今年の司法試験で問題漏えいが話題になっていますね。
「司法試験」というのは、法曹と呼ばれる裁判官・検察官・弁護士になるための試験です。
どの仕事につくにせよ全員同じ試験を受けて、同じ実務研修を受けてから、それぞれの道に進むわけです。
そして、万が一ですが皆さんが訴訟に巻き込まれて判決を受ける場合には、その判決を決めるのは裁判官です。
仮に、自分の親や子供が交通事故を起こした時に、正式な裁判を求める請求(起訴)するかどうかを決めるのは検察官です。
さらに、みなさんが離婚、相続、交通事故、借金の問題や刑事事件の弁護を依頼したいときに頼るのは弁護士です。
そういう意味では、皆さんの人生を左右することもある実務家を決めるフィルターが司法試験ということになります。
ですから、司法試験は法律実務家の能力を計かるだけの一定の水準を保った試験でなければいけませんし、公正に行われなければなりませんよね。
私が受験していた頃とは変わって、2004年4月から、大学を卒業した後で、「大学院の2〜3年で法律学習に偏らない教育をやる」という目的をもって法科大学院制度が作られました。
つまり、大学の後にさらに法科大学院に入って卒業することが主流で、もしそれを回避したければ、別の「予備試験」という試験を通過する必要があるという制度設計です。
そのため、司法試験や法曹実務家への道における「法科大学院」は、裁判官・検察官・弁護士になるには避けては通れないものとなっています。
今回、問題となったのも、その法科大学院の教授の問題漏えいです。
つまり、「考査委員」と呼ばれる試験問題を作成し、採点する委員が、試験問題を、自分が教えている明治大学法科大学院の受験生に漏らしていたということです。
漏らしたのは、憲法の分野ではそれなりに有名な学者です。
実は、司法試験の問題の漏えいは、今回が初めてではありません。
この事件の前にも、別の法科大学院の教授が試験問題と類似した問題を自分の大学の法科大学院で教えていたということがありました。
しかもこの問題が難問だったため事前に教わることが相当優位に働いたということでより受験生の間で不公平感があったようです。
どうして、このようなことが起きるのでしょうか?
それは、各法科大学院にとって、司法試験の合格者数や合格率が生命線だからだと思います。
法科大学院の費用が高額なことや試験に人生がかかっていることから、学生にとって「どの法科大学院に入るか」の選択はシビアな問題です。
法律科目で高得点をたたき出せる学生ほど、合格者をたくさん出していたり、合格率が高い法科大学院を目指すのが自然です。
法律解釈の理解というのは、一人で唸って考えているよりも、できるだけ高いレベルの人同士で議論をすることが有意義だという特徴もあるからです。
「議論」といっても喧嘩ではなく、法的な自分の考え方をお互いに示しながら話をして、お互いの思い込みや誤解を発見して、より理解を深めることです。
そのため、有益な議論や意見交換ができる法科大学院にみんな行きたいんですね。
そうすると、その結果、その法科大学院は合格者や合格率を伸ばし、更に多くの学生が受験申し込みに殺到するという良い流れができるわけです。
その逆になったらどうでしょう?
合格者数や合格率が落ちてきて、受験倍率が1を下回るようになって、更にレベルが下がるという悪循環になっていきます。
そして、文部科学省は、司法試験の合格者数や合格率を勘案して、優良な法科大学院には補助金を多く、そうでない法科大学院には少なく配分しています。
司法試験の合格数、合格率が低いため補助金が少なくなった法科大学院は学費を上げてカバーするしかありません。
しかし、「レベルが低い」と学生から評価されている法科大学院で学費を上げたら、どの学生も受験しなくなってしまいます。
その結果、一定の水準の学生を入学させられずに「定員割れ」を起こしている法科大学院もあります。
そして、その末路は、廃校となりかねません。
実際に今でも、廃校する法科大学院は増えてきています。
先ほど、ご説明したとおり学生も法科大学院を選んでいきますので、今回の問題漏えい教授にも、明治大学法科大学院経営の焦りが動機の一つにあることは間違いないと思います。
そうすると、皆さん、司法試験の合格率が自分の仕事の行く末に直結する法科大学院の教授が、司法試験の問題を作成したり、採点したりすることに違和感を感じませんか?
私は、試験としての公正さを私たち国民に示してもらうためには、法科大学院の教授は、司法試験にはノータッチにするのも一つの方法かとは思います。
もっとも、問題を起こしているのはごく一部の法科大学院の教授であり、法科大学院の教授が(司法研修所の教官を除いて)最も法曹養成教育に詳しいので、他で替えが聞くのか、という問題も抱えています。
今後の制度としての検討課題ですね。
「時事とトピック」のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。