弁護士って「先生」なの?

以前、仲の良い友人に言われたことがあります。

 

「学校の教師が「先生」と呼ばれるのは、生徒を教え導く立場という意味でわかる。」

 

「でも、なんで弁護士が「先生」って呼ばれるんだ?専門的知識を売りにして仕事をする人はいくらでもいるのに。」

 

その時は、深く考えずに、「俺は「谷川さん」で十分だけどね。」と答えました。

 

でも、その疑問は、その後も私の頭にこびりついていて、色々と考えてみました。

 

まず、弁護士になるためには、「司法試験」という試験に合格しなければなりません。

 

合格すると「司法研修所」というところに入って、試験勉強での法律と実務との架け橋のような勉強をします。

 

その中で、私たち生徒(司法修習生と呼びます。)は、裁判官になるのか、検察官になるのか、弁護士になるのかを選びます。

 

ですから、弁護士も、裁判官も、検察官法曹という一つのグループで呼ばれたりします。

 

ところが、その中で、弁護士だけが実務に出ると「先生」という称号がつきます。

 

たとえば、法曹で懇親会をする時には、裁判官は名前で「○○さん」と呼びますし、検事も「○○さん」、余り親しくない場合には「○○検事」と呼びます。

 

ところが、弁護士だけは、修習の同期やよほど仲の良い間柄でないと、他の法曹からも、依頼者の方からも「先生」と呼ばれることが多いんです。

 

なんか不思議ですよね。

 

そこで、まず弁護士に「先生」をつけるメリットを考えてみました。

 

第一に、弁護士として実感しているメリットは、弁護士同士で交渉や訴訟を行う時に、相手弁護士の立場を尊重している姿勢を出せることです。

 

紛争の代理人になるのですから、「○○さん」では友達みたいですし、「あなた」では、対決姿勢が強くなりすぎるような気がします。

 

そこで、一定の距離と尊重を持ちながら、年齢・経験の区別なく相手弁護士と対等に接するという意味では、弁護士にとって「先生」という言葉は、結構便利なんですね。

 

次に、弁護士や他の法曹として感じられるメリットとしては、「弁護士の名前を忘れた時に便利」ということがあります。

 

たとえば、皆さんが、総合病院で診察を受けた時に、壁にかかっている名札をしっかりチェックして医師の名前を覚えているでしょうか。

 

私なんか覚えていないので、とりあえず医師を「先生」と呼べるのはとっても便利です。

 

弁護士同士でも、裁判官や検察官が弁護士に接する場合でも、「あっ!顔は見たことはあるけど、名前が・・・」という場合、「先生」と呼んでおけば、ノープロブレムで仕事を進めていくことができます。

 

三つ目のメリットは、弁護士以外の人にとってのメリットですが、弁護士をおだてて、交渉をうまく持っていく手段として使えるということです。

 

消費者金融業者やクレジット会社などと交渉をする時には、「先生」という言葉を耳にタコができるくらい連呼されています。

 

一見低姿勢にしておいて、弁護士の自尊心をくすぐって、自分たちの土俵に引きずり込む言葉として、対応する弁護士によっては有用かもしれません。

 

四つ目のメリットも、弁護士以外の人にとってのものです。

 

たとえば、依頼者の方などが、高度な知識を有する専門家として、自分を助けてくれる弁護士に敬意を持って、その気持ちを伝えられることです。

 

では、逆に弁護士に「先生」をつけるデメリットはどうでしょうか。

 

メリットの裏側になると思うのですが、次の3つの区別が難しくなることでしょうか。

 

① 本当に専門家として尊敬して「先生」と呼んでくれる人

② ただ、世の中の習慣として「○○さん」の「さん」の代わりに「先生」を使う人

③ とりあえず、おだててなんとか自分のメリットのある方に持って行こうとするために「先生」と呼ぶ人

この3つの区別を間違えると、交渉ごとでも、人間としてのつきあいでも失敗したりします。

 

もう一つのデメリットは、「先生」と呼ばれることで、「自分はエラいんだ」と弁護士自身が勘違いしてしまうリスクがあることでしょうか。

 

「先生」と呼ぶ以上、バカにして言うのでない限り、相手は弁護士に対して丁寧な態度で接してくれることになります。

 

そうすると、相手がそのような態度で接してくれることを当然だと思って、つい威張ったり、謝罪すべき所で謝罪できない人間になってしまう危険性があることでしょう。

 

私自身、サラリーマン時代と弁護士になってからとで、社会における扱われ方が余りに違うことに戸惑いを覚えた経験があり、その感覚は常に忘れないでいようと思っています。

 

私の場合で言わせていただくと、依頼者の方々は、「谷川先生」「谷川さん」両方の呼び方をされています。

 

私は、依頼者の方々の好きな呼び方で良いと思うので、どちらの呼び方についても何も訂正をすることはありません。

 

ただ、法曹以外での懇親会、商工会議所でのお付き合い、異業種交流会、フェイスブックなど通常のコミュニケーションをとることが大事な時は、「先生」という呼び方は障害になります

 

ですからできるだけ「谷川さん」と呼んで欲しいと伝えるようにしています。

 

また、仕事のご依頼を受ける場合でも、専門家としての知識・技術について一定の評価をしていただいた上で、「谷川さん」と呼ばれるのも嬉しいですね。

 

敬意と親しみの両方が感じられますので。

 

今後も、私の事務所では、呼び方はご相談者にお任せして、特にこだわらないスタンスでいきますが、ご遠慮なく「谷川さん」と呼んでいただきたいと思います。

 

「しまった!「谷川」だったか、「北川」だったか分からなくなった!」という時には、「先生」でごまかしましょう(笑)。

 

明確な正解というものはないということなので、私なりの考えを書かせていただきました。

 

なお、ここに書いたことは、私だけの考えかもしれないので、私の事務所でだけ通用するお話と思っていただいた方が良いと思います。

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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