民法改正(令和2年4月1日施行)
連帯債務を中心とした多数当事者の債権・債務関係について、分類を見直すとともに、債務者間の内部的効果などについて改正をしています(なお、保証債務は別ページに記載)。
1 分類の見直し
債務の目的が、その性質上、分割可能なもの(例えば金銭債権)と、分割できないもの(例えば土地明け渡し請求権)とをまず区別した上で、整理することにしました。
旧法では、分割可能か、不可能かを区別する基準として当事者の意思も考慮して「当事者の合意によって不可分とされたもの」は不可分としていました。
改正法では、この部分を削除して「目的が性質上不可分なもの」だけを不可分債権・不可分債務とすることにしました。
2 連帯債権の規定を新設
(1)連帯債権とは
債権の目的は性質上可分(例えば金銭債権)ですが、分割せずに複数の債権者それぞれが全部の履行を請求することを許す債権をいいます。
例えば、Aが50万円、Bが50万円を合わせてCに貸した場合、金銭債権は分割可能ですから、本来は、AもBも50万円しかCに請求できません。
それを、当事者の合意で、AもBも100万円を請求できるとしたのが連帯債権です。
ただ、Cは合計して100万円を支払えば良いので、AかBのいずれかに100万円を支払えば債務を免れます。
(2)相対的効力の原則(435条の2)
連帯債権者の1人に生じた事由は、他の連帯債権者に効力を生じません。
但し、債務者Cと連帯債権者Aとの間で、連帯債権者Bとの事由がAにも効力を及ぼす旨の別段の意思を表示したときには、その意思に従います。
(3)絶対的効力を生ずる事由
絶対的効力とは、連帯債権者の1人に生じた事由が、他の債権者にも影響を及ぼすことをいいます。
① 履行請求・弁済(432条)
連帯債権者は、各自が全ての債権者のために、債務者に対して全部又は一部の履行を請求することができます。
逆に、債務者も、全ての連帯債権者のために、各連帯債権者に履行をすることで債務を免れることがでます。
② 更改・免除(433条)
連帯債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その債権者の1人が受ける利益の限度で絶対的効力を生じます。
③ 相殺(434条)
債務者が、債権者の1人に対して相殺の援用をした場合、相殺による債権の消滅は他の債権者にも効力を及ぼします。
④ 混同(435条)
債権者の1人と債務者との法的地位が混同した場合(例えば、債務者が債権者を相続した場合など)には、債務者は弁済をしたものとみなされます。
従って、弁済とみなされることで、連帯債権は消滅することになります。
3 連帯債務の絶対的効力の縮小
(1)相対的効力の原則(441条)
連帯債務については相対的効力が原則とされています。
相対的効力とは、連帯債務者の1人に生じた事由は、他の連帯債務者に効力を生じないことをいいます。
但し、弁済、それに準ずる相殺、更改、混同については、債務者は責任を果たしていますから、絶対的効力により全ての債務が消滅することとなります。
相対的効力の原則から、債権者による債務者の1人への履行の請求(例えば、時効更新・完成猶予)も相対的効力しかなく、他の債務者に影響を及ぼしません。
但し、債権者Aと連帯債務者Bとの間で、「連帯債務者Cとの事由がBにも効力を及ぼす」という趣旨の意思を特別に表示したときには、その意思に従います。
(3)絶対的効力を生ずる事由
以下の場合は例外的に、債務者の1人に生じた事由が他の債務者に影響を及ぼす(絶対的効力)事由です。
① 相殺(439条)
相殺を援用したときには、弁済と同様に絶対的効力を生じます。
また、例えば、連帯債務者Bが債権者Aに対する反対債権による相殺を援用しないときには、連帯債務者CはBの負担部分の限度で、債務の履行を拒絶することができます。
これは、負担部分の限度でのみ相殺の援用を認めていた旧法を改正したものです。
② 債務の免除(旧法の条文削除)
負担部分の限度で絶対的効力を生ずるとしていた旧法の規定を削除しました。
③ 時効の完成(439条)
債権者が債務者に請求をした場合に、時効の更新・完成猶予が相対的な効力しか生じないことから、時効完成についても債務者ごとに消滅の効果を生じるとして、相対効の原則を適用することとしました。
4 連帯債務の求償権に関する見直し
(1)求償権の要件と額(442条1項)
債権者が、債務者に求償する要件として、弁済等、共同の免責を得た額が、求償を求める連帯債務者の負担部分を超えていることを要しません。
これは、旧法下での実務の取り扱いを明文化したものです。
同様に、求償額の上限が共同の免責を得た額に止まることを明文化しました。
(2)事前通知と求償権(443条1項)
連帯債務者Aが他の連帯債務者Bがいることを知りながら、事前通知をしないで弁済等をしたときには、Bは、債権者に対抗できる事由を、Aに対しても対抗できます。
(3)事後通知と求償権(443条2項)
連帯債務者Aが他の連帯債務者Bがいることを知りながら、債権者に「弁済した」などの事後の通知を怠った結果、Bがその後に弁済等をしたときには、Bの弁済等の方を有効とみなします。
この場合、債権者は二重に弁済を受けていますから、Aは債権者に弁済してしまった分を返すように求めることはできます(不当利得返還請求)。
(4)無資力者の負担部分の分担(444条)
連帯債務者に無資力者がいて負担部分全額の求償ができないときには、負担部分割合(負担部分がないときには頭数割合)で、各債務者がリスクを負担します。
もっとも、求償をする者が無資力なのに求償を放置するなど、回収不能につき過失があるときには、他の債務者に無資力者から回収できないリスクの負担を求めることはできません。
債権者が連帯の免除をしても、無資力者からの回収ができない場合の負担までは引き受けることはありません(旧法445条を削除)。
(5)免除・時効の完成と求償権(445条)
連帯債務者Aにつき債務免除・消滅時効完成しても、債権者は連帯債務者Bに対して債権全額の請求をすることができます。
そこで、全額支払ったBは、Aに負担部分全額の請求ができる。
なお、Aは債権者に求償相当額の請求はできなません。なぜなら、連帯債務の担保機能を強化するために当事者が連帯債務としたことを重視する必要があるからです。
5 不可分債権・不可分債務の改正
(1)不可分債権の見直し(428条)
不可分債権についても連帯債権の規定を準用します。但し、不可分債権の場合には、更改・免除・混同の場合にも相対的効力しか生じません(428条)。
更改・免除の場合には、不可分債権者は分与されるべき利益(負担部分に対応)を債務者に償還します(429条)。
(2)不可分債務の見直し
不可分債務についても、連帯債権の規定を準用します。但し、不可分債務の場合には、混同の場合にも相対的効力しか生じません(430条)。