先週20日の金曜日、秋田県鹿角市の「八幡平クマ牧場」で、オリからヒグマ6頭が逃げ出しました。
従業員らがエサやりをしていた時に、塀を乗り越えて逃げ出したヒグマが襲いかかり、女性従業員2人が死亡してしまいました。
不幸な事故です。
この場合誰が、どのような責任を問われるのでしょうか。
まず、刑法は人にしか適用されませんから、クマを裁くことはできません。
そうすると、クマを監督していた人を処罰するしかありません。
この場合、直接クマの面倒をみていた女性従業員が死亡しているので、その牧場を経営していた代表者に責任はないのでしょうか。
代表者はクマ牧場を経営して、従業員を使用してクマの飼育をしていますから、業務上の安全を図る義務があると思います。
そこで、業務上、クマの飼育の設備などについて不備な点があったことによって、人を死亡させてしまったのではないかが問題になります。
つまり、代表者(経営者)に業務上過失致死罪が成立するかが問題となります。
今回、クマは、塀の中の運動場の角にできた雪山から塀をよじのぼって脱走した可能性があるそうです。
このケースだと、まず、経営者が、①運動場の角に大きな雪山ができること、及び②雪山をからクマが塀をよじ登る可能性を予測できたか(予見可能性)が大きな問題となるでしょう。
経営者は、ほとんどクマ牧場には来ないので、①雪山が出来ていたことは知らなかったようです。
とはいえ、大雪が降る地域ですし、従業員を通じて管理状況を確認することはできたでしょうから、雪山が出来そうなことは認識可能だと思います。
また、②クマがよじ登る可能性については、どうでしょう。
塀の高さは4.5m、雪山の高さは3.3mとの報道なので、その差の高さは1.2mしかありません。
ヒグマの身長が立ち上がると約2mあることを考えると、3.3m程度の雪山ができることを予測できれば、クマの脱走も通常は予測できるでしょう。
また、ヒグマを飼育して、その生育状態を把握している経営者は、3.3mの雪山ができれば塀を乗り越えて脱走することは十分予測できたと言えるでしょう。
また、従業員に指示するなどして、雪山を崩すなどの安全管理をしっかりすることでクマが逃げないようにできたか(結果回避可能性)も業務上過失致死の成立の要件となります。
たまたま大雪が降った翌日で、雪崩しもする暇がなかったというのであれば、結果を回避できなかったとして、経営者の責任は否定される方向になります。
逆に、何日も雪山を放置していたのであれば、いくらでも雪山を崩す機会はあったのですから、結果回避可能性はあったとして、経営者の責任を認める方向になります。
以上に対しては、経営者側としては、「従業員がヒグマが登れるような雪山を崩さずに放置しておくことまでは予測できなかった」と主張することが考えられます。
しかし、経営者には、そもそも従業員がそのような過失を犯さないように管理監督する義務がありますから、その主張は認められないと思います。
ヒグマは危険な動物ですから、これを飼育している経営者にも、安全体制の実現のために、高度の注意義務があると言えます。
従って、業務上過失致死罪の責任が認められる可能性も十分あると思います。
なお、逃げ出したクマは地元の猟友会によって射殺されました。
本来、他人のクマを射殺することは、器物損壊罪と同様に動物傷害(殺害)罪として刑法の規定に反します。
でも、クマを放置しておくと、人の命に関わりますから、正当な行為として違法性が無く、処罰されないんですね。
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