遺言を捨てたり、隠したりすると相続人の資格を失うというお話をしました。
そうすると、「自分に全財産を譲る」などの有利な遺言を、「相続人どうしの話し合いができたから、もういらない」と思って捨ててしまった場合、相続人の資格を失ってしまうんでしょうか。?
結論から言うと、失いません。
平成9年に最高裁で判決が出ています。
この裁判例では、次のような事案でした。
6人いる相続人のうちの1人(「Aさん」とします。)が遺言を、被相続人(亡くなって相続される人)からあずかっていました(この事実には争いなし)。
その後、遺産の分割の話し合いが行われた際に、Aさんがあずかった遺言書の内容が問題となりました。
しかし、遺言書をあずかったはずのAさんは遺言書を、他の相続人に示すことができませんでした。
そこで、相続人の一部の人たちが、Aさんが相続人の資格を有しないとして争ったんです。
判決では、相続人の行為が「相続に関して不当な利益を目的とするものではなかったときは」「相続欠格者には当たらない」と判断しました。
つまり、Aさんが、「Aにほとんどの財産を相続させる」というような有利な遺言を捨ててしまった場合には、遺言を捨てることの認識はあっても、自分が不当な利益を得ることが目的はありません。
このような場合には、Aさんは相続権を失わないんですね。
遺言を捨てることの認識があれば、故意に遺言を捨てたといえます。
しかし、それだけでは足りなくて、「不当な利益を得る目的」が、さらに必要だとしているんですね。
このような考え方では、
① 捨てることの認識
② 不当な利益を得る目的
の二つの心理が必要となり、これを二重の故意(にじゅうのこい)と呼びます。
それまで争いはありましたが、判例は二重の故意必要説にたつことを明らかにし、実務ではそのような取り扱いとなりました。
ですから、遺言をあずかっていた人が、うっかり遺言書を紛失した場合はもちろん、自分に有利な遺言を、不要だと誤解して捨ててしまった場合にも、相続権は失わないんですね。
とはいえ、遺言はしっかり保管しておくことが大原則ですが・・・
相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。
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