先日、お盆休みを利用して、アコースティックギターを買ってきました。
30年使っていたモーリスギターが半分壊れかかってしまったので、思い切って買い替えることにしました。
水道橋、渋谷と大学時代からの音楽仲間につきあってもらって、ギターを弾き回りました。
結局購入したのは、「Breedlove」というメーカーで、ハンドメイドを大切にしているギターです。
MartinやGibson、Guild、Taylorなど色々なメーカーを弾いたのですが、このギターが一番弾き手を気持ちよくさせてくれました。感覚だけで選んだ1本です。
値段の方も、在庫期間中が長く、一部「たわみ」もあるということで、半額近くになっていたのも魅力でした。
これから休日などに練習して、錆び付いた腕を磨こうと思います。
さて、今回は刑事事件のお話の前半です。
平成21年6月、ある人が、お金を手に入れようとして「駅の自動発券機の釣り銭を盗めないか」と考えました。
その人は、東京の新橋駅で、ペーパーセメントという接着剤を自動発券機の釣り銭返却口の中に塗って、釣り銭がくっつくようにして、これを回収して盗もうとしました。
ところが、接着剤を塗ったところで、実際に釣り銭を盗む前に駅員にみつかってしまい捕まってしまいました。
これって、犯罪になるのでしょうか。
JR東日本の業務を妨害する業務妨害罪になることについては、裁判例上では問題なく認められました。
では、窃盗罪についてはどうでしょうか。
実際に、金銭を盗んではいないのですから、窃盗罪になることはありません。
ただ、金銭を盗もうとする行為をしたことで、窃盗未遂罪にならないかが問題となるんですね。
例えば、心の中でいくらお金持ちの人のお金を盗みたいと考えたとしても、それだけで罪になることはありません。
窃盗未遂罪となるためには、物品などの財物が盗まれる現実的な危険性が発生しなければならないんですね。
そうでなければ、処罰範囲が広くなりすぎて、私たち国民の思想信条の自由や表現の自由が不当に制限されかねません。
では、先ほどの接着剤を、駅の自動発券機の返却口に塗りつける行為は、釣り銭を盗む現実的危険性のある行為と言えるのでしょうか。
この事件で、東京簡易裁判所では、窃盗未遂罪の成立を否定しました。
ここでは、窃盗罪の実行が始まったと言えるためには、他人の財産の占有侵害に向かって、犯人のコントロール下にある一連の行為がなければいけないとしました。
ところが、本件の行為では、客による券売機の利用という、被告人(刑事裁判にかけらた人)のコントロールの及ばない行為が間に入っています。
つまり、お客さんが釣り銭が少ないことに気がついてしまえば、すぐに駅員に言うでしょうから、被告人は釣り銭を取得することはできなくなってしまいます。
とすれば、接着剤を塗っただけでは、釣り銭を取得するまでの一連の行為が開始されたとは言えず、釣り銭取得の現実的危険性も無いという判断です。
これに対して、平成22年の東京高等裁判所では、簡易裁判所の判断を否定して、窃盗未遂罪の成立を認めました。
東京高裁では、窃盗行為の始まりは、窃盗行為そのものが開始される必要はなく、これに密接な行為であって、既遂に至る客観的危険性が発生すれば足りるとしました。
そして、本件においては、被告人の接着剤塗布行為は、釣り銭を取得するためには、もっとも重要かつ必要不可欠な行為であり、釣り銭の取得に密接に結びついた行為だとしました。
実際に、接着剤を塗ったら、釣り銭がくっつくかについては、警察の報告書があり、実験では25回のうち22回はいずれかの金銭がくっついたようです。
そうすると、乗降客が非常に多い新橋駅で、釣り銭がくっついて、急いでいる乗客がそれに気がつかないことも相当の高確率で生じると言えます。
そこで、東京高裁としては、接着剤を塗るだけで、被告人が釣り銭を取得する現実的な危険性が生じていると判断したんだと思います。
被告人はこのような窃盗の手口を知人から教わったようで、東京など大都市では結構多く行われているのかもしれません。
駅員の方も定期的にチェックをしているようです。
この東京高裁の判決は、そのような行為について正面から論じて、窃盗未遂を認めたものとして、実務の参考になると思います。
刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。