反省させると犯罪者になります

というタイトルの本を、昨年読みました。

 

作者は、岡本茂樹氏。

 

現在、立命館大学産業社会学部教授の傍ら、実際に刑務所での常習的に犯罪を犯した人の社会復帰に関わっているそうです。

 

インタヴュー記事が↓にありますので、興味のある方はクリックをどうぞ。

http://kosodatemedia.com/archives/1034

この方の書いていることは本当なのでしょうか?

 

読んだ後、実践も含めて自分なりに検討してみました。

 

刑事事件というとその殆どが自白事件です。

 

警察に逮捕され、その後の20日間の勾留の間に多くの被疑者は、罪を認めてしまう(自白)んですね。

 

その方法の是非は置いておいて、では自白して罪を認めた被疑者に皆さんは何を求めますか?

 

おそらく、「再度犯罪を起こして、自分や社会に迷惑をかけないでもらいたい」というのが最も大きな思いなのではないでしょうか。

 

特に、凶悪な事件だったり、被害者が子供だったりすると、その思いはより強くなると思います。

 

そして、二度と犯罪を起こさせない手段とは何でしょうか?

 

それは、死刑か、更生か、の2択しかありません。

 

日本では、無期懲役といっても、仮釈放の可能性(最近は審査が厳しくなってきているとは聞いていますが)が残っています。

 

ですから、死刑という結論を下さない限り、判決を受けた被告人は、私たちと同じ社会に戻ってくるんですね。

 

そこで、自白事件については、「反省」ということに重きが置かれます。

 

犯罪を起こしたことを「反省」させないと、また同じことをやるという考え方です。

 

私も、この本を読むまでは、この被告人をどうやって更生させるのが良いだろうかと考える中で、「反省」という点に重点を置いていたことは事実です。

 

でも、この本では全く逆のことが書かれています。

 

つまり、受刑者と面談していると、一応は申し訳ないという気持ちはあるけれど、なぜその事件を起こしたとか、自分にどういう問題があったのかという事に、全然気づいていないということです。

 

ただただ表面上「すいませんでした。ごめんなさい。」という状態になっているだけとされています。

 

そして、受刑者に自分の抱えている問題を自覚させる方法として、ロールレタリングという方法をとっています。

 

これは、自分から被害者や自分の親族あての手紙を書かせた後、今度は被害者や自分の親族から自分への手紙を受刑者本人に書かせるということを繰り返していく方法だそうです。

 

これを何回も繰り返して、例えば自分が幼少期から抱えていた問題に気づかせるなどして、そこから被害者の心情を慮ることを始めるということです。

 

このように、犯行から裁判を経て刑務所へ入った受刑者には十分考える時間があるのに、本当の意味での「反省」をしていません。

 

それなら凶悪犯罪を犯しながら犯行直後や裁判ですぐに「反省」の弁を述べている被疑者・被告人はどうなのかという疑問がわいてきます。

 

つまり、犯行から裁判までの短い期間で、「反省の弁を述べた方が判決や社会の批判が軽くなる」と判断するだけのずる賢さがある被告人の方が再犯の可能性が高いということも考えられるのです。

 

そうすると、裁判で検察官から非難され、裁判官から説諭され、場合によっては弁護人からも叱責されて、「すみません。二度と犯しません。」と言っている被告人のどこまでが本心なのでしょうか。

 

皆さんも刑事事件の傍聴に行くと良く目にする光景ですが、被告人の味方のはずの弁護人が裁判官よりもずっと被告人に厳しく叱責する姿を見ることがあると思います。

 

これは、

表では、「裁判の場を借りて被告人に反省させ、二度と犯罪を犯させないようにしよう」という気持ち

裏では「検察官に非難される前に、先に同じことを言って叱って被告人に謝らせてしまえば反対尋問がやりにくくなる。」という法廷戦術的な意味

があります。

 

私も時折その手段を使っていたこともあります。

 

しかし、この本を読むと、被告人の刑を軽くするだけなら意味のある戦術ですが、社会の多くの方が望む「再犯をさせないこと」としては全く意味が無いやり方ということになります。

 

この本を読んでから、私も接見に行った時に、被疑者に犯行事実を確認する際に、

「反省してる?」

と聞いてみると、殆どの被疑者が

 

「反省しています」

と言います。

 

ところが、その後雑談をしてすこし雰囲気がくだけてきてから、例えば窃盗事件なら、

「でも、あのお店(被害店)も、それだけ簡単に盗めるというのも脇が甘いよね。」

などとわざと話を振ってみます。

 

すると

「そうなんすよ~だから、今まで100%成功してたのに、今回はミスっちゃって」

などと言い出すんですね。

 

つまり、最初に言った「反省しています」というのは、表面上だけのものだったという訳です。

 

ついでに、常習性があることまで教えてくれるのは「お前も十分脇が甘いよ」と突っ込みたくなりますが(笑)

 

ですから、この本を読んでから実践してみた約10件程度の私の刑事事件から振り返ると、やはりこの本に書いてあることは当たっているように思えます。

 

そこで、弁護人としては、この裁判までの短い時間に何をしたら良いかを考えました。

 

もちろん、窃盗のような財産的な被害が出ている犯罪については、それを金銭などで返すこと(被害弁償)は被害者のために優先的に必要です。

 

でも「反省」を急かす気持ちは全くなくなりました。

 

私の考えた方法は、親族や世間から非難されている被告人の味方であり、一生懸命弁護活動をしていることを被告人に実感させることです。

 

そして、ケースバイケースではありますが、法廷でも「甘い」のは承知の上で、被告人の良い情状面を一生懸命主張することが多くなりました。

 

その上で、判決後、必ず被告人の更生を助ける何等かの方法を考えるようになりました。

 

その方法は、被告人に判決後に、被告人に直接もう二度としないように言う場合もありますし、ホームレスには何か差し入れを入れてあげる(これも判決後でないと意味がないと思います)こともあります。

 

私なりに、この本を読んで、弁護人が関わる短期間で、被告人の心に届く言葉や行動な何だろうかと考えるようになりました。

 

今後、また色々な本を読んで、方針が変わるかもしれませんが、

「何をやったら一番良いのか、正解が無い」

というのが、この仕事の一番の面白さですので、死ぬまで考え続けたいと思っています。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。 

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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