皆さん、美容院とか、マッサージとか、一人の人と一定の時間雑談することがあった場合、自分がどんな仕事に就いているのか話しますか?
私たちの業界だと、おそらく
「行きつけで気心が知れている店など以外では話さない」
という人が多数派だと思います(私もそうです)。
理由は(推測できるかもしれませんが)、もし弁護士だと言ってしまうと、そこで刑事事件の実体験を聞かれたり、下手をすると法律相談が始まってしまうからです。
自分がお客でいる時くらい、こちらから質問して情報が欲しいですよね。
もっとも、これが弁護士に限らず、おそらく他の仕事でも
「絶対に言わない!」
という方も多いのではないかと思います。
例えば、①小中学校、高校の教師、②公務員、③誰もが知っている大手の会社、③今悪い意味で話題になっている会社に勤めている場合などが典型でしょう。
私は、公務員時代、タクシーで、うかつに「県職員」だと言ってしまったら、「仕事が楽でうらやましい」とか、「税金の無駄遣い」とか、政策に対する批判などを、自宅に着くまで延々と言われた経験があります。
それ以来、一切、自分の仕事をタクシーでも、マッサージでも、美容院でも(「美容院に行くような髪型か!」という異議については却下します)言わなくなりました。
ただ、最近では、タクシーやマッサージなどでも、運転手やお店の人が、昔よりも、お客さんの仕事へ踏み込まないようになってきているようにも感じています。
おそらく、営業に直接響くから、内部でマニュアルが出来ているのかもしれません。
さて、今回の本論は離婚のお話です。
私が離婚のご相談を受ける時に、
「どれくらい別居していれば離婚できますか?」
というご質問を受けることが多いです。
これを考えるには、まず、離婚したい本人に配偶者に対して何か責任を負っていないか(例えば、不貞・暴力・ギャンブルでの浪費など)を考えなければなりません。
責任を負っている配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は、最高裁のリーディングケースが出ているので、離婚の要件は色々な所で説明されています。
最近では、そうではなく
「性格の不一致で離婚したいんだけど、夫(妻)が承諾してくれない。」
ということで、「相手にも自分にも決定的な責任があるのではないけれども離婚したい」というご相談が増えているように思えます。
私の実体験だと、昔、ある離婚訴訟で、夫婦ともに大きな問題はなく、ただ性格の不一致で別居しているケースで、裁判官の意見を聞いたことがあります。
もちろん、相手弁護士がいたら聞けないですから、私と裁判官だけが部屋に居る期日(弁論準備手続という期日でこのような時があります)で聞いてみました。
「このケースだと(離婚請求する方に悪い所があまり無いケース)、今までの主張・立証だけで見て、判決まで言った場合、4年程度の別居期間があれば、私なら離婚を認めます。」
これを聞いて「別居期間も裁判実務では相当短くなってきているのかな」という印象を受けました。
ただ、夫婦の間に明確な有責の事情が無くても、1件ごとに夫婦内部が抱える問題点はそれぞれですので、この「4年」というのを他の事例にそのまま当てはめることはできません。
離婚や相続で、インターネットで知識を入れてこられる方もいますが、仮にそれが正しい情報だとしても、それは、特定の事案において正しいだけです。
皆さんの事案は、多数の判例を読み解いて、実際に事件にぶつかった実務家(裁判官・弁護士)でなければ、予測不可能です。
それを前提に、平成20年~21年にかけて起こされた離婚訴訟をご紹介しましょう。
これは、80才になる夫が、23才も年下の妻(57才の後妻です)に対して離婚訴訟を起こしたものです。
別居期間は約1年ちょっとですが、その別居は妻が出て行ったことにより始まっています。
この裁判では、第1審の神戸家裁では離婚請求を棄却して、夫が控訴した大阪高裁で離婚が認められるというギリギリのケースです。
ここで、大阪高裁が別居期間以外に重視したことは何だったのでしょうか?
高裁の判断で、主なものは以下の3つでしょう。
① 妻が夫が高齢になって病気がちになり、生活費不足から生活費を減額した 時期から、突如、妻が夫に対して軽んじる行為が始まったこと
② 長年、仏壇に祀ってあった先妻の位牌を勝手に親戚に送りつけてしまったこと
③ 夫の青年時代から継続して写真を入れてあったアルバムを無断で焼却処分してしまったこと
私が想像するに、別居後わずか1年ちょっとで判決がなされていることをみると、別居は調停中か訴訟中に行われたのでしょう。
そして、その間に夫の病状は悪化していたのではないでしょうか。
確かに、「別居期間が、まだ短い」として離婚の請求が棄却されても、もう少し別居を継続して、再度、訴訟を起こせば次は離婚が認められるでしょう。
しかし、本件のように、夫が男性の平均寿命である80才ということを考えると、大阪高裁は「病気がちになっている夫に2度目のチャンスは無いかもしれない」と考えたように思えます。
意外と、難しい文章で分かりにくい判決書の中の見えない部分に、裁判官の暖かい目や温情が隠れているところも判例分析の面白さの一つです。
ですから、30才代の夫婦におなじことが起きても、1年の別居期間で離婚できると思ったら全く違うと思います。
私が「事件は1件、1件が別事件だ」としつこく言うのも、こういう事情があるからなんですね。
離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。