スポーツの怪我と犯罪

ロシア・ワールドカップ盛り上がっていますね。

 

私も日本代表を生中継のTVを見て応援していたため、寝不足の日があったりしました。

 

前回の優勝国ドイツが敗退したように、ホスト国以外で予選リーグを突破するのは、どの国にとっても非常に難しいでしょう。

 

素直に、西野監督や選手たちを讃えたいと思います。

 

さて、スポーツといえば怪我がつきものですよね。

 

野球やサッカー、更に言えばボクシングは怪我することが前提です。

 

でも、普通は人を怪我させたら犯罪です。

 

それが故意なら傷害罪過失なら業務上過失致傷罪になるはずです。

 

野球でデッドボールで怪我をさせたり、サッカーでイエローカードやレッドカードが出るようなプレーで怪我をさせたら、少なくとも過失致傷罪になりそうです。

 

しかし、そんなことを言っていたら激しいボディコンタクトを伴うスポーツが全くできなくなってしまいます。

 

ボクシングにいたっては、それ自体犯罪として禁止されてしまいますよね。

ボクシングの試合のイラスト
<designed by いらすとや>

 

そこで、刑法35条「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」という定めがあります。

 

スポーツに伴って予測できる範囲での怪我については、この刑法35条の「正当な業務」に含まれるため違法性が無く、犯罪とはならないのです。

 

例えば、アメリカンフットボールは激しいボディコンタクトを伴うスポーツですから、プレーでの怪我はつきものでしょう。

 

そのため、ゲームの性質や歴史からみてプレーに付随して起きうる怪我であれば、その怪我が非常に重かったり、不運にも亡くなってしまっても、そのきっかけを作った選手は業務上過失致死傷罪には問われません。

 

しかし、ゲームと関係のないところでの行為で怪我をさせた場合には「正当な業務」とはいえないため刑法35条が適用されずに犯罪が成立します。

 

例えば、日大アメフト部の事件の選手は明らかにプレーが切れたところで危険なタックルをしているので、「正当な業務」とはいえません。

 

そのため、傷害罪実行犯として犯罪が成立するのです。

 

もっとも、犯罪では実行犯が一番悪いと決めつけることはできません。

 

裏に事件の計画を作っていた首謀者がいるケースも多いからです。

部下を操る上司のイラスト
<designed by いらすとや>

 

日大アメフト部の事件では多くの方がそれを理解されていると思います。

 

刑法では、この首謀者を共同正犯という罪名で処罰します。

 

ここでは、怪我をさせることを監督が指示をしていることが証明できれば、「共同正犯」として監督を傷害罪で処罰できるでしょう。

 

もっとも、検察官が証明すべき事実は「監督と選手との間で、人に怪我をさせることの意思連絡」となり、この証明は相当厳しいといえます。

 

監督本人が指示を否定している上、共謀をしているところを撮影した動画などの客観的証拠もないようでは起訴はできないと思います。

 

傷害罪のような強行犯の場合には、最も処罰しやすい実行犯=選手を逮捕して責任を追及するのが通常です。

 

そして、この事件でも選手に「自分が試合に出たいという身勝手な動機で何の罪もない他の選手に不意打ち」したという責任がるという見方もできるでしょう。

 

ただ、この選手の自白から首謀者の可能性が高いとされている監督が処罰できないのに、選手だけ処罰することは社会の納得は得られないですよね。

 

また、今後の選手が立ち直る可能性も考えなければなりません。

 

全く犯罪と関係のないスポーツから、監督や周囲の圧力で学生が突然犯罪に関わってしまったという今回の事件は、他の学生でも起こりうるものだからです。

 

そして、人格が固まっていない年齢であることやこれから判断力を鍛えることができる学生であることから、深く反省して二度とやらないことはより強く期待できるでしょう。

 

その意味では、この選手に傷害罪が成立することは間違いないのですが、不起訴などの軽い処分をして今後の社会貢献に期待するという考え方にも一理あるとは思います。

 

せっかく爽やかなスポーツですから、できるだけ怪我をさせず、怪我をしないに越したことはありません。

 

ワールドカップでも日本代表の選手たちも、怪我なく、決勝トーナメントで感動できる試合をして欲しいですね。

 

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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