大学の講義の準備のために、「検察官の役割を学生に分かりやすく説明できるかな」と思い、先週、木村拓哉主演の「HERO」を見てみました。
結論としては、「全く使えない・・・」です。
親告罪の被害者に、告訴の取消状の提出も確認せずに、気前よく200万円も示談金を支払う「敏腕」弁護士。
相手弁護士の「これはディベートでしょう」との言葉にカチンときて腹を立て、
強制わいせつ罪(チカン・自白事件)の証拠確保のために、所轄の警察官を総動員して街中の防犯ビデオの大規模な洗い直しを命ずる検察官。
せっかく、検察官の仕事の難しさ、厳しさ、それを乗り越えて初めて分かる面白さを感覚的にでも学生に伝えたかったのに残念です。
ひょっとしたら、弁護士以上に、検察官の方がドラマを見て「あり得ない!」と言っているかもしれませんね。
さて、前回のお話の続きです。
最高裁第1小法廷の5人の裁判官の前職と本判決に対する判断は、以下のとおりでした。
・白木裁判長~裁判官出身 → 東京高裁は○・本判決は×
・金築裁判官~裁判官出身 → 東京高裁は○・本判決は×
・櫻井裁判官~労働省(現厚生労働省)出身 → 東京高裁は×・本判決は○
・横田裁判官~検察官出身 → 東京高裁は×・本判決は○
・山浦裁判官~弁護士出身 → 東京高裁は×・本判決は○
あれ?
裁判官経験がある裁判官は全て、実の父親と子の父子関係を認めるべきだとしていますね。
反対に、裁判官経験の無い3人全員は、今回の最高裁判決に賛成しています。
そうすると「裁判官は四角四面」という批判はあたらなそうです。
これはどうしてなのでしょうか?
ここで全国のお父さんたちにお聞きします。
結婚している最中に妻から生まれた子どもと自分との間に、血のつながりがあるか確認するためにDNA型鑑定をされたお父さんはいますか?
少なくとも、9割以上のお父さんは「・・・普通しないでしょ。」というご回答なのではないでしょうか。
私も、それが常識的なことだと思いますし、それを定めたのが、まさに民法の「嫡出推定(ちゃくしゅつ・すいてい)」という規定なんです。
ですから、大まかな言い方ですが、結婚中に生まれた子は、父親の子と推定され、簡単には、ひっくり返せないようになっているんです。
でも、よくよく考えると、真実の父子関係を、神様以外に知っている人がいるとすれば、それは母親のみなんですね・・・
そうすると、お父さんがいくらがんばって何年も子育てをしてきて
「今、何を言われようと、生みの親より育ての親だ!」
と言う自信があったとします。
ても、東京高裁の理屈だと10万円もしないDNA型鑑定で、誰でも、お父さんと子どもが積み上げてきた親子関係をひっくり返すことができることになります。
そう考えると、東京高裁の判決にも問題がありそうです。
今まで、夫婦間の間の子でも、父子関係が否定された例は、
①長期の海外渡航や夫が刑務所に入っているなどで、父の子が生まれようが無いケース
②既に夫婦関係が破綻して別居していて交流が全くない間に子が生まれたケース
などです。
これなら、父親の方でも「俺の子じゃないな・・・」とほぼ分かっていますから問題ありません。
でも、この理屈をDNA型の鑑定のケースにまで広げてしまうと、父親にとっては恐ろしい世界が来そうです。
私は、最高裁の裁判官の意見が分かれたのは以下の理由なのではないかと推測しています。
① 裁判所の最も大切な役割である個別の事件についての妥当な解決を考慮した裁判官と
② 最高裁判例の国民生活に及ぼす重みを考慮した法律関係実務家
の感覚の違いなのではないかと思います。
つまり、裁判官出身者は、「この事件を最も妥当に解決するには、法解釈をどのようにすべきか」を重視して、東京高裁と同じ判断をしたのだと思います。
そして、もし、この判決が当てはまらないような事案であれば、また最高裁まで争って変更することも可能だということも考えたのだと思います。
反対に、弁護士を含め、検察官や行政実務家は、最高裁の判決が出た後の法律実務と私たち国民に及ぼす影響を痛いほど知っています。
一旦、最高裁の判決が出ようものなら、法律実務家は、法律改正と同じ感覚で常にそれを引用してくることになります。
例えば、最近では、「払いすぎた利息を返還すべき(過払金請求)」という最高裁の判決が出ました。
その影響で、たった2~3年で、日本全国の小さな消費者金融会社が軒並み潰れて、武富士・アイフル・クレディアなど大手の会社までが、倒産状態に追い込まれています。
「過払金ビジネス」という言葉まで、実務家の間では言われていました。
そして、「最高裁まで争って判例変更する」と言っても、それには膨大な時間・お金・エネルギーが必要です。
そうなる前に、あきらめて泣く人が何人いるか分かりません。
そう考えると、私は、今回の問題は、単に法解釈をいじって解決してしまうことは賛成できません。
また、Cさん(子)の親権者はB(元妻)さんなのですから、Cさん(子)とDさん(実の父)とを養子縁組させて、共同親権をとることもできます。
最高裁の判決でAさん(元夫)の父親の地位が認められたとしても、Aさん(元夫)は、決してCさん(子)を連れ戻すことはできないのです。
Aさん(元夫)のできることと言えば、せいぜい、多くて月に1回程度、Cさん(子)と面会ができる程度です。
これに対して、Dさん(実の父)としては、Cさん(子)が社会人になるか成人した折に、自らDNA型鑑定の結果を見せて
「最高裁まで争ったけど、戸籍上は養子にされてしまった。でも、間違い無く、お前は俺の実の子だ。」
と説明するという方法もあります。
まあ、
Bさん(元妻)とDさん(実の父)が、Aさん(元夫)の単身赴任中に隠れて不貞行為を行っていたことや、
Cさん(子)が生まれてからも1年以上もAさん(元夫)に、Aさんの実子ではない可能性を隠して養育させていたこと
を考えると、それくらいの負担を負わせても良さそうにも思えます。
可愛そうなのは、親の都合で振り回される子供Cさんですね。
結局は、
① DNA型鑑定の裁判における取り扱い
② 嫡出推定という制度の見直し
③ 親子関係について複数の訴えの形式が法律で定められていることの整理
など民法全般の改正を検討していくべきで、解釈で解決を図る問題ではないと思います。
その意味で、私は、今回の最高裁の判断に同感しています。