「いい弁護士の選び方」という本を読んで

新年、おめでとうございます。

 

今年が皆様にとって良い年となることをお祈りいたします。

 

年末年始の休暇のために、読む本を買いだめしに書店に行ったところ、比較的新しい(昨年の8月出版)「いい弁護士の選び方」(発行所:株式会社翔泳社)という本があったので、購入してきました。

 

著者の大坪孝行氏は、士業コンサルティングを主要業務とする「株式会社アンサーブ(2010年設立)」の代表取締役です。

 

最近は、「士業」つまり弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・行政書士など「士」がつく職業のコンサルティングが流行っているようです。

 

「専門的知識はあるけれど、営業が下手な人が多い」という視点から、コンサルの対象として一つの職域になっているようです。

 

この本を読んで、同じ感想の部分と違和感のある部分で、皆さんの参考になりそうな事項を、いくつかピックアップしてみました。

 

【ピックアップ1~同感】

「ここ最近、インターネットやSNSの普及により、弁護士以外の一部の士業が違法と思われる広告を平然と出している事例を見かけることがあります。」

「決してそのような広告に飛びつくことはないよう、注意して下さい。」

 

これは、最近では分野として相続・離婚・交通事故が多く、無資格者や行政書士が事実上交渉まで立ち入っているケースが多いようです。

 

交渉をする場合には、交渉を有利に進めるためや、交渉がうまくいかなかった場合に備えて裁判手続の知識が必ず必要です。

 

裁判で戦って勝てない事案で、強気の請求を曲げないと大損失を招くでしょうし、逆に判決見込み額が、交渉時の請求額より明らかに多ければ、強気の交渉で良いでしょう。

 

その判断は、訴訟経験のある弁護士しかできないでしょう。

 

【ピックアップ2~違和感】

「そもそも弁護士の委員会活動とは弁護士会内の委員会活動なので、相談者の立場で言えば、正直なところあまり意味がありません。」

 

私は、「委員会活動は仕事に意味は無い」と言い切る弁護士がいたら、むしろその方が相談者にとっても良くないのではないかとと思います。

 

確かに、委員会活動は弁護士会に登録する弁護士が行う公益的活動ですから、仕事そのものとは言えないでしょうし、委員会活動ばかりやっている弁護士もいないでしょう。

 

しかし、委員会活動も弁護士が行うという以上、法的発想と無縁ではありません。

 

例えば、私が現在(2915年1月現在)所属している委員会を例に考えてみます。

 

「消費者問題委員会」では、今被害が生じている消費者問題(例えば、未公開株の購入詐欺など)の110番という電話相談や社会的に大きな問題となっている事件の集団訴訟(例えば、富士ハウス㈱の倒産により家の建築が途中で止まってしまった被害者のための調停や訴訟)などを必要に応じてやっています。

 

そして、活動の中では、同じ事務所だけでは得られない多様な消費者問題の訴訟外の交渉や訴訟のやり方、加害会社が金銭を回収できる相手なのかどうかなどについて経験を聞くことができます。

 

これは、本や事務所内だけでは得られない体験でしょう。

 

「法教育委員会」では、中学校まで行って法的な考え方を分かりやすく伝える出前授業を行っており、これは相談者の方に法的問題を分かりやすく伝える能力の向上に大いに役立っています。

 

会内のルールの文言を検討をする「会則等改正委員会」は、法律解釈の力や契約書の文言チェックの力を鍛えるのに有益です。

 

このように、委員会活動の中では、普段の仕事とは違う視点で他の事務所の弁護士と法的な議論をすることができ、新たな経験を得たり、法的発想を知ることができるのです。

 

また、委員会活動の中での雑談で、違う事務所の弁護士が興味を持っている分野の新しい判例や地裁のマイナーな判決、困った事案を解決した経験談などを広く聞けるという相互の情報交換という意味でも仕事に有益です。

 

私も全ての委員会に出席できているわけではありませんが(弁護士会には他の仕事もあるので)、出席した委員会の有益な経験は、有形・無形に将来の相談者に還元されているという実感があります。

 

著者が昔、アルバイトとして所属していた事務所の所長弁護士を例に挙げていますが、「意味が無い」とするかどうかは、その弁護士のスタンス次第です。

 

皆さんの中で社会人経験がある方なら、何でも吸収して仕事に生かそうとする人の方が、人としても社会人としても伸びますし、良い仕事もするという経験はされているのではないでしょうか。

 

【ピックアップ3~同感】

「弁護士費用が安いということは、何かしらのカラクリがあります。『弁護士費用が安い=悪い弁護士」では決してありませんが、弁護士が対応するのか事務員が対応するのか等注意点はたくさんありますので、慎重に選ばれることをお薦めいたします。」

 

その通りですね。

 

弁護士費用を、依頼者の経済的事情を考えて善意で安くしてくれる弁護士もいるため、安いから悪いとは決して言えません。

 

ただ、全ての事件を一律に安いとインターネットで宣伝するような事務所は、「安いなりの仕事」しかしないことが多いでしょう。

 

「安いなりの仕事」とは、

弁護士になりたての者を使い捨てのように採用し、安い給与でこき使うことで単価を下げているケースや

法律知識のない事務員(給与も安い)に丸投げのような形で仕事をやらせているケース

です。

 

前者の弁護士は依頼者の利益のために頑張る理由を見つけにくいですし、後者は知識も無く、法廷にも出ていけない点で依頼者にマイナスです。

 

いずれのケースでも、決して依頼者のプラスになることはなく、ボスの弁護士だけが懐に金銭を入れるためにやっていることでしょう。

 

【ピックアップ4~違和感】

知人や友人の紹介の次にお薦めなのが「ポータルサイトで探す方法」です。

 

ポータルサイトは、金銭だけ出せばどこの法律事務所の弁護士でもホームページでも紹介してくれます。

 

ポータルサイトというのは、いわば弁護士マーケティングをお金で丸投げしているにすぎません。

 

むしろ、自分で経営戦略を練れない(つまり仕事ができない)証拠になりかねないので、信用性が低いものと私は見ています。

 

なお、この著者の会社が「つなぐナビ」というポータルサイトを運営しており、上記記載の後に、「つなぐナビ」を図中で紹介していることにも着目した方が良いと思います。

 

【ピックアップ5~同感】

「事務所規模」「肩書」「マスコミ出演歴」「専門分野」の記載に騙されてはいけない。

 

確かに、事務所規模が大きかろうが、1人の事務所だろうが、弁護士の実力とは全く関係は無いでしょう。

 

実際に仕事をしてくれるのは、皆さんの目の前の弁護士だけです。

 

弁護士同士は、大まかな方針や悩んだ箇所だけを相談しあうことはあっても、基本的には1人で仕事をしていきます。

 

また、よほどの大企業の訴訟でもない限り、1人でやらないと、訴訟では特に一貫性の無い主張になって、失敗するリスクが増えると思います。

 

弁護士以外の肩書をたくさん書いてあるホームページは、それが仕事と直接の関連性が無い場合には、逆に人としての中身に不安を覚えてしまいます。

 

【ピックアップ6~同感】

「弁護士から直接連絡が来るのはいい法律事務所」

 

依頼者にとって「いい法律事務所」とは、依頼者のために親身になって頑張る弁護士がいる事務所です。

 

そのような弁護士は、簡単な日程調整や事務手続などを除き、事件の内容については必ず自分で事情聴取をします。

 

事務員が事件の内容まで連絡してくるような事務所は避けた方が良いでしょう。

 

【ピックアップ7~違和感】

「趣味」「出身地」など弁護士業務に関係なさそうな内容がホームページに記載されている事務所は避けた方が良い。

「皆さんもぜひさまざまな飲み会や趣味の場に足を運び、弁護士を探してみてください。趣味の場で出会う弁護士とは意気投合しやすいので、お薦めですよ。」

 

違和感は内容よりも、上記2つの記載が矛盾している所に強く感じました。

 

著者が本質的に言いたいことは、

「弁護士が依頼者と共通する趣味や価値観を持っていれば、雑談やコミュニケーションがとりやすく、精神的にも楽なうえに、良い仕事にもつながりやすい」

ということだと思います。

 

それ自体は当たっていると思いますが、それだけの深い趣味があれば、ホームページでそれを紹介していない方が不自然です。

 

なぜなら、依頼者は弁護士という「機械」を動かすのではなく、「人」に依頼するので、「弁護士がどういう人か」も重要な判断要素だからです。

 

私もブログで、一般に理解してもらえそうな趣味の一部についてはご紹介しています。

 

その内容がマニアックすぎたり、自慢に見えたりするのであれば自然とその弁護士に好感を持たず、相談にもいかないと思います。

 

そして、共通の趣味であればあるほど、その内容が浅いものか、深いものか判断できてしまいます。

 

そういう意味では、趣味の内容の方が、専門的な説明よりも、弁護士の人間性を計るのにごまかしのきかない部分なので、共通の趣味を持つ人ほど、内容を良く読んで人間性を判別すべきでしょう。

 

【ピックアップ8~違和感】

いい弁護士の条件の一つである「紹介が多い弁護士」は、・・・ブログを書いていない。

「そんな時間があるのは暇な弁護士だけだ。」

 

これによると、私はブログを思い切り書いていますので、「紹介が多い弁護士」ではなく、「暇な弁護士」という結論になりますね(私はFacebookもTwitterもやっていますが、著者がそちらは評価しているのもちょっと分かりません。)。

 

私も多くの弁護士と同じように忙しいと思いますし、開業したてで仕事が無い時期を除いては、「暇な弁護士」に出会ったことが無いので、上記の記載は何らかの計算に基づくものか、ただの誤解でしょう。

 

紹介案件の多さや他の弁護士・裁判所からの信頼は、ブログを書いているという表面的なことで判断できるのでしょうか?

 

私は違うと思いますが、それはこのブログを読んでいただいている閲覧者が私のブログ内容を読んでご判断いただければ良いことだと思います。

 

なお、私も、さすがにブログ記事はすべて休日に書いて保存してありますので、平日の仕事時間にブログを書いているほど「暇」ではありません。

 

以上、個別のピックアップをしましたが、全般的に言うと、この本は、個人の民事事件のみを対象にした場合には、当たっている箇所もありますが、誤解や著者の宣伝のための情報もあるという印象でした。

 

なお、文末に数人の弁護士が(おそらく「いい弁護士」という趣旨で)紹介されています。

 

これらの弁護士が著者のポータルサイトに登録されていなければ(著者にお金を払っていなければ)、その情報の公平性と著者の良心を信用できるのでしょう。

 

弁護士選びにも、色々な見方があるので、複数の情報源から判断した方が正確な判断ができそうですね。

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 弁護士の視点from静岡

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