大阪市が職員に入れ墨を入れているかの調査したことが話題になったことを記憶されている方も多いかと思います。
日本では暴力団が自分の暴力を誇示するために背中一杯の入れ墨を入れていたというような歴史、社会現象があるので、入れ墨に対するイメージは相当悪いですよね。
そのため、公務員が私たち市民から見える箇所に入れ墨をしてはマズいと考えるのが多数派だと思います。
海外のサッカー選手を見ていると、有名な選手達が目立つ所にタトゥーを入れているのに驚きます(全部シールではないですよね?)が、Jリーグの日本人選手には全くいないのも、違いを良く現していると思います。
つまり、入れ墨(タトゥー)=悪というのは、人類に普遍的な価値観ではないということでしょう。
では、公務員が肩のあたりに見えないように、オシャレで入れ墨(タトゥー)を入れるというのはどうでしょうか?
市役所での仕事に直接の支障はないという面を見ればプライベートな面として自由とみることもできるでしょう。
これに対して、温泉施設などが身近になった現在では、公務員である人が肩に入れ墨をしている姿を知人や関係者に知られて、ネットで流れることもあり得ます。
このときに、市に対して市民からの批判はそれなりにあるでしょう。
さて、裁判で争われたケースでは、大阪市の職員が実際に入れ墨を入れていたということではありませんでした。
2012年に大阪市が、職員に対して入れ墨の有無の調査をした時に回答しなかった2人の職員に対して戒告という処分を行いました。
この2人の職員が、戒告処分が憲法や条例に反して違法と争ったものです。
第1審の大阪地方裁判所では「差別につながる情報の収集を禁じた市の条例に違反して違法」として処分を取り消しました。
これに対して、大阪高等裁判所では市の逆転勝訴となりました。
この問題について、今月の9日に、最高裁の判断が出ました。最高裁は、大阪高裁の判決を支持して、市の戒告処分の適法性を認めました。
まず、憲法違反との点について考えてみましょう。
職員側は、入れ墨は知られれば温泉施設への入浴拒否など差別的な扱いを受けるプライバシーに関わる重要な権利であり、憲法により保護されるとしました。
従って、憲法に反するかどうかは非情に厳しく判断すべきであり、今回の調査は憲法に反するとしました。
これに対して、大阪高裁及び最高裁は、入れ墨を入れているという情報は憲法上保護されることは認めました。
その上で、憲法に反するかどうかの判断基準は職員側が言うほど厳しくなくても良いとしたのです。
その理由を判決書に、はっきりと書いてありませんが、おそらく公務員という公共的な職務の性質上、一般企業よりも規律を重んじる必要性が高いため、市長や管理職からの命令に従う必要性が高いことにあるのだと思います。
ここからは、同じように民間企業が入れ墨調査を従業員に対してした場合にも同じように適法と判断されるかは分かりません。
企業側から言えば、採用時に入れ墨をした人が入った場合の問題を考慮して、内定を出すようにした方が安全でしょう。
次の争点として、個人情報保護条例違反の点については、条例で収集が禁じられているのは思想、身上、宗教、人種、犯罪歴など社会的差別の原因となるおそれがある個人情報に限られるとしました。
その上で、入れ墨を見せられることで不安感や威圧感を持つことは、直ちに不当な偏見によるとは言えないとして、入れ墨情報は社会的差別の原因となるものではないとしました。
入れ墨を見たときに、一般的には、余り良い印象を持たないのが日本国内の社会通念だと思います。
日本でも入れ墨(タトゥー)は、昔のように暴力団しか使わないという時代ではなく、ファッションで入れる人も増えています。
しかし、それでも企業の採用の時にそれを正直に言ったら採用されないことも多いでしょう。
これを「偏見」とみるのか、「日本においては社会通念の範囲内」とみるのか?
この点の評価によって、結論は異なりそうです。
最高裁は、後者の価値観をとったということでしょう。
学生が就職する時に、金髪は黒く染め直していくでしょうし、鼻のピアスははずして穴をふさぐでしょう。
これに対して、入れ墨は綺麗に消すことが困難という性質はあります。
若さで入れ墨を入れてしまって後悔している人まで、一生否定的に評価していくというのはどうかな?と思います。
私自身、公務員が入れ墨を入れることを決して良いこととは思いません。
ただ、個人的な趣味で入れていて、市民には絶対に見えないように注意しているのであれば、一般的な調査などせずに、個別に入れ墨が問題になったときに事情を確認しながら処分していけばよいのではないかとは思います。
問題が起きる前に、とにかく防止しようとすると、非常に窮屈な世の中になってしまい、どんどん人が萎縮して日本の国としても余り良いことには感じられないというのが私の意見です。
「憲法のお話」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。