ネズミ講での被害者は誰?

メールマガジンの第8回を配信しました。

 

テーマは、「弁護士セカンド・オピニオン」。

 

弁護士に一旦依頼した後に、どんな場合にセカンドオピニオンを聞くべきか、そしてセカンドオピニオンを聞きに行く時には、どんなことに注意すべきかをご説明しました。

 

メールマガジンでは弁護士の方のご登録を、ご遠慮してもらっているので、今、私が感じていることをはっきりと書かせてもらいました。

 

メーリングリストへの登録は「ご挨拶とブログのご紹介」の記事の下の方のリンクからしていただければ幸いです。

 

さて、皆さん、「ネズミ講」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 

法律実務上は、「無限連鎖講(むげんれんさこう)」と呼ばれています。

 

その意味は、

「新規の会員から集めた出資金を、先に会員となった者の配当に充てることを内容とする金銭の配当組織」

ということです。

 

例えば、幹部となる人間がネズミ講を始めるために、法人(又はそれっぽい名称の組織)などを作って、1人目の会員を勧誘します。

 

最初に勧誘を受けたAさんが、100万円の出資をした場合、AさんがBさんとCさんの二人を勧誘して会員にさせます。

 

そして、Bさん、Cさん2人の出資した200万円のうち、例えば50万円をAさんへの配当に充てて、残りの150万円を組織の幹部たちがもらうことにする訳です。

 

Aさんにしてみれば、年間2人勧誘するだけで、元本に対して50%の配当が得られるのですから、勧誘する気持ちは強いです。

 

幹部は、最初に数十人のメンバーを集めるだけで、何もせずして、数千万円の利益があがるのですから当然組織の拡大を図ります。

 

そして、Bさん、Cさんも、それぞれ会員を集めれば、出資した以上の配当を得られるのですから、頑張って会員を集めるという寸法です。

 

しかし、そんなに多くの人が、このシステムを信用するわけがありません。

 

また、数学的・統計的に計算しても、各親会員(Aさん)が子会員(Bさん・Cさん)を二人集めるとした場合、28番目の会員が加入する時点で日本の全人口では会員が足りなくなる計算になるということです。

 

ここに、「消費者投資被害」と言われる違法な面が現れるんですね。

 

最初から破綻が目に見えている出資方式で、幹部最初の頃に出資した人しか儲からないことが明確なのに、それを隠して出資を募るのは詐欺的手法です。

 

このため、ネズミ講は日本では禁止され、「公序良俗公の秩序・善良な風俗)に反する」として無効とされているんですね。

 

従って、出資した人は、その出資自体無効ですから、何時でも出資金の返還請求ができます

 

ところが、ここで一つ問題が生じてきます。

 

ネズミ講は必ず破綻するため、破産管財人がネズミ講の代表者(幹部)に代わって清算をすることが良くあります。

 

その時、破産管財人は代表者(幹部)に代わって、先に出資した人に対して、配当として利益を受けた分を返還請求できるかという問題です。

 

民法は、不法原因給付ふほうげんいんきゅうふ)と言って、自ら違法な行為を行った者は、その違法を理由に自分の権利を主張して金銭等の返還請求ができないことを定めています。

 

例えば、妻子を持つ男性が、愛人関係を続けることを条件に愛人にマンションを買ってあげたとしましょう。

 

その後、愛人が心変わりして愛人関係を拒否したとしても、その男性は、マンションの返還請求をすることができないというものです。

 

愛人関係自体が、一夫一婦制をとる日本においては公序良俗に反して無効です。

 

ですから、愛人関係継続を条件とする契約は無効であり、本来男性は愛人にマンションの返還を請求できても良さそうです。

 

しかし、みずから愛人関係の継続を条件とする違法契約をしておきながら、愛人に振られたら、その違法性を主張してマンションの返還請求をするのは、どこかおかしな気がします。

 

そこで、民法ではこのような男性の愛人へのマンションを買い与えることを、不法原因給付として、男性は愛人にマンションの返還を請求できないと定めたんですね。

 

これは、クリーンハンズ(きれいな手)の原則と言って、法律上の権利を主張する者は、自らの手がきれいな者に限られるという考え方がベースにあります。

 

そうすると、ネズミ講でも破産管財人は代表者(幹部)の代わりですから、同じことが言えそうです。

 

つまり、自ら「利益が出る」と言ってネズミ講の勧誘を行った代表者=破産管財人が、破産した途端、利益を得ていた会員から、その利益を不当な利得だとして返還請求するのは、クリーンハンズの原則反するのではないかということです。

 

実際、平成23年2月に破産が決定したネズミ講の事件では、東京地方裁判所・東京高等裁判所の判決では、その考え方を支持しました。

 

つまり、ネズミ講破産管財人が、早期会員で配当を受けて利益を受けていた人に、その利益の返還請求をしたところ、これを認めなかったんですね。

 

そこで、破産管財人が、最高裁判所まで争ったところ、最高裁は平成26年の判決で結論をひっくり返したという訳です。

 

最高裁の考えは、次のとおりです。

 

破産管財人は、早期に会員になって勝ち逃げした少数の会員の利益を回収して、大きな損失を被った大多数の会員に配当をしようとする目的で、早期会員に利益の返還を求めるものです。

 

それにも関わらず、勝ち逃げした早期会員だけが、大多数の損をした会員の犠牲の下に不当な利益を保持し続けることは信義則許されないとしたんですね。

 

非常に常識的な見解であり、私も破産管財人になったら、同じような行動をとるでしょうから、この最高裁の判例には賛成です。

 

もっとも、皆さんにおかれては、ネズミ講は早期に破綻するシステムであることを事前にご理解いただき、友人からの勧誘であっても出資しないことをお勧めします。

 

消費者被害の一般的なご説明についてはこちら

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カテゴリー: 消費者の被害

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