あるホームセンターで、中学生の男子生徒を刃物で刺した男が逮捕されました。
男は男子生徒を刺した後、自動車で逃走しましたが、コンビニ店に駐車している所を、警察官に職務質問されて、容疑を認めたそうです。
この事件では、職務質問で容疑をすぐに認めているので、緊急逮捕が出来たのだと思います。
「職務質問」という言葉は聞いたことがある方はいると思います。
警察官が、職務を執行する上で、必要な場合に出来る質問です。
法律では「警察官職務執行法(けいさつかんしょくむしっこうほう)」の2条で定めされています。
この規定では、警察官が質問をできる者を次の二つとしています。
① 異常な挙動などから、何らかの犯罪を犯したり、犯そうとしていると疑われる者
② 犯罪が行われたり、行われようとしていることについて知っていると認められる者
です。
今回の事件では、自動車の色やナンバーから、①の理由があるということで職務質問をしたのだと思います。
この職務質問は強制的なものではなく、あくまで任意の手続です。
ですから、応じるかどうかは、質問を受けた人の自由です。
でも、今回のように重大な犯罪を犯した可能性が極めて高い場合に、被疑者が逃げようとするのに何もできないというのでは、あまりに無力です。
そこで、判例では、任意処分であることを前提に、必要かつ相当な行為であれば、一定の有形力の行使を認めています。
例えば、今回の事件で、被疑者が警察官の質問に答えずに逃走しようとした場合には、エンジンキーを取り上げてこれを返還しない程度の行為はできます。
これに対して、被疑者自身の体を直接拘束するような行為は、職務質問をするため停止させるという範囲を超えてしまい、違法となります。
何か、微妙な表現で分かりにくいかもしれません。
実は、その分かりにくさが、刑事手続を定める刑事訴訟法の考え方の基本なんです。
刑事訴訟法の勉強をすると、「人権保障」と「真実発見」のバランスをどのようにとるかという問題を何回も問われます。
質問に伴ってあまり強制的な力を警察官に与えてしまうと、私達市民の自由(人権保障)が侵害されます。
かといって、質問は全くの任意で無視しても良いとすると、今回のような重大な事件の場合に、被疑者を逮捕して本当に犯罪を犯したか調べること(真実発見)が害されます。
そこで、判例では、両方のバランスをとろうとして、上に書いたような基準をとっているんですね。
もし、皆さんが、警察官から質問を受けた場合には、
上記の①②のどちらの事由で質問しているのか
人権保障と真実発見のバランスは適切か
などを考えてみると良いかもしれませんね。