メール・電話で法律相談するときのご注意

だいぶ、寒くなってきましたね。

 

とはいっても、静岡では上着がいらない日もあるので、他の地域に比べれば暖かいのでしょう。

 

先日、弁護士会が主催する「弁護士倫理研修」に行ってきました。

 

これは、弁護士が定期的に受けなければならない義務のある研修です。

 

様々な世代の弁護士が講師となって、研修を受ける私たちに質問をしたりしながら弁護士倫理を考えていくというかたちでした。

 

その叩き台となった例題に、インターネットに関する問題がありました。

 

事案としては労働者残業代請求事件です。

 

A弁護士の経営する法律事務所のホームページで、メールで相談予約を受け付ける形となっていました。

 

このホームページを見たB社の従業員Cが、A弁護士に相談予約をしようと思ってメールを送りました。

 

ホームページからメールで相談予約をする場合、プラットフォームの型に入力していくことが多いですよね。

 

その例題では、Cさんは、そのプラットフォームに自分の氏名、連絡先を書くとともに、備考欄に次のようなことを書きました。

 

「B社で働いているのですが、勤務終了のタイムカードを押した後で働くように指示され、残業代を支払ってくれません。」

 

「ただ、残業時間のメモもないので、裁判で勝てるのでしょうか?」

 

確かに、Cさんとしては一番不安になっていることを書いているのでしょう。気持ちは分かります。

 

ところが、何と、このA弁護士はB社の顧問弁護士でした。

 

顧問弁護士というのは、特定の会社の相談に乗ったり、事件を引き受けたりすることを継続的に行う契約をした弁護士です。

 

B社にとっては、会社の業務や内部事情を詳しく知っている弁護士がいれば、困ったときに簡単に相談できて的確なアドバイスをもらえます。

 

いわば、その会社のお抱え弁護士みたいな感じです。

 

ところが、顧問先の秘密が漏れる危険を考えて、法律事務所のホームページに顧問先を書いているところはほとんどありません。

 

ですから、Cさんは、A弁護士が、まさか残業代を払わないB社の顧問だったとは知らなかったんですね。

 

ところが、B社は顧問先ですから、A弁護士はB社の担当者から相談を持ちかけられていました。

 

例えば
「従業員が残業代を請求しようとしています。しっかりとタイムカードで管理しているのですが、会社で管理しきれない部分を勝手に残業と主張しています。

というように。

 

さて、A弁護士はCさんの相談予約も入っていますし、顧問先のB社からも相談を受けています。

 

どうすべきでしょうか?

 

Cさんの相談予約を断って、顧問先のB社の代理人として残業代請求に対応する・・・

 

これは、弁護士倫理の点からアウトです。

 

なぜなら、A弁護士は、メールの相談予約のなかで、Cさんから「残業時間のメモもない」と証拠が弱いこと(Cさんの弱み)を聞いてしまっているからです。

 

たとえ、Cさんが勝手に書き込んでしまったものとはいえ、A弁護士はメールでの相談予約をホームページで勧誘していますし、CさんはA弁護士を信用して自分の弱みを相談しています。

 

このような場合に、Cさんの弱みを知りつつ、敵対するB社の代理人としてこの残業代請求に対応するのは不誠実といえます。

 

弁護士は、依頼者の紛争の相手に対しては事案によっては厳しい対応をしても許されますが、自分を頼ってくれた人を裏切ることは許されません

 

ですから、この事案のA弁護士の適切な対処としては、Cさんの相談は黙って断り、B社にはCさんの話はせずに「個人的に利益が相反するので」などと説明して別のD弁護士を紹介することになります。

 

もちろん、A弁護士は、紹介するD弁護士にはCさんの秘密は話しません。

 

その事件にかかわらないので、A弁護士は一生心の中に秘密として置いておくということになります。

 

このようにメールでの相談予約ですら慎重にしなければならないので、メールで相談したり、電話で簡単に相談することの危険は想像できると思います。

 

つまり、皆さんがメールや電話で相談した弁護士が、皆さんの紛争の相手からも依頼を受けたり、相談を受けたりしているかもしれないということです。

 

例題の残業代請求の場合だけでなく、離婚事件では他方配偶者が相談していたり、交通事故では事故の相手が相談していたりすることもあるでしょう。

 

「紛争の相手に自分の情報がもれるかも」と思ったらゾッとしますよね。

 

ですから、相談を受ける弁護士は、面談にあたって対立相手から依頼や相談を受けていないか神経質に調べます。

 

例えば、私の事務所でいうと、依頼者や相談者のデータはインターネットにつながないサーバーにデータベースとして保存してあります。

 

そして、相談予約を受けたときには、面談の日までにデータベースで、紛争の相手にあたる人からの相談や依頼がなかったかチェックしています。

 

お電話での相談予約をいただいたときには、データベースでのチェックのために、お話していただける範囲で主に悩まれているところをお聞きすることはあります。

 

もし、皆さんが弁護士の事務所に行くことなく、電話やメールだけで法律相談をすませたいときには、皆さんの紛争の相手が絶対に相談しない遠方の弁護士の事務所に電話・メール相談をするのが良いかもしれません。

 

法律相談を電話やメールだけですませるときの参考にしていただければ幸いです。

 

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 弁護士の視点from静岡

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