「弁護士の日常は、他の人にとっては非日常」
これは、よく痛感します。
刑事事件で、被疑者やその親族から弁護人になってほしいとの依頼があると、まずは警察署に面会に行きます。
これを法律用語で「接見(せっけん)」と言います。
事件を特定できないようにちょっと変えて、エピソードをひとつお話したいと思います。
ある日、他県にお住まいの被疑者のお父さんから、一人暮らしをしている息子が覚せい剤の使用で逮捕・勾留されてしまったので、急いで面会に行って、弁護人になって欲しいと依頼されました。
「覚せい剤ね~はい、はい。」
と軽い気持ちで接見にいきました。
覚せい剤の使用ははもちろん悪い行為ですが、人を傷つけたり死なせたりしていないし、初犯のようなので、
「簡単な事件の部類だな」
と勝手に予測して接見にいきました。
接見をすると、その息子さんである被疑者(仮にS君としましょう。)が泣きながら言います。
「ネコたちが死んじゃう、死んじゃう!」
よく聞くと、そのS君、ネコのブリーダーをやっていて、一人暮らしの一軒家には成猫から子猫まで20匹以上が放置されているとのこと。
私が連絡をもらったのは逮捕されてから3日目ですから、少なくとも、ネコたちはエサも、水もなしで3日間放置です。
しかも、そのうちの1匹は妊娠中ですぐにでも子供が生まれる予定とのこと。
思わずネコの死骸の山を想像して、寒気が走りました。
しかも、そのネコがいる一軒家は私の事務所から相当遠距離にあり、すぐに行ける場所ではありません。
気をおちつかせて、誰か頼れる人はいないか、動物病院はどこにかかっているかなどを確認します。
家の鍵は開いたままになっているとのことだったので、すぐに近所にいる友人の電話番号を聞き出して、連絡して直行してもらうようにしました。
そのご友人から、「ネコたちは無事です。」とのうれしいお知らせがすぐにありました。
今後の、水と餌やりもしてくれるとのこと。
妊娠しているネコについては、かかりつけの動物病院に連絡しましたが、産気づくまでは預かることはできないとのことでした。
そこで、S君が普段から親しくしているペットショップに連絡してみたところ、そちらであずかってくれるとのこと。
S君の日頃のネコへの愛情を、ご友人もペットショップの方も理解して、ボランティアでネコの救出作戦に協力してもらいました。
私も検察官に事情を説明して、S君の早期の身柄解放を要請しました。
刑事事件なのに、一致団結して、ネコの救出作戦を行っている感覚でした。
私は、ネコやイヌが大好きなので、非常にやりがいのある事件でした。
ただ、初犯の覚せい剤自己使用=簡単な事件という図式になれすぎていたのは大きな反省材料です。
前回も書きましたが、事件は人間が起こしたものなので、一人一人の人間が違うように、事件も1件1件が違います。
「十分な心構えを持って事件にあたらないといけないな」
と私の足下で惰眠をむさぼる愛犬を見ながら思ったのでした。
刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。