弁護士はどこまで秘密を守るの?

先週、とても涼しい日がありましたね。

 

その後、全国ニュースでも一時期のような最高気温の話が出てこないので、静岡だけでなく全国的に恐ろしいような高温はお休みのようです。

 

このまま、涼しくなって心地よい夏から秋が長く続くと良いですね。

 

さて、弁護士には秘密を守る義務があることはご存知の方も多いと思います。

 

根拠になるのは、弁護士法という法律の他に、日弁連が定めた弁護士職務基本規程があります。

 

この規程は次のように定めています。

 

「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知りえた秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」

 

また、法律では「弁護士であった者」も守秘義務を負うことを定めているので、弁護士を辞めても依頼された事件のことは秘密にしなければいけません。

ロックされたフォルダのイラスト<designed by いらすとや>

では、秘密にしなければならない情報とはどの程度の範囲なのでしょうか?

 

この点については、先ほどの規程の解釈で色々と議論はされますが、特に依頼者の方が気になるのは

「正当な理由」で秘密を開示できるのはどのような場合なの?

という点でしょう。

 

日弁連の委員会が発行している本の解説によると大きく分けて3つの場合があると言われています。

 

まず、
① 依頼者の承諾がある場合
です。

 

当たり前のように感じますが、この承諾は「明示」でなくても「黙示」でも良いとされているので、解釈の余地が出てきます。

 

つまり、依頼者から明確に「知らせても良いですよ」という承諾をもらわなくても、通常は承諾があるだろうと推測できる場合には正当な理由があるということになるのです。

 

例えば、皆さんが市町村の無料法律相談に行かれたとします。

 

このとき、仕切られた部屋で弁護士と1対1で相談をすることが多いのですが、ここで弁護士が聞いて相談票にメモしたことは皆さんにとって重大な秘密ですよね。

 

ですから、弁護士は外でその情報を開示することはないのですが、法律相談をした市町村の担当職員に相談票を渡すことになるので、その限度では秘密を外部に出すことになります。

 

もっとも、通常は市町村の無料法律相談に行くにあたっては、担当職員がその相談票を受け取ることは想定しているはずなので、黙示の承諾があると解釈するのです。

 

結構、難しいのはニュース性が高い刑事事件で弁護人になったときに報道機関にどこまで情報を開示するかです。

テレビの中継のイラスト<designed by いらすとや>

全く何も言わないというのが安全にも思えますが、ニュースで事実と異なる印象を持たれてしまうと、被疑者や被告人のためにならない面もあります。

 

ですから、例えば、無罪を主張する方針のときに冤罪の根拠となる情報を一部開示するとか、有罪を認めている場合に被告人の反省の言葉を伝えるなどはむしろ弁護人の腕のみせどころでもあります。

 

しかし、被告人が裁判手続の中で、「否認→自白」や「自白→否認」と変わることも珍しくありません。

 

そうなってしまうと、弁護人が報道機関に伝えたことが逆に悪印象となってしまうので、そこまで予測して判断しなければなりません。

 

弁護士の仕事の能力は判断力で大きな差が出ることは以前お話したと思いますが、ここでもその判断力が求められることになります。

 

次の正当な理由としては
② 弁護士の自己防衛の必要がある場合
があげられます。

 

弁護士をしていると、相手方から攻撃を受けることはもちろん、関係者や依頼者からも攻撃を受けることがあります。

 

このとき、弁護士が自分の正当性を説明するためには、必要な限度で秘密を開示することが認められます。

 

例えば、弁護士が損害賠償請求訴訟を起こされるなどの攻撃をされた場合には、その請求に理由がないことを証明するために、依頼者から得た情報でも証拠として提出することができます。

 

弁護士自身が紛争の当事者となってしまうことは余り好ましくないことなのですが、自分の身を守るためにはやむを得ないということでしょう。

 

そして、更に
③ 公共の利益のために必要がある場合
には開示が認められます。

 

アメリカで実際にあった事件で、殺人事件の弁護をしていて、被告人から「他にも若い女性を殺して捨てた。捨てた場所は○○だ」と打ち明けられた弁護人がいました。

 

実際に弁護人が、被告人から聞いた場所へ確認しに行ったところ、遺体があったそうです。

 

しかし、その弁護人は守秘義務を徹底して守り、行方不明となっている被害者の父親から聞かれても秘密を守りました。

 

この弁護人は刑事訴追や懲戒請求をされましたが、いずれも「責任はない」とされました。

 

もっとも、世論から大きな批判を受けて廃業せざるを得なくなったとのことです。

 

これだけ弁護士の守秘義務は厳しいのですが、これはギリギリの事案でしょう。

 

日本でも、依頼者が殺人や重大な傷害を現実に犯そうとしており、これを防止する緊急性が高い場合には、警察などに情報開示しても、「正当な理由」があることになり守秘義務違反ではないとされています。

 

もっとも、民事事件でも重大な紛争の場合には本気ではなくても「殺してやりたい」という言葉をつい言ってしまう依頼者も珍しくはありません。

 

ですから、正当な理由があるかについて弁護士にも慎重な判断が必要です。

 

例えば、依頼者に強い暴力的傾向があり、具体的に殺害の準備と実行の日を決めていることを聞いてしまい、それを止めても聞こうとしないというような場合に限られるでしょう。

 

さすがにそのような場合には、その依頼者の依頼を辞任して、(推定)被害者に避難するよう連絡することは正当と判断されると思います。

 

では、詐欺などの財産犯を犯すことを聞いてしまった場合にはどうでしょう?

詐欺師のイラスト<designed by いらすとや>

過去には守秘義務が優先するので弁護士が情報を開示することは一切許されないと解釈されていました。

 

ただ、重大な経済犯罪が増えていることも最近では考慮すべきという意見もあります。

 

例えば、「株式会社てるみくらぶ」の顧問弁護士をしていたらどうでしょうか?

 

この事件は、格安旅行会社であるてるみくらぶが経営破綻を隠して、旅行代金をもらい続けて破産したため、非常に多数の人が旅行にも行けず、代金の返還も受けられなくなった事件です。

 

顧問弁護士として破産の相談を受けている最中も旅行代金を受け取り続けていた場合、当然、これをやめるように経営者に言わなければなりません。

 

しかし、弁護士が言っても会社自体が運営を継続していたら、結局、旅行に行けないのに代金を受け取り続けることになってしまいます。

 

この場合、秘密を開示することに正当な事由があるか?は難しい問題です。

 

あくまで、弁護士は民事事件として破産申立の依頼を受けただけで、捜査機関ではないからです。

 

もっとも、このようなことを会社が続けると結局は、破産手続でも紛糾して会社や代表者のためになりません。

 

強く経営者を説得して営業を止めさせるしかないでしょう。

 

それでも止めない場合には、辞任することになると思います。

 

日弁連の説明によると、財産的な被害の場合で例外的に守秘義務の解除が認められるのは、依頼者が弁護士の肩書きを利用して詐欺的行為を行おうとしていることが発覚したような場合とされています。

 

いままでご説明したとおり、弁護士の守秘義務は非常に厳しいものであり、だからこそ依頼者の方は安心して誰にも話せなかったことを相談できるのです。

 

私は、もともと子供のころから友達の秘密をバカ正直に守って、気づいたら私だけが秘密にしていたという悲しい過去も・・・

 

そのため、秘密の開示を求められたときには悩むことになりそうです。

 

一長一短ですね。

 

最後までおつきあいいただきありがとうございました。

 

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 弁護士の視点from静岡

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