知らないうちに自分の子供が生まれていたら?

最近の刑事事件では富岡八幡宮の女性宮司が殺された事件で、宮司の地位を誰が継ぐのかで争いになっていたことが報道されていますね。

 

莫大な収入が非課税で入ってくる地位を被害者の姉に奪われたと恨んでいた弟の犯行とのことです。

 

信教は歴史上も、お金や領地を広げるための殺し合いの道具として使われることがあることは知っていましたが、現代の神道で行われるとは想定外でした。

 

宗教の教義を敬虔に守っている人たちにとっては迷惑な話でしょうね。

 

さて、
「子供の本当の父親を知っているのは母親だけ」
という、男性にとっては何とも怖いジョークを聞くことがあります。

 

もっとも、結婚しているうちに生まれた子は夫の子と推定されますので、法律上問題となるのは結婚していなかったり、別居していたりした場合です。

 

昨日の12月15日(金)に奈良家庭裁判所で、
夫が「妻が夫の知らないうちに無断で夫の子を産んだから親子関係はない」
という珍しい主張をした事件の判決が出ました。

 

実は、夫と妻は仲が悪くなって別居していて離婚目前でした。

 

ところが、妻は子供がもう1人どうしても欲しかったのです。

 

妻は、まだ夫婦仲の良かった2010年に、不妊治療のために夫の精子を妻の卵子が受精したいわゆる「受精卵」を10個凍結保存していたのを思いだしました。

 

その2010年には、そのうちの1個を母親(妻)の子宮に戻して長男を産んでいました。

 

その後、夫婦関係が悪くなって別居したのですが、夫の方は凍結した残り9個の受精卵はノーマークでした。

 

そこで、妻は、子供がもう1人欲しかったのか、女の子が欲しかったのか分かりませんが、別居中に無断で残りの受精卵から1個を自分の子宮に戻して、長女を産んでしまったのです。

 

驚いたのは夫でしょう。

 

別居して離婚を目前にしていて、妻との性交渉は全くないときに
「あなたの子供です」
と言われて子供が目の前に現れたのですから。

 

そこで、夫は、無断で凍結した受精卵を使った場合には、遺伝子上は父子の関係があるとしても、法律的には父子関係はないと主張しました。

 

父子関係が認められれば、これから18年~22年の間、養育費を支払わなければなりませんし、自分の相続についても希望通りに相続させることがやりにくくなってしまいます。

 

DNA型の鑑定をすれば自分の子供と診断されるけれど、法的に自分の子供ではないから認知や養育の義務がなく、相続なども生じないと主張したのです。

 

気持ちとしては分かりますよね。

 

普通に考えれば、無断で受精卵を使った妻や、夫の同意を得ないで受精卵を移植した医師が悪いとしか思えません。

 

ただ、考えなければならないのは、生まれてくる子供には責任は全くないということです。

 

民法が体外受精の技術がない時代のものであることや、受精卵の無断移植をめぐって争いになる裁判が過去になかったことから、奈良地裁の裁判官も相当悩んだと思います。

 

裁判所の結論としては、父子関係を認める方向となりました。

 

まず、体外受精において法的な父子関係を認めるためには、移植時に夫の同意が必要だとしました。

 

もっとも、婚姻中の夫婦の場合にはさきほどご説明したとおり、夫の子と推定される規定があります。

 

裁判所は、別居はしていても、夫が妻宅を訪問していたことから、夫の子という推定は働くと判断しました。

 

この場合、夫は「嫡出否認の訴え」という訴訟を起こす必要がありますが、通常はこの訴えにより父子関係が否定されるのは父子関係がDNA型の鑑定で否定されたような場合です。

 

しかも、この「嫡出否認の訴え」というのは、夫が子供が生まれたことを知ってから1年以内にする必要があります。

 

これは、生まれてくる子供の地位を安定させようという配慮からです。

 

この事件でも、受精卵の無断移植で長女を出産したのが2015年ということですから、1年間の期限は過ぎているでしょう。

 

また、DNA型の鑑定でも父子関係は認定されてしまいます。

 

結果的に夫は法的にも自分の子供と認めざるを得なくなるということです。

 

これからは、凍結した受精卵があるときには、夫はその管理をしっかりとしておく必要があるでしょう。

 

そうでないと、「知らないうちに自分の子供が増えていた」という夫には笑えないことが起きてしまうかもしれません。

 

医学や科学技術の進歩で不思議な世界になってきているように思えますね。

 

離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 離婚のお話

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