突然ですが「ノコギリガザミ」と聞いてピンと来る方はいますか?
ヒントは「漁業者が海で獲るもの」です。
私は、3年前から静岡県内の漁業協同組合(漁協)の連合会の役員を務めるようになったのですが、今一、知識が曖昧でした。
その後に調べたところ、カニの一種で、浜名湖産のものは「ドウマンガニ」と呼ばれる高いカニだと知って、やっと捕獲と食べることがつながってきました。
他にも似たような形で、法律とは違う専門分野に何カ所か関わらせていただいています。
法律論から頭を切り換えるのが大変ですが、他の専門分野の仕事に関われることで自分の視野を広げられるのは、仕事の面でも、人生の面でも有り難いことです。
さて、今回は親権者の変更について、母親から父親への変更を認めた珍しい高等裁判所の最近の決定についてお話したいと思います。
まず、事例ですが、結婚中に妻(母親)が浮気をして離婚することとなりました。
その当時の子供は4才と3才の子が二人です。
この場合、法律相談に父親が行った場合、「浮気をしても、母親としての権利は変わらないので、親権をとるのは難しい。」とアドバイスされます。
父親もそれを知ってか、協議離婚の時に、母親の主張に応じる形で子供2人の親権者を妻とすることに同意しました。
もっとも、離婚当時は妻が夜の仕事をしていて、保育園に預けて子供を育てるのが難しかったので、子供は当面の間、父親の実家で祖父母と一緒に暮らすことになりました。
その後、1年以上たっても妻が子供を引き取らなかったことから、父親は親権者変更の申立をしました。
ところが、福岡家庭裁判所八女支部は、離婚当時と子供を育てる環境について事情の変更が無いことを理由に父親の申立を認めませんでした。
そこで、父親がそれを不服として、福岡高等裁判所に判断を求めることとしました。
今までの運用の原則は、離婚の時に子供が自分の意思を言えない年齢(おおざっぱに15才未満くらい)であれば、母親が親権者とされています。
そして、離婚後に母親が病気や事故などで倒れて子供を育てられないなど、特別の事情が生じた場合に限って親権者の変更を認めています。
この事案でも、離婚後に子供たちを育てる環境は、もともと父親と祖母の所で生活していたので何も変わりません。
そうすると、母親が昼間の定職に就いたら子供たちを連れに来ることは共通の認識でしょうから、親権者の変更を認めなくても良いということになりそうです。
しかし、福岡高裁の判断は、父親への親権者の変更を認めました。
その理由は以下のとおりです。
① 子供たちが2年近く父親と祖母の下で安定した暮らしをしていたことから、その実態を重く見るべき。
② 結婚中の子供たちの夜のお風呂や寝かせつけを父親がやっていたこと。
③ 母親は、離婚後、親権者でありながら、子供たちの保育料も支払わず、保育園への行事参加にも消極的だったこと。
④ 父親には祖父母という子育てを手助けしてくれる人がいるのに対して、母親には誰も補助者がいないこと。
⑤ 離婚の時に、必ずしも母親の子供を育てる能力を検討して親権者とした訳 では無いこと。
⑥ 母親が、結婚中、子供たちが手のかかる年齢だったのにもかかわらず、男性と浮気を重ねていたことから、子供たちを育てる真剣な気持ちや適格性に疑いがあること。
つまり、福岡高裁は、離婚の時と事情が変わらなくても、子供たちが現実に育てられている環境を変えない方が、健やかな成長のために良いと考えたのだと思います。
私自信の意見としては、子供の現実の生育環境をしっかりと見て、父親に親権者を変えているので、この事案に限っては親権者変更もやむを得ないのかなと思っています。
離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。