ありがたいことに、最近は非常に忙しい日々を過ごしております。
平日は、朝から晩まで、殆ど、裁判所にいるか、ご相談・打ち合わせを入れており、土曜日もご相談が入るので、日曜日に何とかたまった仕事を処理している状態です。
お引き受けした事件は、1件、1件、大切にやりたいので、ご相談の予約のお電話をいただいても、対応できる日が2~3週間先になってしまい、ご迷惑をおかけしております。
この場を借りて、お詫び申し上げます。
さて、最近、近藤誠氏の本を興味深くよんています。
近藤氏は、1948年生まれの慶応義塾大学医学部の放射線科講師です。
経歴を見ると、慶応義塾大学の医学部を卒業した年に、その医学部の放射線科に入り、その6年後にはアメリカへ留学しています。
ここまでを見ると、放射線治療の医師として、エリート街道まっしぐらのように見えます。
ところが、1983年、35才の時に慶応義塾大学医学部放射線科講師になり、今年で65才になるのに、「講師」以上の肩書きの記載がありません。
本の紹介文には、ガンの専門家で「乳房温存療法のパイオニア」と紹介されているのに、肩書きは「講師」です。
慶応大学医学部を卒業と同時にそこの医局に入り、アメリカ留学までさせてもらった人が、65才にもなるのに「教授」でも「助教授」でもなく「講師」です。
近藤氏の本を読むと、その理由が何となく分かります。
とにかく、患者を食い物にする医師と製薬会社のシステムの問題点やがん治療の誤解について、切りまくっています。
しかも、「成人病の真実」という本では、権威ある医師たちの実名をあげて、徹底的に批判しています。
おそらく何冊か本を出されており、印税も入っていると思います。
しかし、おとなしく医師業界の慣習に従っていれば、地位も名誉も収入も、もっと楽に手に入っただろうと思います。
そこまでして、近藤氏を動かしているのは、「放射線の専門家としての矜恃」なのか、「単なる目立ちたがり屋」なのか。
近藤氏の持論を支持する医師が極端に少ないので、彼の持論について正しいかどうかの検証は難しいので、読者が自分で判断する余地は大きいでしょう。
そういう意味で、医学的な知識に乏しい私たちが、近藤氏の意見を全て盲信してしまうことはできないのかもしれません。
ただ、彼が何度も言っている「医師の意見を盲信することなく、患者自身が主体的に治療方法や投薬を選択すべきだ。」という意見には深く賛同できます。
というのは、同じ専門家として、弁護士の選択にも同じことが言えるからです。
近藤氏が嫌うのは、「患者は文句など言わずに専門家の言うことに全て任せておけば良い。」という医師の姿勢です。
弁護士にも同じことが言えると思います。
しっかりと依頼者に、法的観点からのメリット・デメリットを、法律用語ではなく、日常用語で分かるように説明し、主体的に選択をしてもらうべきだと私も思っています。
もし、弁護士が十分な説明も無く、一方的に方針を決めて、「専門家の判断に従っておけば良い」という姿勢をとっている場合には問題があると思います。
逆に、医師と違う部分で、依頼者が弁護士を選ぶ時に気をつけなければならないポイントがあります。
それは、ご相談される方が、宣伝にだまされやすい性質があることです。
例えば、皆さんは、開業医が
「胃薬の処方は得意なのでお任せ下さい!」
と広告を出していたらどうでしょうか?
「え?胃薬の処方しかできない医師なの?」と驚かれるのではないでしょうか。
ところが、弁護士業界では違います。
弁護士から見ると適正な広告と不適正な広告、その中間的な広告があるように思えます。
まず、
「医療過誤事件のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「建築・不動産紛争のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「企業法務のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「著作権など知的財産権のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
のような広告は、ある程度信じてよいものだと思います。
何故なら、いずれの事件も、弁護士であるというだけでは対応が難しく、相当の勉強、経験、他の専門家との人脈などが必要な事件だからです。
弁護士になったからといって、一朝一夕に対応できる事件ではありませんので、正にスペシャリストを名乗るのにふさわしいと思います。
しかし、
「過払金返還請求のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「借金問題のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「離婚事件のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「不貞行為の慰謝料のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「相続事件のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
などという広告は、普通の弁護士なら笑ってしまうような広告です。
なぜなら、「私は専門家としては無能です」と言っているのと等しいからです。
もし、これらの事件を処理できないような弁護士がいるとしたら、それは熱意の欠如か依頼者の人生を受け止められない弁護士くらいでしょう。
スペシャリストを名乗るのは、知識の無い相談者や依頼者を騙してお金をとろうとしているとしか思えません。
以上の中間的な位置づけになる広告として
「交通事故のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
「刑事事件のスペシャリスト!得意です。お任せ下さい。」
などがあります。
交通事故は、確かに、後遺障害との因果関係が争点となっており、医学的な知識が必要な事案など、限られた事案では専門的知識が豊富な弁護士を選ぶ必要はあるでしょう。
ただ、多くの交通事故の争点は、過失割合や損害額の問題など、ちょっと勉強すれば対応できるものが多いので、もし宣伝するのであれば、おおざっぱに「交通事故が得意」などとすることには違和感があります。
また、刑事事件も、大きな事件を何件も扱っており、闘うことを得意としている弁護士は数少ないですがいらっしゃいます。
でも、そのような弁護士は、「私は刑事事件が得意です!」などという宣伝はしません。
なぜなら、別に宣伝などしなくても、そのような弁護士は有名ですから、事件が自然に集まるからです。
刑事事件も、交通事故と同じで、無罪を争うようなケースでは、戦い方に慣れている弁護士を選ぶ必要性は高いでしょう。
でも、無罪を争うケースは極めて少なく、刑事事件のほとんどは、被告人が自白している事件で、刑をどれだけ軽くするか、保釈を認めてもらうかなどが問題となっています。
そこでは、司法試験と司法研修所で習った法的知識さえあれば十分であり、後は、担当弁護士の熱意と行動力、人間性で決まる問題です。
ですから、私は、
「無罪を争う刑事事件について得意としています!」
という広告があれば、なるほど、多くの無罪事件を争った経験がある弁護士なんだなと納得しますし、尊敬します。
しかし、
「刑事事件を得意としています!」
という広告を見ると、被疑者・被告人やその親族の不安につけこんで、
「被疑者・被告人への接見の回数で弁護士費用をカウントして、不必要な接見を繰り返して高額の弁護士費用をとっていないのかな?」
とか、
「見込みの無い保釈申請を被告人の親族に勧めて、特別料金をとったりしていないかな?」
という疑問がわいてきます。
私がこんな勝手な意見を書いて、近藤氏のように干されないかとご心配いただいた方もいるかもしれません。
でも、弁護士業界の良い所は、こんなことを書いても、私が弁護士業界から干されるということが無いところです。
弁護士は官公庁から監督を受けず、自分たちで監督を行っており、個人個人が自営業主です。
他人の営業のやり方に口出しをして干すということは、基本的に無いんですね。
皆さんも、弁護士を選ぶ時には広告の中身に十分注意して
「○○が専門!」
「○○が得意!」
という宣伝にご注意の上、主体的にお選び下さい。
なお、最後にこのブログでも日弁連の活動に、ちょっとだけ後方支援をさせてもらいます。
日弁連が、近日中に成立する可能性のある「特定秘密保護法案」に反対して各地で反対運動を起こしています。
ちなみに、私もこの法案には大反対です。
公務員の内情を知っている私には、この法案ができると、私たち国民が大切な事実を知る機会を失うことが嫌というほど分かるからです。
国民の選んだ議員ではなく、行政官僚の、しかも係長から課長クラスの人が、取り扱う書類にポンポン㊙のハンコを打っているのが現状です。
もし、この法案が通ると、私たち国民が選挙で判断をするためには知っていなければならない事実が、全く開示されなくなるおそれがあります。
長い目で見ると、それは極めて危険なことだと思います。
「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。