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さて、昨年も多発したいわゆる「振り込め詐欺」「受け取り詐欺」「還付金詐欺」などの事件。
ある程度の預金などがあって欺されやすいターゲットとして、高齢者世帯を狙う卑劣な犯罪ですね。
方法は色々ですが、これらを警察や検察庁では「特殊詐欺事件」という総称をつけて非常に厳しい対応をしています。
最近では、金融機関のガードが堅くなっているため振込をさせることが難しくなっています。
そこで、加害者らは、直接金銭を運ばせたり、レターパックで遅らせたりする「受け取り詐欺」方式を使うようになっています。
この場合、一番、警察に捕まりやすいのは誰だと思いますか?
過去に頻発した身代金目的誘拐事件のときにも言われていましたが、お金を被害者から受け取る瞬間での逮捕が一番多いのです。
つまり、特殊詐欺事件で捕まるのは、
① 振込形式の場合には、受取人となっている口座の名義人
② 現金で受け取る形式の場合には、被害者が自宅や駅で現金を渡すときに受け取りに来る人(いわゆる「受け子」)
がほとんどということになります。
実際、私が国選弁護人の担当日に振られた事件の中で、特殊詐欺事件として15件程度経験していますが、ほとんどが①②で、首謀者に近い被疑者は1件しかありません。
首謀者たちは、何時でも切り離せるように、偽名を語り別人名義の携帯電話で受け子に指示をだしています。
結局、受け子が逮捕された時にはトカゲが尻尾を切って逃げていくように姿をくらますのです。
受け子がどうしてそんな危ない仕事を引き受けてしまうのか?と不思議に思うかもしれません。
その理由は二つです。
一つは、無職だったり、借金に追われたりしてお金に非常に困っているため、目の前の2~3万円の報酬に飛びつかざるを得ない経済状態にあること。
もう一つは、判断能力が低かったり、倫理観が薄かったりして、受け取りに行くことの違法性や重大性をほとんど理解できていないこと。
ただ何時も不思議だと思うことがあって、私は被疑者に聞いていることがあります。
「あなたは被害者から300万円を現金で受け取ったんだよね?」
「本当にお金に困っていたから、その2~3万円の報酬のためにやってしまったということだよね?」
「どうして、300万円を首謀者たちの言うままに駅のトイレに置いてきちゃったの?同じ悪いことをするのなら300万円をそのまま横取りしてしまえば1回ですんで、100回悪いことをしなくても良いはずだよね?」
ということです。
もちろん、被害者のお金ですから300万円を横取りしてはいけないのですが、もし多くの受け子が横取りするようになれば、受け取り詐欺自体が成り立たなくなるので犯罪が減ると思うのです。
結局、明確な答えが被疑者からもらえることはないのですが、私の感じたところでは、受け子の判断力が非常に低いことと、首謀者グループに対して抱いている恐怖感が横取りをさせないようにしているのでしょう。
さて、警察がこの受け子を逮捕する方法として「だまされたふり作戦」があります。
これは、首謀者の一人が被害者に電話をしたけれども、被害者自身やその親族が気がついてお金を渡す前に警察に通報した場合に行われます。
警察は、被害者に「だまされたふり」をしてもらって、警察官が被害者の親族役で同行して、被害者が受け子にお金を渡した瞬間に身分を明かして受け子を逮捕します。
受け子がお金を受け取るときに、「だまされたふり」をしている警察官は、受け子に「電話連絡をもらって必死にかき集めたお金です」という趣旨のことを言うことが多いです。
ここでは、警察官が受け子をだましていることになりますね。
どうしてそんなことを言うのかというと、受け子が後で「封筒の中味はただの書類だと思っていた」などと言って、現金をだまし取る故意が無かったと言わせないためです。
弁護人としては、警察官が受け子をだまして証拠を作っていることや、受け子は既にだまされていない人(警察に協力している被害者)から現金を受け取っているだけなので、
「そもそも詐欺(未遂)の実行行為があるのか?首謀者の影響は続いているのか?」
という点が非常に気になります。
その点を考慮して、平成28年に福岡地方裁判所は、受け子について詐欺罪の成立を否定して無罪判決を下しました。
もちろん、検察官としてはこのような判決を認めるわけにはいかないので控訴・上告しました。
その結果、福岡高等裁判所で逆転有罪判決が出され、先月、最高裁判所でも詐欺罪の成立を認める有罪判決を支持して確定しました。
福岡地裁の無罪判決から逆転有罪判決が確定したということです。
最高裁の理論は次のとおりです。
受け子の受け取り行為は、首謀者らが被害者を欺そうと計画した上で被害者に電話をかけた行為(詐欺の実行行為)と一体の行為である。
そのため、受け子が首謀者らの電話の指示を受けて受け取り行為を行うことで、首謀者らの詐欺の実行行為を受け継いでいるから、氏名不詳の首謀者らとの共犯が成立する。
ちょっと理屈っぽいですね。
より簡単に言うと、首謀者らがおこなった詐欺行為と受け取り行為は一体だから、被害者がだまされていないで受け取ったとしても、受け子は首謀者らの責任を引き継ぐということです。
これのように時間的に前の人の行為を受け継ぐ共犯関係を法律用語では「承継的共同正犯」と言います。
私個人としては、最高裁の判断には理論的に突き詰めると疑問を感じるので、きっと学説では反対意見もあるだろうとは思います。
「刑事罰を受ける範囲を、筋道立てて私たち国民に説明できるように明確にしなければならない」という憲法上の要請もあるからです。
もっとも、特殊詐欺には厳しく対処していかなければならないのも事実なので、悩むところではありますね。
刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。