警察が違法な捜査をすると無罪になる?

先週のサッカー日本代表がオーストラリアに勝利してロシアワールドカップ(来年6月開催)出場を決めて良かったですね。

 

昔(例えば、日産の木村和司がエースだったころ)は、アジアから1チームしか出場できなくて、いつも韓国に負けて出場できませんでした。

 

今では、当事者としてワールドカップを応援するというぜいたくに慣れてしまって、日本代表抜きでのワールドカップは考えたくない気持ちになっています。

 

ということで、来年のサッカー・ワールドカップがより楽しみになりました。

 

さて、警察が違法な捜査をやってはいけないというのは、多くの方も感覚で分かっているかと思います。

 

弁護人が警察の捜査が違法であることを主張して、無罪を主張することも最近では増えてきました。

 

でも、良く良く考えるとヘンですよね。

 

警察の違法な捜査を受けた被告人は確かに気の毒ですが、それは単に担当した警察官が悪いだけであって、被告人の罪が消えるわけではないですよね。

 

では、弁護人はどうして無罪の主張をするのでしょうか?

 

今週、9月6日(水)の大阪地裁で出た判決でも、警察の捜査の違法性が争いとなりました。

 

被告人は、大阪市内で覚せい剤を所持していて、それを自分で使用したということで逮捕され、裁判にかけられました。

 

ちなみに、覚せい剤の使用方法には、炙り、吸引、粘膜接種、注射の4パターンのいずれかがポピュラーです。

 

余り詳しく書くと怒られそうなので、省略しますが、いずれの方法でも覚せい剤の「使用」として犯罪となります。

 

今回の被告人も、危険な覚せい剤を所持して、使用していました。

 

被告人が逮捕されたきっかけは、路上での職務質問です。

 

職務質問とは、犯罪に関係ありそうな人に対して、任意に警察官が質問をするという捜査方法です。

 

警察官が被告人に対して、職務質問をしたところ、おそらく所持品を見せることを拒否したのだと思います。

 

ちなみに、職務質問は任意なので、拒否は適法です。

 

例えば、夜、自転車で走っていて警察官から質問された経験がある方もいると思いますが、これは強制ではないので例えば所持品を見せるのを拒否しても良いのですね。

 

ただ、拒否すると結構面倒くさいことになります。

 

他の警察官を呼ばれて取り囲まれたりするのです。

 

この事件でも、約10人の警察官が被告人の進路に立ちふさがって、被告人を移動しにくくした上で、逃走した被告の腕をつかむなどして引き戻しています。

 

さすがに、腕をつかんで引き戻せば「任意」とは言えないでしょう。

 

そのため、この捜査方法は違法です。

 

でも、被告人が覚せい剤を持っていたのは事実ですし、おそらく尿検査で使用していたことも科学的に証明できたのでしょう。

 

ここで、刑法ではなく、刑事訴訟法という法律が登場します。

 

刑事訴訟法というのは、犯罪を裁く手続を定めた法律です。

 

この法律を最高裁が解釈したときに、

①捜査方法に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり

②これを証拠として採用することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合

においては、その捜査で得た証拠は裁判で利用できないとしました。

 

結果的に犯罪を犯していれば、どんな違法な捜査方法をしても構わないということになると、「拷問して自白させてしまえ」という考えに結びつきます。

 

強大な権力を有する警察などの捜査機関に対しては、捜査の手続においても私達の権利が護られるようにしなければなりません。

 

そのためには、先ほどの最高裁の判例のように、私達の権利を守るための令状主義(裁判官の令状がなければ逮強制捜査ができないこと)に違反する捜査を前もって防止する必要があります。

 

そこで、最高裁は、捜査機関にとっては最も痛い結果を取ることで、違法捜査の抑制をする決断をしました。

 

つまり、捜査機関がいくら一生懸命犯罪をみつけてきても、その捜査方法に重大な違法性があれば、証拠はすべて裁判では認めないとしたのです。

 

さて、今回の職務質問は違法ですが、私達の人権を侵害するような重大な違法性があるでしょうか?

 

自分が被告人の立場に立って想像してください。

 

夜、自転車で走っていたら警察官に呼び止められて、所持品の確認を求められたときに、他人に見られたくない物を持っていたので拒否したとしましょう。

 

すると、約10人の警察官が皆さんの進路に立ちふさがって、皆さんが移動しにくくして、やむを得ず走って逃げようとしたら腕をつかんで引き戻したということです。

 

こんな場面で、所持品の開示を拒否し続けられる人は、弁護士のように法律や判例を知っている人などの少数派だと思います。

 

(私は、弁護士という立場で拒否をするのは何か気がとがめるので、逆に弁護士になってから所持品検査に素直に応じるようになりましたが)。

 

今回の事件では被告人が本当に覚せい剤を持っていたから良いのものの、持っていなかった場合には重大な人権侵害になりそうです。

 

実際には、警察は、被告人の前科など色々な情報を前提に、確信をもって所持品の開示を求めているとは思います。

 

しかし、これを良しとした場合、一体、警察の職務質問はどこまで許されるのか不明確になりそうです。

 

ここで、大阪地裁の判決は玉虫色の判断をしました。

 

つまり、捜査機関の職務質問や捜査方法は違法だけれど、「重大な」違法ではないから、そこで得た覚せい剤などの証拠は裁判の証拠として認められるとしたのです(最高裁の判例は上に書いたとおり重大な違法に限定しています)。

 

私は弁護人の立場になるからなのか、どうしても違和感を感じてしまいます。

 

「結果的に証拠さえみつければ、警察官は、合理的な理由も令状もなく、私達一般市民の腕をつかんで引き戻しても構わない」というのはちょっと怖いように思えます。

 

皆さんの感覚としてはどうでしょうか。

 

考える素材としては、興味深い判決ですね。

 

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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