どうでもいい悩みなのですが、私が自動車で神奈川や東京など関東方面に行くときに、従来の東名高速道路を使うか?新東名を使うか?で悩みます。
静岡市から上り線に乗ると、清水JCT(ジャンクション)で新東名に乗り換えられます。
これを使うと御殿場までは新東名で行けるのです。
新東名の方が道がまっすぐで、道路の舗装もきれいで幅も広いので、早くて快適ではあります。
もっとも、海の方にある旧東名高速道路の清水JCTから、山梨県に近い山の方にある新東名の新清水JCTまで、7~8kmあります。
この時間と手間をかけてまで新東名を使うか?旧東名でそのまま行くのかで悩みます。
両方の方法を何回もとっていますが、未だに結論が出ません・・・
さて、本論です。
以前、裁判所の令状なく被告の車にGPS端末を取り付けて捜査する方法が違法かどうかが争われた事件をご紹介しました。
GPSとは「全地球測位システム」、つまり、カーナビやスマートフォンのマップで自分がどこにいるか一発で分かるシステムのことです。
これを、警察が「あやしい」と思った被疑者の自動車に取り付けて、行動確認をする捜査方法には、裁判所の令状が必要でしょうか?
前回はこの事件が名古屋地方裁判所で争われている段階でご紹介しましたが、この事件について最高裁の判断が今月に出ました。
最高裁の結論としては、裁判官が捜査を許可する令状を発行しないGPS捜査方法は違法というものでした。
もちろん、強制捜査といえども裁判官が令状を発行すれば適法です。
しかし、最高裁は、実際にGPSについては、裁判官の判断で令状を発布できるとしても極めて例外的場合に限定されるとしています。
今回の事件では、2013〜14年に愛知県などで住宅や店舗に侵入し、現金などを盗んだとして窃盗罪などに問われた男性に対する捜査でした。
愛知県警は、その男性の車にGPS端末を取り付け、3カ月後に被告が気づいて取り外すまでに、1600回以上にわたって位置検索をしていました。
さて、捜査に加われず情報がほとんどない中で、GPS捜査の令状を請求された裁判官が、果たして許可の判断ができるでしょうか?
許可をする場合、裁判官は、警察がその男性の自動車での行動をどの程度の期間、どの程度の回数を検索するかを予測したり、一定の範囲に限定していかなければなりません。
令状は裁判所で裁判官たちが相談して発行するのではなく、個々の裁判官が短時間で判断して許可をするという制度になっています。
緊急性が高く、土日祝日、年末年始関係なく請求が来るため、裁判所で相談していたら時間が間に合わないからです(この詳しい内容は、今後の新しいメールマガジンでご紹介します)。
裁判官によって大幅に判断にブレが出る可能性もあり、現在の法制度では令状発布はほぼ不可能でしょう。
最高裁が傍論で緊急的で例外的な場合しか令状発布は認められないだろうとしているのも、それが理由だと思います。
例えば、歴史に残るような大量殺戮を、GPS捜査でなければ防げないとほとんどの人が思うようなケースでなければ令状発布はされないと思います。
例えば、オウム真理教の東京での大量殺戮を未然に防ぐためにGPSの捜査方法を限定的に利用する場合で、実際にある程度防ぐことができる可能性が認められれば令状は出されるのでしょう。
もっとも、個人的には、現実的にはそのような事前予測できるケースは生じないだろうと思っています。
では、どうして弁護人や検察官が令状なしでのGPS捜査方法が「違法」かどうか、こんなに激しく争うのでしょうか?
それは、「違法収集証拠排除の原則」という憲法、刑事訴訟法上の制度があるからです。
この原則は、捜査方法に重大な違法が認められた場合には、その捜査で警察や検察が手に入れた証拠の一切が裁判で証拠として認められないというものです。
そして、裁判官の令状(許可)が必要な事案で、それを受けないでした捜査は、全て「重大な違法」となるのです。
この事件で言うと、3ヶ月間、1600回に及ぶ検索結果の全ての捜査に重大な違法があったとして、全て裁判の証拠から除外されてしまうということになります。
この原則は何のためにあるのでしょうか?
警察や検察が必死に努力して捜査した結果を、重大な違法があれば全て裁判に使えないとすることで、私たち国民の権利が警察や検察という行政機関から侵害されることを防ぐためです。
しかし、これが極端な場合には、本当に犯人なのに無罪判決が出るという面もあります。
例えば、覚せい剤自己使用を裁判で審理する場合、最も有効な証拠として尿鑑定の結果があります。
被疑者の尿を鑑定すると、覚せい剤を使用している場合には、アンフェタミンなどいくつかの特徴的な成分が検出されます。
そのため、警察では覚せい剤を所持している被疑者を逮捕した場合のほとんどの場合尿検査を行います。
普通は被疑者にバケツなどを渡して、任意での尿の提出を求めます。
これは任意なので、令状は不要です。
しかし、被疑者が拒んだ場合には、強制的に採尿する必要があります。
この強制採尿という手続には、裁判官の令状が必要で、その要件は最高裁の判例で示されています。
もっとも、裁判官の令状を受けて強制採尿を行ったという事案は周囲で聞いたことがないので、極めて珍しいケースでしょう。
そこで、警察が、被疑者に鑑定の資料に使わないようなフリをして、被疑者が出した尿をこっそり鑑定の資料として使うことがあり得ます。
この場合、鑑定結果で覚せい剤の成分が検出されれば、被疑者が覚せい剤を使用したことは科学的には明らかです。
しかし、本当は令状が必要なのに、令状なしで尿をとると鑑定結果を裁判の証拠として使えないのですね(違法収集証拠排除の原則)。
そうると、裁判で被告人が覚せい剤の使用を否認したり、「覚えていない」と言ったりした場合、検察側には被告人を有罪とするだけの十分な証拠がないことになります。
この場合の裁判所の判断はどうでしょう?
「疑わしきは被告人の利益に」の憲法、刑事訴訟法上の原則にのっとって、無罪判決を下すことになるのです。
覚せい剤自己使用については、芸能人やミュージシャンが世間を騒がすこともありますよね。
そんなとき、外から見ていると、覚せい剤を使用しているとしか思えないような事案で、検察官が起訴しなかったりして釈放されることもあります。
これは、令状なしでとった証拠について、検察官が「裁判で使えないかもしれない」と判断した場合も多いと思います。
刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。