民法改正(令和2年4月1日施行)
賃貸借契約の期間、当事者の権利義務など一般的な規定について改正をしています(なお、原状回復義務については別ページに記載)。
1 賃借物返還義務の明確化(601条)
賃借人は、契約に基づいて受け取った物を契約終了後には賃貸人に返さなければなりません。
例えば、レンタカーは期限後に返さなければ行けませんし、建物を借りたら契約終了時には明け渡さなければいけません。
これは旧法下でも当然のこととして扱われていましたが、条文には記載されていませんでした。
この契約終了時の返還義務を改正法は契約の要素として条文に明記しました。
2 短期賃貸借の改正(602条)
旧法では「処分につき行為能力の制限を受けた者」でも短期の賃貸借ならできる旨の記載がありました。
しかし、この文言からは、未成年者や成年被後見人が短期賃貸借できるとの誤解を与えかねません。
そこで、改正法では「処分につき行為能力の制限を受けた者」の文言を削除しました。
また、この条文に定めている期限を越えた賃貸借は、その超えた部分だけ無効となる旨を明文化しました。
3 賃貸借の存続期間の上限伸長(604条)
賃貸借契約の民法上の上限は旧法では20年と定められていました。
しかし、現代ではゴルフ場の敷地の賃貸借や大型機械のリースなど長期にわたる賃貸借も珍しくないことから、20年の上限では短すぎると言われていました。
そこで、永小作権の存続期間が50年とされていること(278条)との均衡から、賃借権についても上限を上限50年に改正しました。
なお、借地借家法により、建物所有目的の土地賃貸借及び建物賃貸借については上限は設けないこととされていることに注意が必要です。
4 賃貸物の修繕
賃貸借契約においては、賃貸人が修繕義務を負います。
もっとも、賃借人が配管に流してはいけない物を流して修繕が必要になった場合など、賃借人に責任(帰責事由)がある場合はには、賃借人が修繕すべきであり、賃貸人には修繕の義務はありません。
旧法で規定のなかった賃借人に帰責事由ある場合について、改正法は明文化しました(606条1項但書)。
また、賃借人が修理しなければ困る場合もあるため、例外的に修繕できる場合を明文で定めました。
以下の①、②の場合には、賃借人は自ら修繕をすることができます。
① 賃借人からの要修繕の通知があったり、賃貸人がその旨知ったにもかかわらず相当期間内に修繕しないとき
② 急迫の事情があるとき
賃借人がこの修繕をしたときには、これを賃借物を維持するための必要な費用(必要費)として、賃貸人に立て替えたお金を請求(償還請求)することができます(608条1項)。
5 賃料の減額
(1)賃料の減額請求
旧法では、収益を目的とする土地の賃貸借について、賃借人が賃料を減額請求できる場合を規定していました。
しかし、賃料減額請求を収益を目的とする土地の全ての事例に適用されるルールとして存続させることは適切でないとの指摘もありありました。
そこで、「耕作又は牧畜を目的とする土地」の賃貸借に限定して、不可抗力による収益減少により賃料より収益が減った場合には、賃料をその額まで請求できると改めました。
(2)賃料の当然減額
旧法において、賃借物の一部が賃借人の責任のない事情で滅失したときには、賃料の当然減額が認められていました。
改正法では、賃料が減額する場合を一部滅失よりも拡張して、「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」についても賃料が当然に減額することを規定しました。
6 賃借物の滅失等による終了
賃借人の責任の有無にかかわらず、賃借物の一部が滅失したり、その他の事由により使用及び収益できなくなった場合には、賃借人は契約を解除できる旨、明文化しました(611条2項)。
なお、賃借物の一部ではなく、全部が使用収益できなくなった場合には、賃貸借契約は当然に終了する(616条の2)ため、賃料もそれ以降は発生しません。
7 転貸借
AがBに貸した物を、更にBがCに又貸し(転貸)したとします。
この場合、転借人(C)は賃貸人(A)に対しても直接、賃料を支払うなどの義務を負います。
この転借人(C)の賃貸人(A)に対する義務の範囲について、旧法では規定がありませんでした。
これを改正法で明確化し、転借人(C)の義務は、原賃貸借(AB間の賃貸借)に基づく賃借人(B)の債務の範囲に限定されることを明文化しました(613条1項)。
また、賃貸人(A)と賃借人(B)との合意解除を、適法な転借人(C)に対抗できないとしていた最高裁の判例を条文として定めました(613条3項)。