最近AIという言葉が使われるようになりました。
「人工知能」つまり、大量の情報を相当の自主性を持って処理できるコンピュータシステムですね。
一時期は、
「弁護士や公認会計士など専門職の仕事がAIに奪われて無くなる」
という噂がマスコミで流されていました。
弁護士に法律相談しなくてもAIに質問すれば答えが出てくるし、裁判でもAIが情報を入力すれば訴状など裁判に必要な書面が作成されるという意味でしょう。
確かに、このようなことが現実的に可能であれば弁護士は不要ということになりそうです。
しかし、AIは弁護士が自分で補助的に使う場合にはスーパーな力を発揮する(現時点でもgoogleはそれに近い役割をこなしています)としても、AIが主役にはなることは無いと思っています。
その理由は2つあります。
一つは、AI自体の能力の限界の問題です。
翻訳システムを例に考えてみると、無料・有料を問わず翻訳システムはインターネットが発達する初期段階から相当作り込まれてきました。
しかし、最も多い和訳・英訳においても、意図が通じる翻訳にはほど遠いのが現実です。
先日、海外の友人に手紙を英文で送ろうとした時に、試しに英訳ソフトを使ってみました。
ところが、主語や述語の関係やニュアンスが非常におかしくなってしまいます。
何となく意味は伝わるのかもしれませんが、人間のコミュニケーションでは気持ちの部分が非常に大切で、それは言葉そのものよりも、その使い方や当事者同士の関係性によって個別に考える必要があります。
手紙をもらう方も、AIによってパターン化された手紙を受け取っても嬉しくないでしょう。
弁護士の仕事も専門家といっても、事件ごとの個別性が非常に高いです。
紛争が起きた時に、金銭など経済的利益だけを追求して裁判をしていけば良い解決ができるというものではありません。
例えば、依頼者の希望が
「出来るだけ早く穏便に解決して欲しい。法廷で証言することは嫌だ」
という場合、「穏便」に解決できるかどうかは様々な要素から判断する必要があります。
例えば、依頼者の要望だけでなく、相手方との過去の歴史、相手方の性格、相手代理人弁護士のやり方、その事件の担当裁判官の方針や考え方など、法律や過去の裁判例とミックスして考えなければならないことが非常に多いのです。
人間は(私ももちろん)不合理な存在です。
AIに整理された合理的な情報では判断できないことが多すぎるので、事件ごとに細かい全ての情報をAIに入力する必要があります。
しかし、そもそも「どんな情報が重要で、どんな情報が不要なのか」の判断が最も難しいのに、それを紛争に巻き込まれて感情的に不安定な当事者の方が正確に入力するのは難しでしょう。
専門家が広い視野と感性、柔軟な判断力を鍛えていく方がよっぽど近道です。
二つ目の理由としては、相談者や依頼者にとっての安心感、納得感です。
ネットショップのように物を買うだけのことであれば好みの商品を探すのにAIは役に立ちます(もっとも、この場合ですら最後に比較して選択するのは買う人間ですが)。
しかし、自分の人生の悩みを相談する時に、AIに相談して精神的に安定するでしょうか?
専門家から
「今の状況は大変だと思います。しかし、私の経験上、この問題は必ず解決できます。」
と言われた時のホットした気持ち。
それをAIから
「過去のデータから見るとこの問題は89.98%の確率で良い方向で解決できるでしょう。」
と言われて同じ気持ちを持てるでしょうか?
また、身近なところで感じるのはSiriです。
Siriとは「iPhoneの操作を話しかけることで行うことができる機能」ですが、これを多用している人を見たことがありません。
私も使ってみましたところ、昔から劇的に言語認識能力が上がっていて驚いた反面、なんとも言えない味気なさを感じました。
「タブレットに向かって話しかける」という一方的なコミュニケーションそれ自体に抵抗があるのです。
単純に言うと「楽しくない」と感じてしまうのです。
単に、検索する作業だけでもそうなのに、自分の人生の一大事で悩んでいる時に、過去に理不尽な悩みに苦労した経験がないAIに相談して安心しできるでしょうか?
人と人とが話をして、「他の人に理解してもらえた」とホッとするのは、人類が発生して過酷な環境下で集団生活をすることで生き抜いてきたことから来る根源的なものだと思うのです。
この二つの理由でAIが少なくとも弁護士に取って代わることはないのでしょうが、逆にAIが発達すればするほど、それを使いこなせる弁護士とそうでない弁護士との差は大きく開いていくでしょう。
裁判で有利に働く法律、判例、資料の検索やその要約をAIから得られれば、弁護士がその中から適切なものを選んで、自分の知識・感性と合わせて戦略を組み立てることは非常に有益だと思います。
そういう意味では、私も常に時代の変化において行かれないように、様々な分野に関わっていきたいと思っています。
弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。