被害は少ないでしょうが、これを許すと他の地方の中小企業も同じ事をやり始めてフランチャイズの意味がなくなってしまいます

 

そこで、不正競争防止法という法律を根拠に、A社に対してソックリでの店舗経営の停止を求める仮処分申立をしました。

 

仮処分(かりしょぶん)」というのは、訴訟をやっていては時間がかかってしまい、回復できない被害が出る危険がある場合に、裁判所緊急で仮の決定を出してもらう手続です。

 

ここで争いになった点はいくつかありましたが、主な点は

 コメダ珈琲店の店舗の外装と内装が、不正競争防止法に定める「商品等表示」に該当するか。

 この店舗外観が、不正競争防止法に定める「需要者の間に広く認識されている」(周知性がある)表示といえるか?

です。

 

次回、に分けて、詳しくご説明していきたいと思います。

 

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過労死の原因はどこに?

今週の木曜日に、沼津市に宅地建物取引士の法定研修の講師として行ってきました。

 

講義がちょうどお昼前に終わったため、昼食を沼津港内の食堂に行って食べてきました。

 

やはり、魚は美味しかったですが、それ以上に驚いたのは、自動車のナンバーでした。

 

港の共同駐車場に停めてある自動車のナンバープレートの地名が「沼津」や「静岡」はほとんどなく、「品川」「足立」「習志野」「長野」など県外のものでした。

 

沼津港深海水族館など話題になる施設ができて、近くに伊豆や箱根という観光地を抱えているので、平日にも観光客が来るのでしょう。

 

さて、最近、電通の新入社員だった、女性従業員(当時24歳)が平成27年(2015年)に過労自殺したことが話題になっていますね。

 

過労死」は「過労を原因とする死亡」という意味ですので、その死亡の経緯が自殺の場合と不整脈など突発性の症状の場合があります。

 

いずれも過労→死亡との間の関係性(因果関係)の証明が一番難しいし、争いになるところだと思います。

 

先月末には、三重県の津地方裁判所でも過労死について、経営者側に約4,600万円の賠償を命じる判決が出ています。

 

この経営者はミスタードーナツのフランチャイズをしている四日市市の中小企業です。

 

ドーナッツ店だけでなく、コンビニエンスストアや自動車用品販売店など大手の小売チェーン店は、その会社が直営するよりも、地域ごとの中小企業に経営を委託するケースの方が多いです。

 

私たち消費者は、ミスタードーナツ、セブンイレブン、ファミリーマート、ケンタッキーフライドチキン、オートバックスなど、おなじみの看板があれば、「看板のお店」という認識で買物をすることが多いです。

 

しかし、例えば同じファミリーマートでも、静岡市の中心部のお店と海の方のお店とは経営会社が違うことが多いです。

 

ですから、一見、「ミスタードーナツの店長が過労死」というと、大企業の従業員が過労死したように見えますが、実は、実際には看板を借りて営業をしているその地域の中小企業の従業員が過労死したということなのです。

 

この津地裁の裁判でも、ミスタードーナツを全国展開している㈱ダスキンが被告となるのではなく、加盟店となっている(看板を借りている)中小企業が被告となっています。

 

そのため、有名な看板のお店で過酷な労働条件で働かされる従業員が出てきやすいのです。

 

この裁判では、50才の店長が過労により不整脈で死亡したところ、そのお店では死亡する前の6ヶ月間の残業・休日出勤(時間外労働)が月112時間を超えていたということです。

 

過労死ラインと言われるのが残業80時間ですから、大幅なオーバーと言えるでしょう。

 

また、会社が店長の業務負担を軽くするための改善対策をとらなかったことも重くみました。

 

過労死の原因を作るのは、時間外労働の時間数だけでなく、職場の環境や人間関係にも大きな要因があると思います。

 

電通の事案でも、上司や同僚が、お互いに勤務の大変さについて理解しあえる環境にあれば、結果は大きく異なっていたように思えます。

 

津地裁の事案でも、業務の中での悩みを一生に考える副店長がいれば、やはり死亡するほどの不整脈になる前に病院に行けていたかもしれません。

 

そのような意味では、津地裁が、使用者側に労働者の健康状態や労働環境に配慮すべき安全配慮義務違反を認めたことは実態に即しているように思えます。

 

今後も、従業員に大幅な残業をさせている中で死亡した場合には、使用者に安全配慮義務違反の責任が認めれることが増えてくるでしょう。

 

その場合には、未払の時間外手当だけではなく、将来得られるはずだった所得、慰謝料など様々な責任が生じます。

 

津地裁の判決が約4,600万円の支払を命じたのもこれらを含むという趣旨でしょう。

 

経営者側も、目先の利益から人件費削減を重視しすぎると、「人の死」そして「会社の信用喪失」という取り返しの付かない結果を生じることを予測する必要があるのでしょうね。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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相続税対策の養子縁組は有効?

連日、全国で積雪のニュースが流れていますが、静岡市内にいると別世界の話のようです。

 

雪のような白いものを見ることはあっても、すぐに止むか雨に変わってしまいます。

 

雪が積もれば、子供たちは大はしゃぎ、道路は大混乱になりそうです。

 

もっとも、私の記憶だと、静岡市内での積雪は15年以上前に遡らないと存在しません。

 

温暖化する世界で、果たして静岡市で雪が積もるのでしょうか・・・

 

さて、世の中の多くの人が大嫌いな「税金」。

 

国民の義務だとは分かっていても、一方的に決められてしまうことや、調査や徴収が不公平など不満を持たれている方は多いと思います。

 

脱税はいけませんが、ルールの範囲内で節税をすることは誰でも気をつけているでしょう。

 

その節税目的での養子縁組有効性が争われた事件で、先月、最高裁判決が出ました。

 

事案としては、父親Aが死亡した時に、B、X1,X2という3人の子が相続人となったものです。

 

実は、その中の長男Bは、父親Aの生前に長男Bの子(父親Aから見ると孫)Yと養子縁組をさせていました。

 

これは、相続税の節約目的のものでした。

 

つまり、相続税の基礎控除額は、「3,000万円+法定相続人の数×600万円(平成27年1月1日以降の相続)」となるため、Yが養子となれば600万円分の基礎控除が増えるということです。

 

しかし、これを有効としてしまうとX1、X2は納得できません。

 

なぜなら、子供が一人増えると、X1、X2の本来の相続分が3分の1だったのが4分の1に減ってしまいます。

 

それだけでなく、この事案のYは最高裁の判決の時点でも5才のため、実際にYの4分の1の相続分は親である長男Bのものになるというのが通常の感覚です。

 

そうすると、X1、X2からみれば、長男Bが自分たちの倍の相続をするように画策したように見えたり、父親Aの縁組が不公平に感じたので、養子縁組無効の訴訟を起こしたのでしょう。

 

これに対して、最高裁は、「相続税の節税の動機」と「養子縁組の意思」とは矛盾するものでなく両立するものだとしました。

 

つまり、父親Aが自分が死亡した場合の相続税をできるだけ節約したいという気持ちを持ちつつも、孫Yを可愛く思って養子にする意思を持つことは十分あり得るということです。

 

確かに、国に持って行かれるお金を減らしたいことと、養子にするかどうかとは全く別のものですよね。

 

この点を指摘して最高裁は相続税の節税目的が主なものとしてあったとしても養子縁組無効とはならないとしました。

 

なお、注意しなければならないのは、もし「節税」ではなく「脱税」と言われるような養子縁組をした場合には異なる判決があり得ることです。

 

例えば、1億円の財産がある人が、相続税を払いたくなくて、12人の知り合いの名義を借りるような養子縁組をした場合には、「そもそも本当に養子にする意思が無い」として養子縁組は無効になる可能性が高いです。

 

この判決を鵜呑みにして、安易に節税(脱税)目的で養子縁組をしない方が良さそうです。

 

この事件で一番災難だったのは、知らないうちに養子縁組をされ、被告にされて、生まれてから5才までの間に地裁・高裁・最高裁と3つも判決を受けたYちゃんだったような気もしますね。

 

「親族間のトラブル」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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音楽と法律相談と伝えること

同じ音楽を聴いていても、一人一人聴き方が違うと感じることってありますよね。

 

私が聴く音楽のジャンルは、J-POPと洋楽ロックから始まって、その後にジャズ、クラシックも聞くようになり、今では「広く浅く」という感じで聴いています。

 

最近、おなじジャンルでも曲によって聴き方が違うことを感じます。

 

例えば、J-POPで最近ヒットした星野源の「恋」という曲がありますよね。

 

普通、私は「歌詞→メロディ→ダンス」という順番に頭に入る感じです。

 

でも、この曲は「ダンス→メロディ→歌詞」という順番で頭に入ってきます。

 

初めて聴いたとき「昭和の和風な雰囲気が感じられるダンスで面白いな~」という印象から入った後で、音楽→歌詞が頭に入ってきた記憶があります。

 

ちなみに、私はダンスは非常に苦手、つまり下手くそです・・・

 

 

おそらく最大の要因は、振り付けを感覚的に覚えられない所にあるように思えます。

 

そいうえば、ミュージックDVDやYOU TUBEで音楽を聴いても、振り付けが頭に入ってきません。

 

ところが、「恋」という曲では、ダンスから先に強烈に頭に入ってきます。

 

そうすると、「人は自分が苦手なものは無意識に見ない」けれども、上手くインパクトを与えると、その「苦手なもの」でも楽しんで受け止められるということでしょう。

 

これを法律の知識に置き換えて考えてみました。

 

法律に関するお話は「理屈っぽくて苦手」と感じる人の方が多数派なのではないでしょうか?

 

私自身も学生時代はそう感じていました。

 

ですから、法律に関する話を相手にしっかりと伝えるためには、何らかのインパクトを聴き手に与えるように工夫する必要があると思います。

 

振り返ると私も、法律相談で相談者に説明するとき、大学で講義するとき、他分野の実務家に講演するとき、場面によって工夫をしています。

 

例えば、法律相談では、性別、年齢、仕事や家庭などの人生経験、趣味などが分かれば、具体例をそこから出すと分かってもらいやすいように思えます。

 

大学で教えるときには、自分が大学生だった頃をイメージしています。

 

売買の話では、コンビニでおにぎりやペットボトルを買う話、賃貸借の話では、アパートを借りる・DVDを借りる話、労働問題ではアルバイトをしたときの給与の話などを例にしています。

 

依頼者や相談者に、法律用語・専門用語をそのまま使わずに、相談者の立場をイメージして対応しなければならない」と私たちの業界でもよく言われます。

 

きっと、音楽や法律に限らず、人のコミュニケーションというのは、その人に伝わるポイントをつかんで伝えることが大切なんだろうと思います。

 

「ご報告や雑感」のブログ過去記事についてはこちらへどうぞ。

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忘れられる権利は認められる?

インターネットの世界では、検索エンジンがないと何も出来ない時代ですよね。

 

膨大な情報の中から目的となる情報を見つけ出すにはGoogleやYahoo!のような検索エンジンからたどり着くしかありません。

 

検索エンジン抜きでインターネットをするのは、地図のない時代に目的地に行こうとするようなものです。

 

逆に、検索エンジンが優秀であれば、ネットを使う人が情報を早く簡単に見つけ出すことが出来ます。

 

今の日本では、インターネットで情報を探すときには、googleかYahoo!を使うことがほとんどで、全体の9割以上を占めているとのことです。

 

そして、Yahoo!の検索はgoogleの仕組みをそのまま借りているとのことなので、日本でのインターネットでの情報検索はgoogleのさじ加減で9割以上が決まる状態にあります。

 

そのため、自分のプライバシーに関する情報がどこかのHPに実名で記載された場合、そのHPの管理者が削除するか、googleが検索リストから外すまで、日本(多くの先進国)中に自分のプライバシーが公開されることになります。

 

今回は、過去に児童買春の疑いで逮捕された男性が、その事実が掲載されているウェブサイトが、事件から5年経っても容易に検索されてしまうことから、google㈱への登録削除を求めました。

 

google㈱がこれに応じてくれれば、少なくとも検索エンジンを通じて自分の逮捕歴が知られる可能性は1割未満になるということでしょう。

 

この裁判では、まず、そもそもgoogleの検索結果はプログラムで自動的に表示されるものに過ぎないので表現行為にあたるのかが問題となりました。

 

最高裁はこの点について、
プログラムを組むときにgoogle㈱の方針があって、それに従って選ばれて表示されるという性質上、ウェブサイトへの掲載者とは別個の表現者と言える
としました。

 

とすると、google㈱の検索結果という表現行為により、その男性のプライバシー権が侵害されていないかが問題となります。

 

最高裁6つの要素を上げて、これらを比較して重要性を考慮して、判断すべきとしました。

 

6つの要素をそのまま抜き出すと次のとおりです。

 

 当該事実の性質及び内容

 当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度

 その者の社会的地位影響力

 上記記事等の目的意義

 上記記事等が掲載された時の社会的状況その後の変化

 上記記事等において当該事実を記載する必要性など

 

そして、最高裁によると、

・児童買春が児童に対する性的搾取及び性質虐待と位置づけられている(の要素)

・だからこそ、社会的に強い非難の対象とされており罰則をもって禁止されていることから国民全体が知ることについて利益を持つような事実である(の要素)

・この検索がその男性の居住する県の名称及び男性の氏名を条件としたものであるため当該事実が伝達される範囲は限られていること(の要素)

・その男性には妻子がいて、逮捕されて罰金を支払った後は犯罪を犯すことなく民間企業で働いている(の要素)が、それよりも他の要素の方が重要なこと

から、google㈱の公表を削除するほどの権利侵害があるとは認めませんでした。

 

この最高裁の決定によると、社会的には強く非難されるべき犯罪については、相当広く検索結果表示を認めることになります。

 

しかし、そもそも前科については高度にプライバシーに関する事実であって、戸籍にも市町村で発行する証明書にも掲載されません。

 

ところが、ほとんどの犯罪は逮捕された時に報道され、ネット上に掲載されることから、新聞社等の記事から個人のHPへの転載の記録が残ることが多いです。

 

私が見るところでは、新聞社等は一定期間で削除するように個人のプライバシー権に配慮していることが多いようなので、本当に問題になるのは、私的なまとめブログなど、転載された情報でしょう。

 

最高裁は、「その個人が転載した記録が検索結果で表示されるかどうか=インターネット上で知られ得るか否か」の決定権をgoogle㈱という私企業に委ねたことになります。

 

確かに、google㈱は私的な団体であり、その表現の適切、不適切に国家の一翼を担う裁判所が介入して削除することの危険は慎重に配慮すべきです。

 

ただ、他方ではgoogle㈱がネットの巨人であり、圧倒的強者であることも現実です。

 

今回この力関係には最高裁は触れてはいないので、今後の判例による判断を待つことになります。

 

また、この最高裁の決定が、児童買春以外の前科に当てはまるわけではないため、交通事故など別の刑事事件の記載については、また別途検討が必要になってくると思います。

 

インターネットと法律の過去記事はこちらをご参照ください。

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預貯金も遺産分割調停・審判の対象となりました

1月になって、急に寒い日がありますね。

 

大雪などでご苦労されている方もいると思います。

 

雪が降らない静岡でもインフルエンザなど、この時期特有のトラブルが流行っています。

 

皆様もくれぐれもご体調にお気をつけ下さい。

 

さて、遺産を分けるときに、相続した人同士で話がまとまらない場合に家庭裁判所で調停を申し立てることができるというお話は以前したと思います。

 

この調停では相続をした人全員が当事者となって、家庭裁判所の調停委員の仲介の下で話し合いをします。

 

これを「遺産分割調停」といいます。

 

遺産分割調停は、あくまで話し合いの手続ですから、話し合いで合意できず調停が成立しない時もあります。

 

その場合には、それまでの調停手続をふまえて「審判(しんぱん)」という手続に移ります。

 

この遺産分割審判では、裁判官が主導して調停の資料に、更に必要な資料を当事者から提出させ、話を聞いて、話し合いができなくても「審判」という結論をくだします。

 

さて、この遺産分割の調停審判対象になるのは、相続した時点で分割できていない遺産だけです。

 

例えば、土地、建物や貴金属などは、その性質上分割して平等に分けることができません。

 

ですから、だれがどのように取得するのかを調停で話し合って、それでも解決しない場合には審判にしたんですね。

 

ところが、亡くなった人(これを「被相続人」といいます。)が預金を持っていたり、誰かにお金を貸し付けていた場合は別です。

 

なぜなら、預金というのは金融機関に対する債権であり、貸付金も債権です。

 

2,000万円の預金債権や貸付債権を2人で平等に分けるのに相談は要りません。

 

単純に1,000万円ずつ債権を相続すれば、誰が見ても平等だからです。

 

そのため、例えば、遺産の中に土地、建物の他に預金があった場合、遺産分割調停や審判では原則として、預貯金は対象となりませんでした。

 

当事者の全員が合意した時にだけ、調停で対象にできただけでした。

 

ところが、遺産分割の当事者や代理人となる弁護士にとっては、この考え方は非常に不便でした。

 

例えば、遺産として500万円の価値のある土地・建物があり、その建物に長男家族が住んでいたとしましょう。

 

遺産にはその他に預貯金2,000万円があったとします。

 

二男と相続について話し合いましたが、二男は長男が被相続人から2,000万円の贈与を受けていたという主張を言い張って合意しようとしません。

 

この場合、今までは、預貯金2,000万円を1,000万円ずつ自動的に相続しあって、残りの土地、建物(500万円)と2,000万円の贈与についてだけ遺産分割審判の対象とならざるを得ませんでした。

 

でも、長男は自分と家族が住んでいる土地、建物は譲れない上、2,000万円の贈与を遺産として戻すことも経済的に難しいことが多いです。

 

二男は、長男家族が居住を続けるなら土地、建物の価値の半額の250万円と贈与の半額の1,000万円の合計1,250万円を支払ってくれないと納得しないでしょう。

 

従来では、調停で話し合いがまとまらない場合、審判で土地、建物を競売にかけてしまった上で、長男に次男に対して1,250万円を支払うよう命じるしかありませんでした。

 

でも、対立が激しい遺産分割ですから、長男は預貯金として相続した1,000万円を勝手に引き出して使ってしまったり、隠してしまうこともあり得ます。

 

そうすると、二男は結局不動産を競売にかけて得た金額しか手に入れられません。

 

しかし、長男がどうしても出て行かない場合、競売の手続費用だけでも相当額がかかってしまう上に、実際に売れる金額も評価額よりも低いです。

 

これに対して、もし、預貯金も遺産分割調停や審判の対象として遺産に含まれるとすれば、審判で、土地・建物を長男が相続する代わりに、預貯金2,000万円を全て二男に与えた上で、250万円を長男が次男に支払うように命令することが可能です。

 

そのような解決であれば、二男もとるべき遺産のほとんどを手に入れられますし、250万円の支払を分割にすることにも同意しそうです。

 

逆に、長男も250万円の支払を渋ったことで、自宅を差し押さえられて競売にかけられることは避けたいので、できる限り借入でもして支払おうとするでしょう。

 

このように、遺産分割では預貯金が、長男と次男の利害を調整するという大切な役割を果たします。

 

そこで、最高裁判所決定(平成28年12月19日)で、従来の預貯金が相続とともに自動的に分割されるという考え方を変えました。

 

預貯金には、先ほど書いた調整金としての役割、確実に引き出せることから現金に近い性質を持っていること、入出金や利息で残高が常に変動するので確定額として自動分割しにくいことから、相続によっても当然に分割されずに遺産分割調停や審判の対象となるとしたのです。

 

ですから、例えば貸付金債権については、預貯金と同じようには考えられず、従来通り相続とともに自動的に分割されることになると思います。

 

貸金債権は、確実に回収できるとは言えませんし、預貯金のような入出金はないからです。

 

この最高裁の決定は、これからの実務に大きな影響を及ぼしそうです。

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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夫の風景、妻の風景

先日の連休で広島に行ってきました。

 

行き先は、厳島神社

 

それから、原爆ドームと平和記念資料館

でした。

 

約20年前に行ったことはあったのですが、宮島の雰囲気の変わり方、平和記念資料館の見学者に海外からの旅行者が多かったことが印象的でした。

 

旅行の風景も人の心の持ち方によって、大きく変わったり、異なったりすると思います。

 

それは、離婚する夫婦にも言えることです。

 

良くあるケースで、離婚前に妻が幼い子供を連れて突然家を出て行って別居にい至ることがあります。

 

この場合、幼い子を養育しながら生活をしなければならない妻から夫に対して生活費の請求ができます。

 

いわゆる「婚姻費用」の請求ですね。

 

ここで妻の見ている風景を見てみましょう。

 

妻としては、身勝手な夫との生活に嫌気がさしていますから、別居は自分にとって必然です。

 

子供が幼いから、夫が世話をできるはずもなく、自分が育てることしか選択肢はないと考えています。

 

さて、実家へ帰ろうかと一度は考えますが、帰りにくいことが多いようです。

 

理由は色々ですが、例えば兄や弟が結婚していて親と同居している場合には、他人である義理の姉妹の世話になることは気が引けます。

 

そうでなくても、昔から知っている人が多い実家に戻って、離婚前の別居というデリケートな状況の中で自分自身や子供を生活させたくないという妻も多いでしょう。

 

今では離婚は全く珍しくないものの、噂が好きな人はどこの世界にもいますからね。

 

そうすると、実家が遠方の場合はもちろん、近くにあっても戻れなくてアパートを借りざるを得ないことも多いのです。

 

そうすると、アパートに入る時にまとまったお金が必要な上、毎月5万円程度の家賃がかかるでしょう。

 

これに対して、夫の支払う適切な婚姻費用が毎月8万円だとすると、生活費は3万円しか残りません。

 

これでは、光熱水費と子供の病院代だけで消えてしまいます。

 

ところが、夫はその8万円すら支払おうとしません。

 

良いところで5万円程度、ひどい場合には1円も支払わないこともあります。

 

妻から見ると、家賃相当額すら支払おうとしない夫は、

子供が飢え死にしても良い」

と思っているとしか思えません。

 

さて、これを夫から見た風景はどのようになるのでしょうか?

 

離婚に至る夫婦の場合、お互いに精神的に傷つけ合って別居することが多いので、当然、夫は自分に非があると思っていません。

 

夫婦喧嘩があっても、それはお互い様という感覚のため、妻がどうして突然別居してしまったのか分かりません。

 

しかも、夫にとっても可愛い子供を連れて出て行った妻に対して、子供を連れ去られたような怒りを覚えるでしょう。

 

そんな妻が、実家があるのにそこに戻らずにアパートを借りて生活費(婚姻費用)の請求をしてきました。

 

夫から見れば、実家に帰れない環境にあるのであれば、今の生活の中でしっかりと話し合いをして、子供のこともしっかりと決めてから別居すべきだと思えます。

 

しかも、自宅が持ち家の場合、夫には毎月とボーナス時に住宅ローンの重い負担がのしかかってきます。

 

夫としては、夫婦でこの家を建てる(買う)という約束で住宅ローンを計算して組んだのに、「嫌になったから住宅ローンは夫が一人で払え」というのは非常に身勝手に感じます。

 

そこで、夫は婚姻費用は最低限にした上で、子供のことは心配なので、医療費など必要な費用は明細を見せてくれれば支払うという気持ちになることが多いのです。

 

ところが、家庭裁判所の実務では、婚姻費用や養育費の使途を夫に報告する義務まではないという運用がされています。

 

夫としては、「支払った婚姻費用は、離婚して他人になる妻に全部持って行かれてしまうのではないか」と納得できない気持ちになるわけです。

 

そこで、婚姻費用をできるだけ削りたいという行動に出るのです。

 

私の経験によると、弁護士が扱う離婚事件では、この傾向は多かれ少なかれあると感じています。

 

もちろん、全ての夫婦の離婚や別居の原因が同じではないので、程度に差はあります。

 

夫が全く婚姻費用を支払おうとしないケースと、適正な婚姻費用が分からないから支払えないと考えているケースとがあるように思えます。

 

でも、夫婦当事者は、別居時点でお互いの信頼を無くしていますから、相手の行動を悪く評価してしまうことが多いです。

 

そこから、離婚の問題がこじれて、弁護士や裁判所がお手伝いしていくことになるんですね。

 

離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。 

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裁判に関係する録音はNG?

12月も中旬になり、もうすぐ1年で一番昼が短い日(冬至)がきますね。

 

2016年の冬至は12月21日、つまり今度の水曜日とのことです。

 

私は、昼が長い方が何となく得したような気になるので、早く冬至を過ぎて欲しいという気持ちです。

 

さて、法律相談で録音のことを質問されることが時々あります。

 

内容としては、

① 相手と交渉をする時にこっそり録音しても良いか?

② 内容を忘れてしまうので、この法律相談を録音して良いか?

③ これから調停を自分でやる予定だが、調停手続を録音して良いか?

などが良く受ける質問です。

 

まず、はやり方が違法でなければOKです。

 

つまり、喫茶店やお互いの家などで話をする際にスマートフォンやICレコーダーでこっそり会話を録音して、後でウソをつかれた時の証拠にすることは可能です。

 

ただ、録音の方法が違法な場合、例えば相手の家にこっそりと盗聴器をつけて録音するなどして証拠をとっても、これは通常は裁判では証拠として使えません。

 

それだけでなく、住居侵入罪などで逮捕されてしまう危険性すらありますので、絶対にやらないようにしてください。

 

次にについて特に決まりは無いので、弁護士によって対応は違うかもしれませんが、私はお断りしています

 

おそらく多数派は録音NGだと思います。

 

もちろん、相談する方が、「回答内容を正確にメモする自信が無い」など理由は理解できる場合はあります。

 

しかし、
・録音されたデータが編集されて私の意図しない内容に変えられる危険性
・録音した方のうっかりミスなどで、私の音声がネット等に公開される危険性
を考えると、どうしても了解することはできないんですね。

 

法律相談の録音を希望する場合には、相談される方は、必ず相談場所の管理者(例えば市町村役場の担当者など)と担当弁護士に録音して良いかを確認してください。

 

その両方が承諾するのであれば、録音は適法です(ほとんどの場合は承諾してはもらえないと思われますが)。

 

最後にについては絶対にダメです。

 

調停手続や裁判での弁論準備手続は非公開がそれぞれの法律で定められています。

 

そして、スマートホンやICレコーダーで録音したものを部屋から持ち出すこと自体が非公開の規定に違反します。

 

調停手続や裁判での弁論準備手続は、揚げ足取りをお互いにしないことを前提に自由な意見交換をして、紛争を解決しようとする目的で行われます。

 

紛争の内容は当事者の記憶違いや感情の変化で常に変わっていきますので、一旦言ったことを撤回できないということになると、何も言えなくなってしまいます。

 

そのため、調停手続や裁判の弁論準備手続においては、ある程度自由に意見交換をしてもらい、口頭で言ったことについて一々責任を問わないことが前提となっているのです。

 

その手続があってこそ、紛争を早く、妥当に解決できるのでしょう。

 

そして、もし、相手が口頭で言ったことについて責任を持って欲しい時には、相手にその真意を確認した上で、裁判所の調停委員や裁判官に調書に取ってもらうように求めることになります。

 

裁判手続に関係する録音は非常にデリケートな問題を含んでいるので、しっかりと弁護士に相談してから行動することをお勧めします。

 

 「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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