正当防衛と緊急避難ってどう違うの?

正当防衛」という言葉は良く聞くと思います。

 

緊急避難」という言葉も聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。

 

両方ともその要件を充たすと、行為が違法ではなくなり犯罪が成立せずに「無罪」となる点ではおなじです。

 

では、この二つにはどのような違いがあるのでしょうか。

 

一言で言うと、正当防衛は「不正対正」の関係、緊急避難は「正対正」の関係ということです。

 

例えば、強盗にナイフで攻撃されてきた時に、素手や手元にある棒などで応戦して自分の身を守るのは正当防衛です。

 

これは、強盗という「不正」に対して、被害者である「正」の立場にある者が、防衛をするという関係ですよね。

 

これに対して、緊急避難には有名なたとえ話があります。

 

カルネアデスの板」というお話です。

 

海で船が沈没してしまい、乗客が溺れそうになっていた所へ1枚の板が流れてきました。

 

誰もが板につかまって助かろうとしましたが、その板は1人分の重さにしか耐えられません。

 

そこで、ある男は、自分の命を助けるためにやむを得ず、他の乗客のすがる手を振り払って、1人だけ助かりました。

 

さて、この男には殺人罪が成立するのでしょうか。

 

この場合には、自分の命を助けようとする男も「正」で、被害者である他の乗客も「正」です。

 

この場合には、緊急避難にあたり、無罪になってしまうんですね。

 

もっと身近な例で言うと、猛犬に追いかけられて、やむを得ず他人の家に無断で入り込む場合も緊急避難ですね。

 

猛犬に追いかけられている人も「正」ですし、家に侵入されてしまった人も「正」です。

 

この場合にも、緊急避難で住居侵入罪は成立しません。

 

ただ、緊急避難の場合には、正当防衛と違って、攻撃(防衛)される側に何ら落ち度が無いので、正当防衛の場合よりも成立の要件が厳しくなっています。

 

自分の身を守るために他に方法が無いことが必要です。

 

また、その行為から生じた害がその避けようとした害を超えないことを必要とします。

 

例えば、先ほどの猛犬の例では、その行為から生じた害は住居の平穏を侵害されたことです。

 

これに対して、避けようとした害は、自分の生命・身体です。

 

どちらが、法律で保護すべき利益(これを「法益」と言います。)として大事かといえば後者ですよね。

 

ですから、緊急避難の要件をみたすという訳です。

 

正当防衛や緊急避難は、色々と要件がありますので、比較する問題を出すとまるでパズルのような問題になります。

 

司法試験を受けていた時代は、このパズル問題に大分苦しんだ覚えもあります。

 

正当防衛と緊急避難の違いを感覚的にでも知っておくと、推理小説が楽しく読めたり、裁判員になった時に役に立ったりするかもしれません。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

 

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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