先日、富山県南砺市の五箇山(ごかやま)というかやぶき屋根の建物が残っている所に行ってきました。
雪が降った後で、静岡では見られない独特の風情が感じられました。
駅の近くから山の方向を眺めると、巨大な観音像にビックリ。
寄り道とは言え、楽しんで来られました。
さて、今月の6日にNHKが私たち視聴者から強制的に受信料を徴収する制度を合憲とする最高裁判所の判決が出ました。
この訴訟はNHKが受信契約の締結を拒んだ人を相手に、受信料の支払を求めた裁判です。
TVを設置してもNHKは観ないという人にとっては、受信料の支払いは疑問に思われるでしょう。
TVを買った人の全てがNHKの放送を受け取る契約をしたいと思っているわけではないことは確かです。
日テレ・TBS・フジテレビ・テレビ朝日のような民間放送業者を観られれば良いとか、オンデマンドで好きな番組だけ観られれば良いという人も多くなっている時代でしょう。
とすると、「TVを買ってもNHKとは契約をしない」という選択をしても許されそうな気もします。
日本の憲法が契約の自由を保障している以上、本来、相手(NHK)から契約の締結を強制されることはないはずです。
ところが、放送法64条1項は、TVを買って設置した人はNHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と定めています。
そこで、この法律が私たちの憲法上の権利を害さないかが問題となりました。
具体的な条文としては、
①契約の自由(憲法13条・29条)→無理やり契約をさせられる
②知る権利(憲法21条)→契約をしないと公共放送を観ることが出来ない
という問題です。
実は、この放送法が制定される前の「無線電信法」の時代には、そもそも受信機(今でいうテレビ)を置くのに許可が必要でした。
しかし、それでは私たち国民が情報を得ることが大変になってしまいます。
そこで、無線電信法を廃止して今の放送法を制定し、NHKと民間放送を認めることとし、受信機(テレビ)の設置に許可は不要としました。
ここではNHKは公共放送ということで、政府やスポンサーの意向に左右されることがないようにしなければなりません。
そこで、監督を経営委員会という組織に任せて、その委員は両議院の同意を得て内閣総理大臣が選任するとしました。
これにより、私たち国民が選挙を通じて国会(両議院)→経営委員会を民主的にコントロールできます。
更に、民間放送のようにスポンサーから資金調達すると報道が偏ります。
そこで、NHKは、受信機を取得した人=視聴者全員と契約をして料金を徴収することとしたのです。
そうすれば、視聴者がいわばスポンサーですから、NHKは視聴者全体が望むであろう情報を公平に流すことができます。
最高裁判所はこの点に着目して、偏らない報道から私たち国民が中立な情報を得ることができるので、例えば投票の判断を適切に出来るなど健全な民主主義の発達に必要だと認めました。
但し、だからといって、「NHKが一方的に通知しただけで契約の成立まで認めて良いのか?」という問題は残ります。
契約締結の自由を保障しているのに、一法人に過ぎないNHKの通知だけで私たちとの契約が成立してしまうとなると、やはり個人の考え方の尊重(憲法13条)や私たちのお金という財産権(憲法29条)を害する恐れがあります。
実は、NHKは裁判では、上のように「TVを買った人にNHKが通知しただけで契約が成立する」と主張していました。
しかし、最高裁判所は、その考え方は採りませんでした。
逆に、料金の支払いを拒んでいた被告は、「仮に契約が成立するとしても、それは判決が確定した時だから、料金も判決が確定してから発生する」と主張しました。
でも、被告の考え方をとると、真面目にNHKの料金を支払っている人の方が損をして、裁判で争って引き延ばした人の方が料金が少なくて済むことになってしまいます。
そのため、最高裁判所は、被告の主張も採用しませんでした。
結論としては、「契約は(法律の執行としての)判決確定時に成立するが、料金はTVなどの受信機設置時に遡って発生する」としたのです。
つまり、当事者が意見を言った上で、裁判所の判決がなされなければ契約が成立しないとして、私たちの契約の自由を尊重しつつ、真面目な人が損をしないような内容としたのです。
そして、被告は「過去の受信料請求権は時効で消えた」と主張していましたが、判決では「判決により過去の全ての受信料請求権が発生し、判決確定後10年間はその請求権は時効で消えない」としてその主張も認めませんでした。
このようにして、視聴者全体の利益についてバランスをとったのです。
一見、憲法や法律だけで動いているように見える判決ですが、実は、裏では様々な利益関係の調整も考えています。
私も、そこが分かるようになって初めて法律の勉強の面白さが分かったように思えます。
頭が硬そうに見える裁判官や弁護士も、心の中では色々なことを考えているということなんですね。
いずれも、ポーカーフェイスだったり、自分の気持ちと逆の言葉を言ったりするので、なかなか理解されにくいのが難点ですが・・・
「日常生活の法律問題」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。