裁判員のいない裁判員制度

最近、静岡市では雨の日が増えています。

 

ちょっと気になって梅雨入り情報を調べてみました。

 

まだ、梅雨入りはしていないようです。

 

あちらこちらでツバメの巣と餌を運ぶ親ツバメの姿を見るようになっているので、あと10日くらいで梅雨入りなのでしょう。

 

梅雨は苦手ですが、その合間の晴れ上がる日は大好きなので、それを楽しみながら梅雨を乗り切りたいと思います。

 

さて、今月、5月で裁判員制度を導入して丸8年となります。

 

司法改革の目玉の一つとして導入された裁判員裁判ですが、8年の歴史を振り返ると余り良い結果は出ていないようです。

 

新聞報道をいくつか読んでみると、マイナス面の統計結果しか書かれていませんでした。

 

見出しを上げて考えてみます。

 

① 裁判官のみ審理急増 2016年の暴力団声かけ後

 

 「裁判官のみ審理」というのは、本来は裁判員が行うとされている事件でも、裁判員に身の危険が生じるような場合には裁判官3人だけで審理することが増えているということです。

 

これは、北九州市の小倉で暴力団の元組合員らが裁判所の外で待ってい て、裁判所に出入りする裁判員に「あんたらの顔は覚えとる」と声をかけて逮捕された事件が影響しているようです。

 

暴力団が関わるような事件については、審理される被告人はほぼ刑務所行きですから、本人からいきなり攻撃されることは余り考えられません。

 

もっとも、組織で動いていることから、被告人に厳しい質問をした裁判員を、組織が報復することは可能です。

 

私の感覚だと、そんなことをしたらむしろ組が潰れるほどの反撃を警察などから受けるため、実際にはやらないとは思いますが。

 

ただ、そのリスクもゼロとは言えないので、やはりある程度の覚悟を決めて自分の意思で法曹(裁判官・検察官・弁護人)になった人だけがやるべきだという判断なのでしょう。

 

次の見出しとして

 

② 増え続ける辞退 制度施行8年、長期審理敬遠か

 

 裁判員は最初は選挙人名簿から各市町村が選ぶので裁判所は関与していません。

 

その後、裁判所に呼び出されて、担当の裁判官・検察官・弁護士がいる部屋に入って質問を受けた上で、除外する人を何人か決めたあとにくじ引きで選びます。

 

では辞退というのはどういうことでしょうか?

 

これは、呼出をされる前に事前の質問票などで、自分の意見として「辞退したい」ということを書くことができ、実際に呼び出された時も頑なに固辞すれば辞退できるということです。

 

裁判所としても、「どうしても裁判には出られない」と言い続ける人は、裁判当日に来ない危険がありますし、実際に真剣に考えてくれるか疑問です。

 

ですから、辞退をみとめざるをえないのだと思います。

 

私が大学で裁判員制度について講義をしていると、学生から

「私は、こんな重大な事件について判断を下せる自信がありません。それを説明したら裁判員を辞退できるのでしょうか?」

という質問を良く受けます。

 

ただ、私たち法曹にとっては、むしろ、そういう発言をする人の方が事件を真剣に受け止めてくれているので「選びたい」という気持ちになってしまいます。

 

ですからむしろ自信満々に

「私は法律を独学でマスターして、社会経験も豊富なので、裁判官よりも良い判断を裁判員としてできる自信があります。」

と発言した方が選ばれ難い(というか絶対に除外される)と思います。

 

ただし、そんなことを言うと、

「素晴らしいですね。では、結果無価値論と行為無価値論のどちらの立場で学ばれましたか?」

「社会経験というと、お仕事以外に具体的にどのようなご経験をされましたか?」

などというコアな質問が、質問のプロから飛んでくる可能性があるので、「いいこと聞いた!」と実際にやらないようご注意を(笑)。

 

結局、辞退者が多い理由としては、裁判員裁判に対する関心が低いこと、非正規雇用が多くなり、裁判に出てくる余裕がない人が多くなったことなどがあるようです。

 

確かに、平均して平日を6日もつぶされてしまうのは、普通に働いている人にとっては嫌でしょうね。

 

それだったら、残業代が出る仕事をするか、お休みをとってノンビリしたいというのが普通だと私も思います。

 

人生経験的に見ると、裁判員として実際の刑事事件を体験しながら、事件の報道や世の中の人の考えとの大きなギャップを経験することは視野が広がる点はあるとも言えるのですが。

 

どちらを取るのかは悩ましいところですね。

 

最後の見出しとして

③ 裁判員判決、破棄率が年々高く 制度開始8年

 

 裁判員裁判は日本各地の主要な「地方裁判所」で行われています。

 

 そして、日本は一つの事件について3回審理を求めることが出来る三審制をとっており、裁判員裁判は三審の中の第1審にあたります。

 

 そのため、裁判員裁判に不服があれば、「控訴(こうそ)」と言って、上級の裁判所に再審理を求めることができます。

 

 例えば、静岡地方裁判所で行われた裁判員裁判に不服がある被告人は、東京高等裁判所に控訴ができるということです。

 

 そして、高等裁判所からは裁判員制度はなく、裁判官だけの裁判が行われます。

 

 その高等裁判所で、裁判員裁判の判決が取り消される割合が増えているということです。

 

 せっかく市民が頑張って休みをとって判決に参加したのに、高等裁判所の裁判官だけでそれを取り消してしまっては何のための裁判員制度か?という疑問も出るでしょう。

 

取り消される割合は、制度が始まったころは6%程度だったのが、昨年度では11%程度まで上がっているとのことです。

 

つまり、裁判員裁判の1割以上が取り消されているということになります。

 

もっとも、3回の審理でより慎重に判断していくという三審制の制度趣旨を考えれば、人間の判断が100%正しいとする方が違和感がありますので、1割程度の取消はむしろあって当然とも言えるでしょう。

 

施行8年で色々な問題が噴出してきています。

 

ご自分が、いつ裁判員に選ばれるか分からないので、最終的にはそれぞれが選挙を通じて、
制度に賛成する国会議員に投票するか?
反対する国会議員に投票するか?
で決めていくことになりますね。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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