静岡でもだいぶ桜が咲き始めています。
例年よりも大分開花が遅いようですが、裁判所の周りの桜が満開になるのを楽しみにしています。
さて、最近では、弁護士業界でもマニュアル本が出ています。
「〇〇マニュアル」というタイトルの本が多いので、結構売れているのでしょうね。
マニュアルの意味は広くとらえると、何かの問題がおきたときの「対処方法」という意味でしょう。
弁護士自体がトラブルに対処する業務なのに、その業務の対処方法(マニュアル)というのも、ちょっとおかしな気がします。
ただ、私も「全く役に立たない」とまでは言い切ることはできず、自分のやり方と比較する形で多少は参考にすることもあります。
例えて言うと、異性と初めてデートするときにマニュアル本を1冊確認しておけば、致命的なマナー違反を犯すリスクが減るのと同じ感じです。
ですから、当然マニュアル本で恋人や配偶者が出来ないことと同様、マニュアル本では弁護士業務を行うことはできません。
弁護士業務のマニュアル本には、典型的な事案とその処理方法が書いてあったり、便利そうな書式があったりします。
身近な例として離婚で考えてみましょう。
離婚を相談される方は感情が先に立っていて、聞き取りが大変だということが本に書いてありました。
私にとっては、弁護士に相談される方で、怒り、悲しみ、不安などの感情が弱い人はいない(過払い事件だけは例外かもしれませんが)と感じているので、別に離婚が特別に大変だとは思いません。
ただ、表面的に見ると、離婚事件では相談者の相手への感情が、言葉からも見えやすいので、そう感じるのでしょう。
その対処方法(マニュアル)として、「相談者に事前に一定の事項を書いてもらうことで相談時間を短縮する」ということが書いてありました。
例えば、
①離婚したい理由について、離婚の原因となる事項(暴力・浮気・暴言など)を列挙してチェックマークを入れさせたり、
②夫婦それぞれの収入や所有不動産などの資産を書かせて
それを見てから弁護士が相談に入るという方法です。
確かに、相談時間が一定程度短縮されるという意味では弁護士営業上のメリットがあるとは思います。
しかし、私は3つの理由で、このようなマニュアル化には賛成できません。
まず、1つ目の理由です。
それは相談者の立場に立った場合、まだ依頼するかどうかも分からない弁護士に自分や配偶者の収入、資産を全て教えることをためらう方も多いのではないかということです。
少なくとも、私が相談者の立場だったら、(弁護士の守秘義務を前提として)自分の氏名・住所・連絡先くらいまでは良いですが、弁護士の顔も見ないうちから収入や資産まで書かされることには抵抗があります。
ただ、対立する配偶者の氏名や住所は、弁護士が夫婦の両方から相談を受けてアドバイスをしないためにどうしても必要な情報です。
それを聞かない弁護士がいたら、対立相手にもアドバイスをする可能性があるので気をつけた方が良いと思います。
例えば、収入については、弁護士と面談して、
「養育費の予想額の算定に必要です」
と説明を受ければ、収入を話して良いかの判断を相談者ができます。
その段取りを弁護士の営業だけのために省略するのもどうなのかな?と思います。
次に2つめの理由です。
聞き取るべきことを先に書いてあると、弁護士はそれを見ながら、法的な問題点を説明するという相談方式になります。
つまり、依頼者の感情を伴う発言をできるだけ削って相談を受けるということです。
それによって、(弁護士営業上は)無駄な相談時間を削ろうというわけです。
このような相談方法で、相談した方がホッっとした気持ち、少しでもスッキリした気持ちを持つことが出来るでしょうか?
余りに営業上の効率性を重視すると、相談のカウンセリング機能が大きく損なわれるように思えます。
高性能ロボットのような対応をする弁護士に依頼して、自分がマニュアルの中で扱われてもOKというのであれば構わないのでしょうが・・・
そして、3つ目の理由です。
それは、マニュアルに頼りすぎると弁護士の事情聴取能力が落ちるということです。
例えば、事務所での事情聴取票に頼っていると、市町村の法律相談など外部での法律相談の時に対応できなくなります。
また、感情を伴うやりとりは、最初の相談のときだけではなく、依頼後に調停や訴訟で相手からの納得できない主張を見れば、打ち合わせのときに出てきます。
相談される方は、「依頼した後に弁護士が自分の話をどのように聞いてくれるのか」を依頼する前に見たいのではないでしょうか?
どうも弁護士業務とマニュアルというのは本質的に相容れないものだと感じてしまいます。
ひょっとしたら、昔から私がマニュアル嫌いであることも関係しているのかもしれませんが・・・
「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。