民法改正(令和2年4月1日施行)
消滅時効が止まる場合の言葉や仕組みが変わりました。
1 消滅時効の完成猶予と更新(147条~161条)
・旧法の時効に関する言葉を日常用語として理解しやすいものに換えまし た。
(1)今まで時効の「停止」と言われていたものを「完成猶予」としました。
これは、時効の「完成猶予」とは猶予事由が発生しても時効期間の進行自体は止まりませんが、本来の時効期間を経過しても一定の時期までは時効は完成しないという制度です。
(2)今まで時効の「中断」と言われていたものを、「更新」としました。
これは、時効期間の「更新」とは、これまでの時効期間の経過が更新されて、再度、ゼロから期間が起算されるという制度です。
2 裁判上の請求等
(1)消滅時効の完成猶予の事由
・以下の事情があると時効の完成が猶予されます。
①裁判上の請求
②支払督促
③裁判上の和解・民事調停・家事調停
④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加
・訴状が却下されて被告に送達されない場合には、①の裁判上の請求 にはあたりません。
・訴訟要件を欠く訴え(例えば、訴訟の当事者に訴訟を続けるだけの能力がない場合など)について、訴状が被告への送達がされた後、訴えが却下されたような場合には、①にあたり、時効の完成猶予の効果だけが生じます。
(2)消滅時効期間が更新される事由
・上記(1)により、確定判決又は確定判決と同一の効力により権利が確定した場合には、消滅時効期間が更新されます。
・例えば、裁判を起こすと時効の完成が猶予され、裁判上の和解や判決で権利が確定すれば、その時点で消滅時効期間が更新されるということになります。
3 強制執行等
・以下の事由があると時効の完成が猶予されます。
→ ①強制執行
②担保権の実行
③形式競売(民事執行法195条)
④財産開示手続
・上記①~④の手続が終了した後、いずれも時効期間の更新の効果が生じます。
4 仮差押え等
・以下の①②の事由があると終了後6ヵ月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
①仮差押え
②仮処分
・上記①、②の事由があっても、時効期間の更新の効果は生じません。もし、更新したければ、別途、裁判を起こすなどの手続が必要となります。
5 催告
・催告のときから6ヵ月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
・再度の催告、協議を行う旨の合意(下記7項)の最中での催告には 猶予の効果は生じません。
6 協議を行う旨の合意(151条)
・権利に関する争いについて、争いを解決するための協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録)でされたときには、
① 合意時から1年間
② 当事者が1年未満の期間を定めたときにはその期間
時効の完成が猶予されます。
・協議続行を拒絶する通知が、一方から他方に書面(電磁的記録)でなさ れたときは、通知時から6ヵ月で時効完成を猶予する期間は終了します。
・協議が長引いたときには、再度、協議を行う旨の合意をすることも可能です。
・但し、その再度の協議による延長も、本来の時効が完成すべき時から通算して5年を超えることができません。
7 6ヵ月間の時効の完成猶予(158条~160条)
・未成年者、成年被後見人について、時効期間の満了前6ヶ月以内に保護者(親権者・後見人)がいないときには、保護者がついたときから6ヶ月間は消滅時効の完成は猶予されます(158条)。
・夫婦間の権利については、離婚などから6ヶ月を経過するまでは時効の 完成は猶予されます(159条)。
・相続財産については、相続人が確定した時から(相続人がいないときに は相続財産管理人が選任された時から)、6ヶ月経過するまでは時効の完成が猶予されます。
8 天災等による時効の完成猶予(161条)
・天災などが起きたときには、それが止んだときから3ヶ月経過するまで は、時効の完成は猶予されます。
・旧法ではこの猶予期間が「2週間」と短かすぎたので、これを現実に即して「3ヵ月」に延長したものです。