法律相談のキモ

最近、弁護士業界で良く議論されているのが、弁護士の激増による問題です。

 

私が自分の事だけを考えれば、増えようが、減ろうが、私自身の仕事に対するスタンスもやり方も変わらないので、「どっちでも構わない。」です。

 

社会は変わっていくものですから、弁護士の数だけで仕事が変わるのではなく、様々な要素で変わっていきます。

 

それを常に把握して、分析して、「選ばれる弁護士になろう」と努力しなければならないのは、他の仕事と同じでしょう。

 

もっとも、大局的に考えた場合には、弁護士、裁判官、検察官になるためのハードルを無意味に高くしている今の制度には大きな問題があると思います。

 

今の司法試験は、私の時代と違って、誰でも受けられる試験ではなくなってしまっています。

 

① 法科大学院という「大学院」を卒業した人

又は

② 「予備試験」という択一・論文・口述の3つの法律試験に合格した人

のどちらしか、司法試験を受けられません。

 

そのため、①法科大学院では莫大な授業料などが必要で、②予備試験では「司法試験を受けるために試験を受ける」という大変さがあり、法曹への道が非常に限られた人だけにしか開かれていません。

 

正直、私のようなサラリーマンからの転向派は、今の試験制度であれば弁護士を目指せなかったでしょう(私と同じ年に弁護士になった人には高卒の人もいました)

 

この制度のせいで、誰でも受けられる司法試験であれば弁護士を目指していた人が、それを諦めているのが現状です。

 

誰でも何回でも受けられる「司法試験」に戻した方が良いのではないかとは思っています。

 

さて、今回は、法律相談について、最近、考えたことを書いてみたいと思います。

 

法律相談一番大切なことって何でしょう?

 

やはり、相談者の方が相談を受けた後に「この弁護士に相談して良かった」と思って帰れることだと思います。

 

おそらく、

① 自分の問題の解決の道が見えたとき

② 親切に相談に乗ってくれたこと自体で、ホッとしたとき

ではないかと思います。

 

とすると、弁護士側も、相談者の方にとって

① 分かりやすい説明端的な解決方法を示すこと

② 安心できる雰囲気で相談を受けること

が必要でしょう。

 

①の「分かりやすさ」というのは、弁護士によって色々と工夫していると思います。

 

私は、ホワイトボードに図を書いてご説明したり、相談者用のPCの画面のモニターを置いて、ネットの検索結果や作る文章を見ていただくなどの工夫をしています。

 

「端的な解決方法」は、やはり結論の明確さでしょう。

 

弁護士が相当程度の確信を持って最良の選択肢だと思えれば、それを示す必要があります。

 

現段階では一つの結論を出しにくいケースでは、複数の選択肢を示してメリット・デメリットをご説明したり、直面した問題へのとりあえずの対応を示す必要があると思います。

 

私が良く思うのは、相談者の方から「では、私はどうしたら良いのですか?」という質問が出るような弁護士の相談の受け方は典型的な失敗だということです。

 

皆さんも法律相談に行った時に、

「なるほど、そのように行動すれば良いんだ。」

と結論とその理由も含めて納得できたら、その弁護士の説明は的確だということです。

 

このような弁護士に依頼すれば、依頼した後にも「自分の事件が、今どうなっているか」を分かりやすく説明してくれるため、弁護士を選ぶ大きな基準となるでしょう。

 

これに対して、

「結局、何をしたら良いのか今一つ分からない」

という印象を受けたら、その弁護士の法律相談の技術か、又は法的知識に問題があると思って良いでしょう。

 

そして、弁護士が端的な解決方法を示すためには、当たり前のことですが、弁護士自身が相談者の方と直接話をしなければいけません

 

法律相談では、弁護士が相談者の方から収集しなければならない情報は、多種多様に及びます。

 

例えば、

相談者の方が何を解決して欲しいと考えているか?

相談者の方の周囲の人間関係

裁判手続になった時の証拠となりそうなものの確認

弁護士が関与した後の周囲の関係者の反応や相手弁護士の行動の予測

など様々な情報を分析して、法律と過去の経験を参考にして、弁護士は判断を示すことになります。

 

そして、このような思考は、当然ながら法律を知らないとできません。

 

例えば、印鑑と署名のある書面を証拠とする場合、その書面の筆跡が本人のものか確認する他にも、

印鑑は本当に署名した人だけのものか?

印鑑はどこに保管してあったか?

印鑑の持ち主以外に、それを持ち出せる人はいたのか?

などを聞きとる必要があります。

 

専門用語で言うと「二段の推定」と言いますが、この推定により書面が証拠とできることになるので、推定されるのかどうかを確認する必要があるのです。

 

ですから、私は事務員(呼び方は色々ありますが、弁護士以外の人)が、弁護士の相談前に事実関係を聞きとるというやり方は良くないと思っています。

 

最初から、弁護士が情報収集をしっかりと行った方が、総合的な情報収集と的確なアドバイスをできることに間違いありません。

 

もともと、定型化して、大量処理することができない性質のものなのです(一時期流行った過払金ですら、しっかり対応しようとすれば、実は同じ性質があります。)。

 

そして、込み入った事案や説明が苦手な相談者の方の話を弁護士が聞いていくことで、弁護士自身も相談者や依頼者から法的に必要な情報を上手く引き出す技術を磨くことができます。

 

現場で動かないで技術を得られる訳がなく、物の販売のように効率的に人を処しようとするやり方は、私は好きではありません。

 

次に、②相談しやすい雰囲気かどうかは、個々の相談者の方に感じてもらうしかないのですが、多くの方が共通すると思う点がいくつかあります。

 

まず、早口はダメですね。

 

ただけさえ分かりにくい内容なのに余計分からなくなってしまいます。

 

次に、専門用語を説明抜きでするのもいただけません

 

相談者の方には、知らない外国語で話されているように感じられてしまいます。

 

そして、相談者の方に十分に話す時間と余裕を持ってもらう必要があります。

 

例えば、相談者の話を途中で遮って弁護士が話し始めるとか、相談時間の中で弁護士の方が一方的に話し続けるというのは、相談者からの情報を得ようとしない点で問題があるでしょう。

 

更に、雰囲気としては表情や話し方も大切だと思います。

 

怖い顔や無表情で低い声で話されたら、相談者の方も圧迫感を感じてしまいます。

 

そういう意味では、相談しやすい雰囲気も、弁護士の人柄だけでなく、それを作る技術という面もあるのでしょうね。

 

私が新人弁護士の頃、一番苦労したのは「端的な解決方法を示すことが出来なかったこと」です。

 

裁判や交渉の経験が少なく、実務の知識も少ない上、修羅場も余り体験していないので、事件の先が読めないんですね。

 

もっとも、「若い弁護士だな」と思っても、法律相談での回答が慎重で、色々と誠実に調べてくれるような弁護士だったら、若い分フットワークが軽いので、肩書きにあぐらをかいているベテラン弁護士よりずっと良い面もあります。

 

弁護士が一番悩むのは、事件の入り口の法律相談や依頼を受けた直後に、どのような手段(交渉・訴訟で請求する法律構成・調停の種類・訴訟や調停前にやっておくことはないかなど)を選択をするのかです。

 

これを失敗すると、その後に有利に進められなくて取り返しがつかないことがあるからなんですね。

 

そのような意味で、法律相談というのは、弁護士の力量や誠実さが大きく現れる場面と言えるのです。

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 弁護士の視点from静岡

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