労災保険が欲しいけど・・・

福島第一原発は、制御室に電気が通ったということで一歩前進ですね。

 

今後、放射性物質を含んだ水を処理するのに一定の時間が必要なようですが、危険の除去に向かって、一歩一歩進んでいって欲しいものです。

 

さて、これから、裁判の事例をもとにお話をしていくことになりますので、分かりやすいように登場人物の呼び方を決めさせてください。

 

裁判の当事者のうち、原告訴えた側)をX、被告訴えられた側)をY、それ以外の登場人物をA・B・Cなどと呼んでいきます。

 

市販の判例集などでも、そのような記載がされているので、これに慣れて損はないと思います。

 

今日は、「労働者」として、労災保険の医療費や休業時の給与の補償がもらえるかが争われた裁判を考えていきましょう。

 

事案としては、次のようなものです。

 

Xさんは、自分の所有するトラックを使って、運送の仕事をしていました。

 

Xさんの仕事は、A会社の工場で、A会社が指定する製品をトラックに積んで、A会社が指定した運送先に、決められた納入時刻に運ぶことでした。

 

ある日、Xさんは、A会社の工場内で、トラックに製品を積み込む作業をしていた時に、転んで怪我をしてしまいました。

 

Xさんは、A会社の「労働者」として働いていた時に怪我をしたのだから、労働災害として、医療費や休業時の給与分の補償が欲しいと請求しました。

 

請求先は、Y労働基準監督署長(横浜南労働基準監督署長)です。

 

でも、Y署長は、Xさんは、A会社に雇われていたのではなく、運送の請負契約をしていたに過ぎないからA会社の「労働者」ではないと判断しました。

 

Xさんの請求が認められなかったことから、XさんはY署長を相手に「不支給の処分の取り消し」を求めて裁判を起こしたんですね。

 

第1審では、Xさんの請求を認めましたが、次の控訴審では、Xさんの請求は認められませんでした。

 

そこで、Xさんは、最高裁判所に上告しました。

 

結論としては、最高裁は、Xさんは「労働者」にあたらないとして、Xさんの請求を認めませんでした

 

「労働者」といえるためには、使用者との間に、指揮監督関係が必要です。

 

確かに、Xさんは、A会社の専属の運送人として製品を運び、A社の指示を拒否する自由はなく、勤務時間も事実上A社の指示によって決まっていました。

 

でも、次の理由で、A会社の「労働者」とは言えないと判断しました。

 

 A社は、運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外は、Xさんの業務に対して特に指揮監督をしていないこと

 

 時間的・場所的な拘束の程度も、A社の一般の従業員と比べてはるかに緩やかであったこと

 

 報酬が運送量・運送距離によって定まる出来高払いだったこと

 

 所得税の源泉徴収や社会保険・雇用保険の控除がなされていなかったことなどからです。

 

は、従業員(「労働者」)であれば、次のようになるのが普通です。

 

 雇い主が、仕事について指揮監督をしている。

 

 勤務時間・勤務場所がしっかりと定められている。

 

 給与は、運送量や運送距離とは関係なく一定の額が支払われている。

 

 所得税の源泉徴収などが給与から控除されている。

 

このような事実が無いことから、最高裁は、Xさんは「労働者」ではないと判断したんですね。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 労働事件のお話

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