民法改正(令和2年4月1日施行)
損害賠償による代位を規定しました。
損害賠償による代位(422条の2)を規定
履行不能と同一の原因で債務者が代償である(代わりとなる)権利または利益を取得したときには、債権者はその権利の移転又は利益の償還を債務者に求めることができます(代償請求権)。
民法改正(令和2年4月1日施行)
損害賠償による代位を規定しました。
損害賠償による代位(422条の2)を規定
履行不能と同一の原因で債務者が代償である(代わりとなる)権利または利益を取得したときには、債権者はその権利の移転又は利益の償還を債務者に求めることができます(代償請求権)。
民法改正(令和2年4月1日施行)
過失相殺の規定を従前の実務に合わせて明文化しました。
過失相殺で考慮すべき事由を「債務の不履行またはこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったとき」とより明確に定めました(418条)。
つまり、債務不履行についての債権者の過失のみならず,損害の発生または拡大についての過失も考慮すべきことを明らかにしたものです。
民法改正(令和2年4月1日施行)
損害が生じる範囲(相当因果関係)の要件が見直されました。
特別の事情に基づく損害賠償の要件の見直し(416条2項)
・旧法:「予見し、又は予見することができたとき」
改正法⇒「予見すべきであったとき」
・旧法では、債務者が「予見することができたとき」に損害賠償の責任を負うと規定されていました。
・この解釈を、実務では債務者自身が予見することができたか否かではなく、「一般的な人であれば予見できたかどうか?」という基準で解釈していました。
・この解釈によると、「一般的な人であれば予見できたとき=予見すべきであったとき」となり、これを明文化したことになります。
【予見すべきとは言えない場合の具体例】
例えば、土地がA→B→Cと転売されたとき、Aが土地の名義を移転できないというような債務不履行があったとします。
この場合、AはBに対して損害賠償の義務を負います。
もっとも、その損害賠償の範囲は「Aが予見すべきであった」範囲に限られます。
そこで、例えばBとCとの間で、債務不履行があったときには高額の損害賠償金を支払う約束となっていて、Bがその賠償義務を負ったとしても、Aが契約時にそのことを知らなかったのであれば、AはBにその高額の損害賠償を支払う義務まではありません。
民法改正(令和2年4月1日施行)
債務不履行となる場合の要件を整理しました。
1 全ての債務不履行についての損害賠償の要件を整理(415条1項)
・旧法では、履行不能についてだけ、債務者に責任がある事情(帰責事由)を定めていました。
・しかし、解釈上、この帰責事由は全ての債務不履行に共通するものであるため、これを「債務の本旨に従った履行をしないとき」も含めて、全ての債務不履行の要件として規定しました。
・条文の形式を、債務不履行があれば、原則として債務者は損害賠償の責任を負い、債務者に責任がない事由によるときだけその責任を負わないと規定しました。
これにより、債務者の方が自らに責任がないことを証明しないと損害賠償の責任を負うことが明文化されました(立証責任の明確化)。
・帰責事由が給付内容や不履行の態様から一律に定まるのではなく
① 債務の発生原因となった契約に関する諸事情
② 取引に関する社会通念
も勘案することを規定の中で明確にしました。
2 帰責事由の判断枠組みの明確化(415条2項)
・債務の履行に代わる損害賠償(填補賠償)の請求ができる場合を、従来の解釈を参考にしつつ3類型に定めました。
① 履行が不能であるとき
② 債務者が拒絶の意思を(後に意思が変わることがないほど)明確に表示したとき
③ 契約を解除したとき,又は債務不履行による解除権が発生したとき
民法改正(令和2年4月1日施行)
履行遅滞と履行不能の規定が整理されました。
1 不確定期限の履行遅滞(412条2項)
・「期限到来を知った時」に加えて、「期限到来後に請求を受けた時」も履行遅滞になると規定しました。
・これは、改正前も解釈上争われていないけれど、条文に明示されていないことを明らかにしたものです。
2 履行不能の規定の新設(412条の2)
(1)履行不能の原則を新設
・旧法では履行不能について明文の規定がなかったため、条文に履行不能の時には履行請求権が消滅することを明確に定めました(1項)。
・履行不能は物理的な不能に限らず、以下の①②の場合も含むことを確認しています。
① 債務の発生原因となった契約に関する諸事情
② 取引上の社会通念を考慮して債務者に履行を期待することが相当でない場合
・契約成立時に不能(原始的不能)であった場合でも、債務者に不能にした責任があれば、債権者は損害賠償できることを明確にしました(2項)。
(2)遅滞後の不能(413条の2・1項)
・旧法では、債務者に責任のある事情で履行が遅れた後に、債権者にも債務者にも責任のない事由により履行不能になった場合の規定がありませんでした。
・そこで、旧法での通説での解釈と同様に、そのような場合には債務者に責任が生じることを明文化しました。
民法改正(令和2年4月1日施行)
債権者が弁済を受け取らない場合(受領遅滞)の規定を明文化しました。
受領遅滞の効果を、旧法では「遅滞の責任を負う」とだけ規定されていたところ、これを具体的に規定しました。
(1)注意義務の軽減(413条1項)
・受領遅滞が生じた後は、善良な管理者としての義務が軽減されて、「自己の財産に対するのと同一の注意義務」で足りると規定しました。
(2)増加した履行費用の債権者負担(413条2項)
・受領遅滞によって、履行のために必要な費用が増えたときには、これを債権者が負担することを明記しました。
民法改正(令和2年4月1日施行)
債権の目的に関する改正がされました。
1 善管注意義務の内容や程度の明示(400条)
これまで「善良な管理者の注意をもって」とだけ規定されていましたが、その判断をどうするかについては規定さえていませんでした。
実務では、善良な管理者としての注意義務の内容は、一律に決められるものではなく、契約の性質、その契約の具体的な目的、契約の締結に至る事情を前提に取引上の社会通念に基づいて判断されるとされていました。
そこで、その実務の取り扱いを条文上も明確にするため「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」と明確に規定しました。
2 選択債権の特定要件の見直し(410条)
選択債権の場合、旧法では、選択債権の給付に不能なものがあるとき、例えば給付する自動車が交通事故で全損してしまった場合には、他の残る債権が当然に債権の目的となるとしていました。
しかし、その全損により多額の保険金が出るような場合には、不能な給付を選択する事もあり得ます。
逆に、その交通事故が選択する権利を持つ人(選択権者)の過失によるものだった場合には、そのような有利な選択権を持たせるべきではありません。
そこで、給付の不能が選択権者に過失がある場合にだけ、残存する給付が当然に債権の目的となると改正しました。
民法改正(令和2年4月1日施行)
消滅時効が止まる場合の言葉や仕組みが変わりました。
1 消滅時効の完成猶予と更新(147条~161条)
・旧法の時効に関する言葉を日常用語として理解しやすいものに換えまし た。
(1)今まで時効の「停止」と言われていたものを「完成猶予」としました。
これは、時効の「完成猶予」とは猶予事由が発生しても時効期間の進行自体は止まりませんが、本来の時効期間を経過しても一定の時期までは時効は完成しないという制度です。
(2)今まで時効の「中断」と言われていたものを、「更新」としました。
これは、時効期間の「更新」とは、これまでの時効期間の経過が更新されて、再度、ゼロから期間が起算されるという制度です。
2 裁判上の請求等
(1)消滅時効の完成猶予の事由
・以下の事情があると時効の完成が猶予されます。
①裁判上の請求
②支払督促
③裁判上の和解・民事調停・家事調停
④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加
・訴状が却下されて被告に送達されない場合には、①の裁判上の請求 にはあたりません。
・訴訟要件を欠く訴え(例えば、訴訟の当事者に訴訟を続けるだけの能力がない場合など)について、訴状が被告への送達がされた後、訴えが却下されたような場合には、①にあたり、時効の完成猶予の効果だけが生じます。
(2)消滅時効期間が更新される事由
・上記(1)により、確定判決又は確定判決と同一の効力により権利が確定した場合には、消滅時効期間が更新されます。
・例えば、裁判を起こすと時効の完成が猶予され、裁判上の和解や判決で権利が確定すれば、その時点で消滅時効期間が更新されるということになります。
3 強制執行等
・以下の事由があると時効の完成が猶予されます。
→ ①強制執行
②担保権の実行
③形式競売(民事執行法195条)
④財産開示手続
・上記①~④の手続が終了した後、いずれも時効期間の更新の効果が生じます。
4 仮差押え等
・以下の①②の事由があると終了後6ヵ月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
①仮差押え
②仮処分
・上記①、②の事由があっても、時効期間の更新の効果は生じません。もし、更新したければ、別途、裁判を起こすなどの手続が必要となります。
5 催告
・催告のときから6ヵ月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
・再度の催告、協議を行う旨の合意(下記7項)の最中での催告には 猶予の効果は生じません。
6 協議を行う旨の合意(151条)
・権利に関する争いについて、争いを解決するための協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録)でされたときには、
① 合意時から1年間
② 当事者が1年未満の期間を定めたときにはその期間
時効の完成が猶予されます。
・協議続行を拒絶する通知が、一方から他方に書面(電磁的記録)でなさ れたときは、通知時から6ヵ月で時効完成を猶予する期間は終了します。
・協議が長引いたときには、再度、協議を行う旨の合意をすることも可能です。
・但し、その再度の協議による延長も、本来の時効が完成すべき時から通算して5年を超えることができません。
7 6ヵ月間の時効の完成猶予(158条~160条)
・未成年者、成年被後見人について、時効期間の満了前6ヶ月以内に保護者(親権者・後見人)がいないときには、保護者がついたときから6ヶ月間は消滅時効の完成は猶予されます(158条)。
・夫婦間の権利については、離婚などから6ヶ月を経過するまでは時効の 完成は猶予されます(159条)。
・相続財産については、相続人が確定した時から(相続人がいないときに は相続財産管理人が選任された時から)、6ヶ月経過するまでは時効の完成が猶予されます。
8 天災等による時効の完成猶予(161条)
・天災などが起きたときには、それが止んだときから3ヶ月経過するまで は、時効の完成は猶予されます。
・旧法ではこの猶予期間が「2週間」と短かすぎたので、これを現実に即して「3ヵ月」に延長したものです。
民法改正(令和2年4月1日施行)
旧法の短期消滅時効を廃止して、一部の債権について例外的な既定を設けました。
1 短期消滅時効の特例の廃止
旧法で定められていた原則の時効期間よりも短い時効期間の定めが廃止されました。
・職業別に短い消滅時効の特例が定められていましたが(旧法170条~174条)、これらを廃止しました。
・商事消滅時効(商法522条)について定められていた時効期間も廃止されました。
・これらは、新たに定められた改正法の原則(主観的起算点から5年、客観的起算点から10年)に従うことになります。
2 定期金債権・定期給付債権(基本権)の消滅時効(168条1項)
・改正法の原則で、主観的起算点と客観的起算点に分けて時効期間を定めていることから、定期金債権等についてもこれに合わせた改正をしました。
・支分権である定期給付債権については、支分権である定期給付債権が
・権利行使可能であることを知った時から10年間
・権利行使可能な時から20年間
で時効消滅します。
3 人の生命・身体の侵害(債務不履行)による損害賠償請求の特則(16
7条1項)
・人の生命・身体への侵害による損害賠償請求権については、被害者保護のために原則よりも長い時効期間を定めました。
すなわち、
・権利行使可能であることを知った時から5年間
・権利行使可能時から20年間
で時効消滅します。
4 不法行為による損害賠償請求の特則
(1)通常の不法行為(724条)
不法行為については、従来と同じ期間ですが、20年間という期間の性質を除斥期間という特殊なものではなく、時効期間であることを明確にしました。
・損害及び加害者を知った時から3年間
・不法行為時から20年間
で時効消滅します。
(2)人の生命又は身体を害する不法行為(724条の2)
・この場合も被害者を保護するため期間を長くしています。
すなわち、
・損害及び加害者を知った時から5年間
・不法行為時から20年間
を経て初めて時効消滅します。
(3)除斥期間と消滅時効期間
・上に書いたとおり、20年間の期間を除斥期間ではなく消滅時効期間と明示しています。
・つまり、除斥期間では認められなかった時効の完成猶予、更新が認められるようになったということです。
民法改正(令和2年4月1日施行)
消滅時効の期間が始まる時(起算点)と債権の時効期間の原則が変わりました。
1 主観的な起算点
・債権者等が権利行使可能であることを知った時から5年間が債権の消滅時効期間の原則となりました(166条1項1号)。
・時効期間が経過したと主張するためには、以下の①、②の両方を充たすことが必要です。
① 債権者等が、
・権利の発生原因
・権利行使の相手方となる債務者
両方を認識していること双方の認識があること
② 債権者等が、自らの権利を行使できるといえる状態にあること
です。
・不確定期限(支払いの期限が不確定な場合)や停止条件(一定の条件を満たさないと債権が発生しない場合)は、期限到来又は条件成就を債権者が認識していることが必要です。
・確定期限(「〇年〇月〇日に支払う」というように期限が確定している場合)については、契約時にその期限を認識していれば足ります。
・債権者が亡くなったときには、その相続人は被相続人(亡くなった方)の期限の認識を引き継ぐことになります。
2 客観的な起算点
・債権者が権利行使可能なことを知らなくても、権利行使が可能な時から10年間経過すれば債権の消滅時効は完成します(166条1項2号)。
3 特別な時効期間
・民法以外の法律で、別途時効期間が定められているものは、その法律に従います。
例えば
・労働者の賃金債権は2年間
・保険金請求権は3年間
が消滅時効期間となります。
・また、製造物責任法では、生命・身体侵害の場合には、(1)と同様に、権利行使可能であることを知った時(主観的起算点)から5年間となりました。